暗黙の協定
何か状況に変化があったようである。
℡「“え、何、開いた?、大丈夫?、わかった。”・・・中断してすみません、今、窓が開いたそうです。一番奥の部屋のサッシの鍵は、ストッパーが完全に掛けられてなかったようで、何回か上下に動かしたら開いたみたいですね。」
℡「そうですか、開いてよかったです。」
℡「それでは、これからお母さんを搬送します。何処の病院になるか分かりませんが、追って連絡が来ると思いますので宜しくお願いします。 “それじゃあ玄関に回るからな。”」
隊員達の掛け声と共に、現場の様々な騒音が聞こえていた。多分、周囲の住民達も、この物々しい様子を見に集まっていたことだろう。救急車の世話になることなど一生に1、2度くらいのものだ。救命処置を施すほどではなかったと思うが、平穏無事な生活でいる我々に、緊急事態の緊迫感の中で絶対に平静でいられることはない。
そうして、翌日。
俺は、既に帰郷のため空港行きのバスで向かっているところであった。乗車中に搬送された病院から電話が掛かってきたが、エチケットとして車内で話すことは出来ない。また、留守電記録の再生を聞いていた。
℡“芦川様にお電話しておりますが宜しいでしょうか?、こちらは・・・”
何の因縁か、再び先に担ぎ込まれた救急病院からであった。まあ、その地域によっておそらく搬送先は決まってくるのであろうが、ここまで同じだと、消防署と暗黙の協定でも取り交わしているのではないかと勘ぐってしまう。そして空港に着くなり、さっそく折り返しである。
℡「# ツルルルル はい、H総合医療共済病院です。」
℡「すみません、芦川と申します。私の母がそちらにまたお世話になっているとのことで、折り返しいたしました。母の様子は如何でしょうか?」
℡「ええ、芦川様は、今回はこちらに一晩、臨時入院されまして、先ほどタクシーで自宅に戻られました。」




