凄く怒られた
それは、一本の電話が入ったことからである。
℡「元気にしているね?」
℡「あれ、お袋、どうかしたの?」
俺の親達は、遠方の郷里で離れて暮らしている。学生の時に今住んでいるU県に来てから、そのまま此処で就職し、嫁さんをもらってもう30年になる。年齢を重ねていくと、当然に親も同様である。いつかは、年老いた父母をどうしていくか考えねばならない時がいつかは来るのである。俺の身内には、もう1人の先に生まれた女がいた。敢えてこういう言い方をするのは訳があるからである。
℡「姉ちゃんが来てるんだけどね、もの凄く怒るんだよ。」
姉とは、今言った女のことである。
お袋は大変な生活になっていた。以前から身体を悪くして入院していた親父が、自宅からかなり遠い処に入院していた。そこで毎日のように片道2時間以上かけて、年老いた身体を押して、徒歩と公共の路線バスに乗って通っているのである。お袋の身体に障るので、“そんなに行くな、行くならタクシーを使え。”と言い聞かせたのであるが、惚れた弱みとはいえ、いや、夫婦の絆の強さというものであろうか、いっこうに加減をしようとしてくれないのである。ところで、この先に生まれた女についてであるが、コイツも旦那の勤め先により俺の住みかとと同じくらい離れたS県にて暮らしている。最初の子供というのは、しごく甘やかされて育っていると言われるが、例に漏れず、コイツも隣町に習い事に行ったり、ねだってピアノを買ってもらったりしている。特にそのワガママがはなはだしかったのは、学校のクラス担任教師からとうてい成績の及ばないといわれていた学校に親が取り計らって行けるようにしてくれたことであった。その時、相当の金を積んだらしい。そして更に言うまでもないが、嫁ぐ時にもである。特定の個人について、俺はくどくど言いたくはないのだが、これから先の話の肝要な意味を理解してもらう為には、このくだりは必要なので敢えて言及させていただいた。とにかく、育ての親から世話になっていない子供はすべからくいないのである。俺もしかりである。
℡「あの娘は、頭がおかしくなってきているんじゃないかね。だからね、喧嘩しないようにしないといけないよ。」