第3話・人の家にお邪魔するときは、事前に連絡をいれましょう ―1
評価・感想を書いてくれた方。メッセージを送ってくれた方。本当にありがとうございました!! 注:今回は途中で視点が変わりますのでご注意を…
ジリジリ焼け付くような暑さ。蝉がここぞとばかりにミンミン鳴いている。
「……うるせぇ」
そんな蝉に嫌気がさしタクナリは起きた。
「うっわ…汗でびっしょりじゃねえか」
自然と漏れる独り言。
こんな暑い日にクーラーも付けないで寝てりゃ、そうなるか…。と1人で納得し、時計を見る。
2時か…。結構寝たな。
うーん、と伸びをしてベッドから降りると、とりあえずシャワーを浴びに行こうと考えた。
俺が家に帰ってからするのは、とりあえず寝る。
仕事しているときはそうでもないのだが、帰ってくるのが早朝ともあり、家に帰ると倒れ込むようにベッドにダイブするのだ。
「あぢー」
寂しくなると独り言が増えるんだなー。
なんて思いながら服を脱ぐ。
蛇口をひねってお湯を出す。まあ実際、お湯ともいえないくらいのぬるま湯なんだけど。
「うっひゃ〜気持ちいい!」
ほぼ水とも言えるくらいの気持ちいいぬるま湯が、体についたベタベタな汗を流していく。
適当に体を洗って頭を洗い、脱衣所に行って適当に服を着る。頭をバスタオルでかき回しながら、今月分の勤務表を見る。
「確か今日は―――っと、やっぱりそうだ」
そう今日は、久しぶりの休み。
「おっし!!」
思わず決めたガッツポーズが、思った以上にオーバーで、少し恥ずかしくなりキョロキョロしてしまう。
「あ…」
――――川北麗華。
ふと彼女の名前を思い出した。
彼女は今日俺が休みだと知っているのだろうか…?
知らない…よなあ。
そんなことを考えていると、昨日の(今日とも言う)あの後の川北麗華の様子を思い出した。
―――――――
コンビニには、なんとも微妙な気まずい空気が流れてた。
「……………」
「……………」
「……………」
「……………ぶっ」
静けさが重なる中、俺の笑い声が沈黙が破った。
「な、なに笑ってんだよ」
「だっ…だって…一番張り切ってたのに…ククッ…名前…言ってないって…プッ……ば、馬鹿」
「るせぇ!おまっ、それ言うな!なんか…恥ずかしいじゃねえか」
「ぶくくくく、馬鹿だ。ホントの馬鹿だ」
「笑うなー!!!!」
―――――――
「ククッ……」
ダメだ…思いだすだけで、また笑える。
あの人のあんな必死な顔始めて見た。真っ赤な顔であたふたしてて、それがまた俺の笑いを誘っていた。
っと、思い出に浸ってる場合じゃない。
「うーん……どうしよう」
多分彼女はいつもと同じように、コンビニに来るだろう。伝えに行くとしても、彼女との連絡方法が全くない。
あっ!でも確か彼女の家……。
「ま、大丈夫か」
幸いあのコンビニは、俺の家のすぐ近くだったりする。歩いて5分するかどうかという距離だ。
この前あの人が言っていた、『彼女の家が、俺の家と近い』と言う情報が正しければ、俺がいないと分かればすぐ帰るだろう。
ってことで…。
「今日は久しぶりにのんびり過ごすとしますかっ」
誰に言うわけでもなく、そう言った俺は伸びをしながら、後ろのソファにボフッと倒れ込むのだった。
***
月明かりに照らされた手書きの地図を見て、私は暗闇を歩く。
タクナリ驚くだろうなー。
今から会いに行く男の、驚く顔を想像するとつい笑いがこみ上げてしまう。
私の名前は、川北麗華。
時刻は午前3時。違う言い方をすれば、『深夜』の3時だ。
私は今から、とあることがきっかけで知り合った男に会いに行く。
その名も寿タクナリ。コンビニでバイトしているところを、私から絡んだことから始まった。
なぜ私がタクナリの家に行くのか。事の発端は、ほんの数10分前だった――――。
―――――――
「えぇ!?タクナリいねえのかよ!」
「はっはい。寿さんは今日休みですけど……」
「まじかよ……」
驚いた。いつものようにコンビニに行くと、タクナリの姿はなく、代わりに清楚なイメージを持った女性店員がいた。
「あ、あの…寿さんとはどういう……」
「ぅえっ!?」
そんなことを聞かれるなんて思っても見なかったので、私は思わずすっとんきょんな声が出た。
彼女が言いたいことはわかった。とにかく『さっきから妙に親しげだけど、寿さんとはどんな関係なんじゃい!!』と言うことだろう。
よく見ると彼女はまるで、私を威嚇するかのように睨み付けている。
「ほぉ〜ん」
「なんですかっ!?」
「いや別に〜」
そういうことか…。こいつ…タクナリに惚れてるな?
私は思わず耐えきれなくなって、クックッと笑ってしまった。
「っ!?バカにしてるんですか!?」
彼女の声がコンビニに響き渡った。
おぉっ。こわっ!
予想外の反応に、呆然としていると店員さんは、我に返ったようにハッとした。
この人はアレだね。興奮すると前が見えなくなるタイプだね。
1人でうんうん、と納得していると店員さんは焦ったように声をかけてきた。
「と、とにかくっ!!どんな関係かも分からないあなたに、寿さんの詳しいことは――――」
「アレ、あんた」
うお?
女の店員さんの声にかぶって、聞いたこと無い低い声が聞こえた。
あんた…確か…。
「いつも寝てる店員ーっ!!」
「そうでーす」
私がちょっと興奮して言うと、無表情でピースを作って出てきた。
「ちょっ……新田さんっ!否定してくださいよ」
「だってホントのことだもーん」
また無表情。どうやらこの人は、感情を表に出さないらしい。
ニッタ…かぁ。へぇ…この人ニッタって言うんだ。そういえばタクナリもそんなこと言ってた気がするな…。
「そう言えば新田さん。このお客様のこと、知ってるみたいでしたけど…」
「あぁ…なんか、寿が言うには、親戚らしいぞ」
………?
親、戚?
「そうなんですかっ!?」
女性店員が、もの凄く怖い顔で聞いてきた。
あぁ。そうだった。すっかり忘れてた。
実は私とタクナリで、いつもの様に会話をしていると、レジの奥にある扉からニッタが出てきたときがあった。
そのとき、ニッタが私たちの関係を聞き、苦し紛れに出た答えが、そう『親戚』。
彼になぜ嘘をついたのか聞いたら、『とっさに…』と言っていたのを覚えてる。
まぁ、そういうことなら仕方ない。
私は心の中でニヤッと笑うと、小さく深呼吸をする。
そして、店員2人に軽く頭を下げた。
「先ほどは失礼いたしました。ここにタクナリがいるものと勘違いをしていたので、少々取り乱してしまいました。」
「はぁ!?」
私の態度が急変したからであろう。女性店員が女らしくない顔で言ってきた。
「さきほど、ニッタさんが仰った通り、私コトブキタクナリの母方の従姉妹、川北麗華と申します。」
そう言って私は、にっこりと微笑む。
よし!完璧!
「実は最近、ここが仕事場だと言うのを知りながら、タクナリに会うためにこのコンビニに足を運ばせていただきました」
「は、はぁ…」
ニッタの方は表情を1つも変えなかったが、この際女さえ騙せばいいと思った。
「といいますのも、ここ最近、コトブキ家を含んだ私たちの家系で、少しトラブルが起きてしまいまして…。そのことでタクナリに話があったのですが、あろうことか彼の携帯電話の番号も知っておらず…。迷惑とは分かっていたのですがここをお借りして、話させていただきました。……ごめんなさい」
こういう場合は、泣いちゃだめ。オーバーになると嘘くさくなるから、シュン…と落ち込む程度が、いい。
「いえっそんな!私も知らなかったのが悪いんです。」
ほーら、ノってきた。
「いえっ!?あなたは謝るようなことしてません!なので…謝らないでください。………それで、1つお願いがあるんですが…」
「なんでしょう…?」
「実は…今すぐ彼に、伝えなければならないことがあるのです。夜中というのは分かっているのですが…。彼の…電話番号か何か、教えていただけないでしょうか…?」
そう言うと私は、申し訳なさを含んだ微笑みを見せた。
―――――――
人間なんて単純で、ちょっと詳しいこと話して、いい子を演じれば簡単なのだ。
数々の修羅場をくぐってきた私に、怖いものなんてないっ!!
でも…まさか住所を教えてくれるとは、思ってもみなかった。
しかも教えてくれたのはまさかのニッタ。
ニッタが言うには『今なら寝ているかもしれないから、直接家に言った方が早い』と言うことらしい。
ニッタは私の演技に、気づいてたと思うのに…。うん、あいつはあの女と違って話が分かりそうだ。
なんて考えながから歩いていると、目的地の建物を見つけた。
「ほぉー。あいつ、フリーターの分際でマンションに住んでるのかよ…」
皮肉を含んだ独り言を漏らしながら、タクナリの部屋に向かって歩く。
タクナリの部屋は1階らしく、そんなに時間もかからずに着いた。
ピンポーン
インターホンを鳴らしてみるが、反応がない。
もう1度。
やはり反応がない。……てことは、寝てんのか。
「それ、必殺技!呼鈴百連発ゥゥゥ!!」
一応夜中だから、それなりの小さな声で言った後、かなりの速さでインターホンを鳴らした。
お?なんか中から音が聞こえたぞ。
私はインターホンを押すのをやめ、扉の向こう側の音に集中した。
ガタッガタガタッ、ドンドンドンドン!
音が大きくなってるから、こっちに向かって歩いてるんだろうな。
ん?音が止んだ。
と同時に扉が開いたので、私はびっくりして1歩下がる。
「うるせぇ…。静かに寝かせろよ。なんであんなに鳴らしてんだよ。必殺技かってー…の?」
「いよっ!!」
なんだか物凄く不機嫌そうだけど気にしない。私は扉を半分まで開け、立ち尽くしている彼に満面の笑みで挨拶を――――――
バタンッ
閉められた……?
目の前の彼…正確には、扉の向こう側にいる彼は、私の挨拶に返事もせずに勢いよく扉を閉めた。
さすがに…この時間に家に行くのは迷惑すぎたか…。う〜ん。いくらタクナリでも怒ったかな…。
なんて、滅多に感じない罪悪感を感じていると、また扉が開いた。
「なに…やってんすか…」
ものすごくリアルな反応をしている彼が、どうしようもなくおかしくて私はつい笑ってしまう。
「いや…笑ってないで。答えてくださいよ」
「…っ。あぁ、わりぃわりぃ。とりえず上がらしてもらうわ」
「えっ!ちょっ!!」
タクナリの抵抗を無視して部屋に上がろうと思ったら、扉の前でタクナリが『通せんぼ』した。
こうゆうとき、やはり彼は男なんだなぁ。とつくづく思う。
彼を押しのけて部屋に入ろうとしてもビクともしないし、私のすぐ目の前に立つ彼は、かなりの迫力だった。
いつもはカウンター越しだからわからなかったが、こう見るとかなりの長身。
「ちょっと…通らせろよ。外蒸し暑いんだぞ」
「俺の部屋もクーラー点けてないから、外とあまり変わりません。…なんでここにいるんですか?」
「なんでクーラーねぇんだよ。この貧乏人!!」
「貧乏人は否定しませんが、クーラーはちゃんとあります。点けてないだけです。どうしてこんな夜中に、いるんですか?」
「あるなら点けろぉ!!クーラーはオブジェじゃねーんだぞ!使い方間違えてんじゃ……いひゃひゃひゃひゃひゃ!!」
気づけばタクナリは私の頬を両手で掴み、引っ張っていた。
ってゆーか、タクナリものすごい笑ってんだけど!!逆に怖いんだけど!!
「俺の質問に、答えてください」
「はい…答えるので、手をはじゅして、くだしゃい」
私が涙目になりながら訴えたら、彼は呆れたように溜息を付きながら、手を離してくれた。
「で?どうしたんですか?」
「そのすきに、とりゃっ!」
「いい加減にしろー!!!」
タクナリの罵声が、深夜の住宅街に広がった。
意外と長くなったので、さりげなく次回に続いたりします。ほんと…行き当たりばったりで書いているので^^; あ!感想、評価お待ちしてます^^ メッセージではお返事できませんが、評価欄(?)のところに書いてくれれば、ほぼ100%の確率で返信しますので…。 ではでは!!