魔改造現代童話 人魚姫
完全にふとした思い付きで書いた。
美女と野獣編とは話は関係してないから気にせず読んでください。
第二話「人魚姫」
「人体の下半身を魚類に変える画期的な薬を作ったんだ」
「画期的というか斜め上に突き抜けてます」
ある日の放課後、実験室にいる久保千佳の呼び出しで顔を出した収拾院。突然倫理的な何かに触れそうな薬を紹介され、彼女の心中は困と惑の二文字で埋め尽くされていた。
「というか遺伝子操作云々的にアウトですよねそれ」
「いや。これで人類は食糧問題を解決するすべを手に入れたんだよ。収拾院くん」
「ご存じないかもしれないですけど人って下半身失ったらほぼ確実に死にますよ」
「死なない程度に食べれば問題ないよ。下半身は治癒力も魚類並みになるから」
「魚類並みの治癒力って、全然パってしないんですけど…」
収拾院は、久保千佳の持っている小瓶の中身をじっと見る。なぜかやけに赤かった。まるで回転ずしで流れてくるマグロのように。
「何で赤いんですか?」
「マグロエキスが主成分だからさ」
「え下半身マグロになるんですか!?」
「言ったじゃないか、食糧問題解決って」
「もっとましなチョイスありましたよね絶対」
下半身マグロというとなんか妙に、反応が悪い感じがして収拾院はさらに微妙な気分になる。
「で、それどうするんですか?」
「うん。それじゃあ飲んでくれるかい?収拾院くん」
「絶対嫌です」
「収拾院ッ!!」
「わたくしー、ぜったいー、飲みませんわよぉー」
「ノリが悪いと思う…」
「それ飲んで下半身の油のノリがよくなるよりはマシです」
はぁ、とため息ひとつ。久保千佳は瓶を机の上に置く。そのまま白衣のポッケに手を突っ込んで机にもたれかかる。
「どうしよっかこれ」
「ほんと何で作ったんですか?」
「遊び心に決まってるだろ!」
「知りませんよ!もー!!」
「いやな、最初は自分で飲もうと思ったんだよ。だけど思い返すと私はそんなにマグロが好きじゃなかったんだ。回転ずしで取るネタはいつも炙りバジルサーモンなんだよ私」
「下半身炙りバジルサーモンにする薬作れば解決でしたよね」
「うん、だから今度上半身を炙りバジルサーモンにする薬を作りたいと思う」
「炙り魚人…………」
というかそうなって人は生きていられるのかと素朴な疑問が頭をよぎるが、あえてスルー。
「だから可愛い人に飲んでもらえば、人魚姫の誕生じゃないか?というわけで収拾院くんを読んだんだけど」
「絶対嫌です。マグロ姫だなんて不名誉極まりないですし」
「女性としても?多分ローションいらずだよ」
「ベッドめっちゃ臭くなりそうですよね。ていうかマグロ姫自体そうとうヤバいワードですから」
「まぁ、そういうわけで。どうすればいいと思う?この薬」
「先輩。捨てましょ」
「そういう正論は求めてないぞ!!もっと役に立てる方向性で!!オタサーの姫にこれを飲ませるとか!!」
「地獄絵図じゃないですか。あ、一つ気になったんですけど」
ん?と首をかしげる久保千佳。そのまま収拾院は疑問を口にした。
「マグロにこれ投薬したらどうなるんですか?」
収拾院家の備え付きの手術室。中央の手術台には一匹のマグロが生命維持装置をつながれて横たわっていた。二人と急に連れてこられた一人は、マスクゴーグル手袋を装備して、マグロを取り囲んだ。
「なんか悪いね、わざわざ場所まで借りて」
「いいんですよ、個人的に結果が気になるんで」
「いやぁーなんで私は呼ばれたわけ?」
なぜか呼び出しをくらい、その場に召喚された遠野は意味不明な光景を眺めながらぼやく。
「私じゃなくて八重っちでもよかったじゃん?」
「いや、八重先輩はこの光景見たら泣きそうだし」
「泣き方がくどいってオリィ・マーフィーから苦情が入りますから、しょうがないですよ」
「いや誰?誰だしオリィ・マーフィー」
「はーい始めるぞー」
久保千佳は白衣のポケットからマグロ薬の入った小瓶を取り出し、まるでサラリーマンが目玉焼きにソースをドバドバするような勢いでマグロの目に液体をぶちまけた。
「うわ馬鹿飛沫が飛ぶって」
「粘液で触れない限り問題ないから安心してくれ。さ、今から三分で結果が出るはず」
「ほんとどんな劇薬なんですかそれ……」
三分後。マグロを見るも特に外見の変化は見当たらなかった。
「マグロにマグロ状態は無効なのか、やっぱり」
「味はどうなってるんですかね」
「とりあえずインスタにあげとこ」
各々、自由にマグロを観察していたその時。
「タ、タスケテ」
突然マグロの口がパクパク開き、喋った。
「喋った!?!?!?!?!?!?!?」
「うわぁ予想外な方向ですよこれ、テンション下がるなぁ」
「うっわ…きもい」
「話ヲキイテクダサイ…ワタシハ第二マグロンド共和国の姫、マグ未デス」
急に始まるマグロの自分語り。久保千佳は目を輝かせ、収拾院は心底ウンザリし、遠野はただひたすらに引いた。
「ワタシノ国デ、悪ノマグロ竜ガメザメマシタ…。私ハ竜ヲ封印スルタメ、単独デ挑ンダノデスガ敗北シテ、キズツイタトコロヲ漁船二捕マリマシタ」
「マグロドラゴン?興味深いな」
「はぁ……絶対面倒なやつですわ」
「あ、話し終わったら呼んで~」
「ドウカオネガイガ、アリマス……」
「逃がしてほしいということか?」
「はやく逃がしましょ、面倒ですよ間違いなく」
「キモいし逃がそ!!レッツゴー!!」
「私ノタタカイ二、手ヲカシテイタダケナイデシ」
マグロ姫の言葉の途中でブチっと何かが切れる音が鳴り響く。マグロから生命維持装置が引き抜かれる音だった。
「さ、絞めましょ。今晩はマグロ祭りです」
生命装置を引き抜き、放り捨てた収拾院は家専属の板前を呼ぼうとスマホに手をかけた。
「なんてひどいことするんだ!?戦いに同行する流れじゃなかったのか!?」
「いやマグロの助けまでするほど暇じゃないんで、いいかなって」
「ヒュー、ノリちゃんダークぅ!」
「よく考えてください。これ竜倒したら黒幕のマグロとか宇宙マグロとかと戦わされる流れですよ」
「そんな流れゲームみたいなことあるわけ……」
「いやマグロドラゴンがもうゲームじゃん」
「ここはディスカバリーチャ〇ネルリスペクトで、マグロ界に人間が介入するのはなしという方向性で」
「言われてみればそうだな、マグロの争いになんで私たちが加わらなきゃいけないんだ」
「よーし解散!からのマグロパーティー!!」
遠野がそう叫んだそのとき、三人の頭を同じ内容がよぎった。
『さっきまで喋ってたマグロを食べるのってなんかキモくね?』、と。
翌日、学校の化学実験室にて。
「で、妥協案として石鹸にするそうです」
「ノリちゃんも斜め上の発想に行くよねたまに」
「人魚姫って最後泡になるじゃないですか?だからせめて泡になれるようにと。私なりの供養です」
その後収拾院の提案により、マグロは石鹸になることが決まった。久保千佳がマグロを石鹸にする作業を進めるのを眺めながら、二人はぼんやりしていた。
「結局マグロドラゴンって何だったんだろね」
「よくわかんないですけどTwitter映えするのは間違いないですね」
「できたぞ、マグロ石鹸!!」
ぱたぱたと駆け寄ってくる久保千佳、手にはいかにも普通の白い石鹸がにぎられていた。
「今回は前の反省を活かしてみたよ、これで収拾院くんの殺したマグロ姫も浮かばれるはず」
「じゃあ私が責任取ってこの石鹸試しますね」
久保千佳から石鹸を受け取り、水道で手を洗う収拾院。石鹸で手をこすると、虹色の泡がまわりの景色を映しプカプカと浮かんできた。
炙りバジルサーモンのにおいを漂わせながら。
「いや反省ってそっち!?!?!?!?!?」
第二部完
食べ物で遊ぶのはやめようね。