パラドックス
「それで、書類の確認の方はどんな具合?」
「え、ああ、それがさ、お袋が生活費を銀行から卸すのに、カード使ってないんだよ。銀行の引き出し申込みの控えがわんさか出てきたよ。」
「それじゃあ直接銀行に通帳と印鑑を持って、お金出してるってこと?、随分用心深いのね。」
「なにのん気なこと言ってるんだよ。これがどういうことか分からない?、非常にまずいと思うよ。」
「だって、元気になったらまた同じ様に卸すようになるんだよね?、そうすれば、貴方の仕送りも終りだし。」
「じゃあ逆に、もし、お袋が親父みたいに長期に入院したり、介護施設にお世話になったりした場合、そのお金どうする?」
「貴方が、お義母さんの代わりに引き出してあげればいいんじゃない・・あ、そうか、カードしか使えないから暗証番号が必要よね。ひょっとして、番号を知らないってこと?」
「ああ、俺の仕送りを断らないってことは、銀行印も番号も分からなくなっているのかもしれないな。」
表面的には、金の引き出しの問題に見えるが、このことは大きな理不尽が生まれるのを抱えている。このままでは、親父とお袋の年金による貯蓄が増大していく一方である。
「金持ち老人を作ることになるな。」
「ということは、私達のお金があの人達に渡ることになるかもしれないわね。」
頭の回るカミさん、この言葉が理解できた人は、それなりに知識がある者だろう。つまり、相続財産を通して、間接的にあのゲス人間達へ俺達の所得が奪われてしまうのである。全くふざけた話である。
「明日、お袋にカードと番号を聞いてみるよ。」
お金は争いのもとと言われる。余り、生々しい事は触れたくないのであるが、総てを押し付けられた被害者側が、更に押し付けたクソな奴等に施しをするというパラドックスをやはり許すことはできない。
# グツグツグツグツ・・・ “うそー、それホント?”“アハハハハ、やだあ ”
それにしてもモツの美味さに感嘆してしまう。柔らかいが腰を感じる噛みごたえと喉を通るまでに素材の味が途切れない食べ物とは、これ以外に味わったことがない。
「旦那様、〆は、どうしますか?」
「ちゃんぽん麺、うどん・・・やっぱり、おじやかなあ。」
そこには、カミさんの笑顔があった。




