着信
℡「お父さんがしんどいって言うから、救急車を呼んだんだよ。でも、心配しなくていいからね、手続きとかはもう慣れてるから来なくてもいいよ。」
もう何度か行っていたが、今回も手術をすることになったらしい。人間そう度々身体を切り取って大丈夫な訳が無い。ひょっとするともう限界かもしれないと思った。
℡「仕事で明日は向かないけど、すぐ行くからね。」
年末に里帰りしていたので、また十日程で行くことになる。大変なお袋は、それでも我が子に迷惑をかけまいとして気遣かってくれている。
℡「あんたは仕事があるから、来なくても大丈夫だよ。」
確かに俺は、いないとまずい業務を抱えていたので、すぐに向えるか迷うところであった。
℡「取り合えず明日、また電話するからさ、お袋、俺の仕事のことは考えなくても大丈夫だからさ。」
そんなやきもきしている時だった。携帯に別の着信が入って来たのである。見ると、あのクソ女からである。
『なんだ、あいつから掛けてくるなんて、またろくなことじゃないな。』
俺は、あいつがゴチャゴチャ伝言を入れているのを眺めながら、お袋と話していた。
℡「親父がヤバイんだよね?、必ず行くからね。」「そ~お、無理して来なくていいんだけどねえ。」
さっき言った様にお袋は強がりな性分だったので、そうそう騒ぎ立てるようなことはしない。それが初めて担ぎ込まれたことを言ってきた。これは本当に危ない状態なんだろうと察していた。
そうして、電話を終わりにして、さっそく頭の中でこれからどうするかと算段をイメージしていた。そして気が進まなかったが、あの女が入れた理解不能だろうと思う伝言を再生してみた。
℡“もしもし、私だけど、知ってる?、お父さんがまた病院に行ったらしいよ。あんたどうするの?、私はこの前会ったばかりだからねえ・・・電話下さい。”
予測通り、この勝手な言い草ということは、コイツ金がネエとか言い出して、行かないつもりなんだろうか。さんざん世話になった親が危篤になっているというのに、信じられん。そうか、ひょっとしてお袋から来なくても良いとワザワザ電話してきたのは、コイツが絡んでいるせいか?、今までは子供に迷惑をかけたくないと、事が落ち着いてから打ち明けられるので、大変だからその時に知らせろと怒っていたのに。この女が行かないと言い出したので、それでか。