暗転
℡“こちらは、FTTI留守番電話サービスです。お客様の番号に1件の伝言記録をお預かりしております。再生する場合はイチを、終了する場合はコメ印を押してください。”
ということで1番のキーを押す、と記録音声が流れた。
℡“もしもし、芦川さんの電話で宜しいですか。私は、H団地管理事務所、所長の峰本ですが、お母様のことでお電話致しました。恐れ入りますが至急折り返しお電話いただきたいのですが、宜しくお願いいたします。”
深くずっしりと重苦しい予感にのしかかられた。そう滅多に無いものであろうが、本当に不吉な感覚にみまわれるとはこのことである。全身が切迫感に暗転した。何かとんでもなくヤバイことが起こったぞと、頭に突き刺さった。
すぐさま、電話を折り返した。どんなことかと思い描いている隙など無い。そんな余裕を持つような悠長な危機感ではないからである。
℡“ツルルルル ツルルルル ” 「はい、峰本ですが。」
℡「すみません、芦川と申しますが、私の母のことで電話をいただきありがとうございます、それで折り返したのですが。」
℡「あ、息子さんですね、お伝えしておきたい事がありましてですね、お母様のことですが、1階の階段で倒れていらっしゃいまして、救急車を呼んだんですよ。買い物に出ようとしてらっしゃるようでした。ご本人は、大丈夫だからって言ってらっしゃいましたけど、ご家族に知らせないといけないと思い連絡した次第です。」
今更ながらではあるが、今のお袋の住んでいる所は、俺が生まれ育った家ではない。住み慣れてはいたが、その家は高台にあり、年を取った身体で出歩くには辛い生活の場となった。そこで、高齢者向けにバリアフリーを施してある街中の賃貸団地に引っ越したのである。
℡「それは大変ご迷惑をかけました、直ぐに里に帰ります。」
℡「失礼ですが、こちらには他にご親族の方はいないんですか?」
℡「ええ、付き添いをしてくれるような人は居ないんですよ。母の兄弟も当然年を取っていますから。」
℡「そうですか、遠方で大変でしょうが出来ればそうしていただければと私も思います。救急隊員の方には、芦川様の連絡先を伝えてありますので、じきに運ばれた病院から連絡が来ると思いますよ。」
℡「ありがとうございます、大変お世話になりました。」




