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王城②

 ヘンリーと別れ、エリスたちがたどり着いたのは第二区画で最も立派な意匠の扉の前。決して派手な見た目ではないが、明らかに他の部屋の入り口とは雰囲気が違う。

 この扉の先こそ、フィーライズ王国を治めるエドウィン・フィル・フィーライズその人の執務室である。

 エリスたちを先導していた第二騎士団長が軽くその扉をノックする。その手に畏れや緊張は感じられない。

 少し開いた先の侍女に要件を告げれば、すぐにエリスたちはその部屋の中に招かれた。

 扉を開けて目の前に広がるのは王城の裏側に広がる庭園を見渡せる大きな窓とバルコニー。広々とした部屋の中にあるのは大きな執務机がひとつ。その正面にはソファーが小さな机を挟むようにして向かい合っている。天井まで届くような大きさの本棚は壁の代わりに執務室を囲んでおり、本来の壁を見ることは叶わない。

 国王が執務をするにしては開放的に見える部屋だが、かかっている結界はこの国でも随一の強度である。外敵は窓を割って侵入することすらできないだろう。

 小奇麗な執務机の上に数枚の書類を広げたままエリスたちを出迎えたのは国王エドウィンだ。金色の髪を揺らすその風体は為政者の風格を纏わせている。

 そんな彼に作法も礼儀もすべて無視してソファーにいち早く座り、話しかけるのがルクスとピリカ(エリスたちの育て親)だ。

 エリスの(・・・・)名誉のためにいちおう言っておくと、エリスたちに礼儀作法をしっかり叩きこんだのもルクスである。必要があるときに完璧にできれば問題ないというのが彼女の言だ。一国の王が相手の今は必要な時ではないのかという議論は、この際置いておく。

 エリスとヘイルもルクスに促されるまま向かいのソファーに座る。侍女はその行動に対して何も言わず4人分の紅茶を淹れてエリスたちに差し出す。優秀な侍女だ。


「やあエド君、久しぶり」

「元気だった?」

「おお。ルクスにピリカ、よく来たな。エリス殿たちも。今日はそこのエリス殿の入学式だったというのに姿が見えんから、今年はしばらく会えないのではないかと思っていたところだ。ああエリス殿、学院への入学おめでとう」

「えっと、ありがとうございます」

「ヘイル殿も変わらず優秀な成績を収めているようだな。学院でもハンター業でも。だがどの部署の卒業後の勧誘も蹴り続けているという報告はここまで届いているぞ」

「はは、俺は卒業したらそのままハンターを続けますよ。国のために働く気はないんです」


 ヘイルもヘイルだった。国王相手に笑顔で国のために働く気がないという発言をするのは、普通に考えれば不敬以外の何物でもない。

 だがここには侍女たち含めエリスたちの事情(・・)を知っている者しかいない。そのためエドウィン王も軽く笑ってそうかと言うだけに終わる。

 挨拶が終わったところでルクスが話を続ける。


「……わたしたちが出席しても面倒なだけだし。今日はエド君にもだけど、グレースに会いに来たんだよ。エリィも学院に入学したらしいし、何かあげようと思って」

「そうか。グレースももうすぐ来るだろうな。金月の間中ルクスたちを一番待っていたのはあの子だ」

「それは少し悪いことをしちゃったかなあ」


 その後しばらく、ルクスとピリカ、エドウィン王の3人が情報交換と昔話を行っているのをエリスとヘイルは2人眺めていた。3人は昔からの知己だというのは確からしく、そういうときはエリスたちが会話に入ることはほとんどない。

 一杯目の紅茶が空になった頃、執務室の扉がノックされた。そうして入ってきたのは父親譲りの綺麗な金髪をたなびかせた美少女である。少し鋭い目つきも彼女の雰囲気を損なわせることはない。急いできたのか少し上気している顔は耐性がなかったら同性でも思わず見惚れてしまうほどに美しい。

 グレース・フィラ・フィーライズ。フィーライズ王国の第三王女であり、エリスの数少ない友人の一人でもある。そして、


「失礼しますわ、お父様。ルクス様とピリカ様が来たと聞いて、いてもいられなくなって飛んできてしまいました!」


 ルクスとピリカにそれはもう憧れている人物である。

 ルクスたちはグレースの相変わらずなその様子に笑いながら挨拶をする。


「グレース、久しぶりだね」

「相変わらず元気だね。グレース、入学おめでとう」

「お久しぶりです、ルクス様、ピリカ様。そしてありがとうございますわ。エリスたちも。一緒に学院に入学できてうれしいわ」

「私もよ、グレース。クラスは違うけど、知り合いが同じ学年にいるって安心する」

「……わたくしも選抜形式で入ればよかったかしら。エリスと同じクラスのほうが面白そうだわ」


 本気で残念そうに言うグレース。幼い頃からルクスたちとふれあった結果、俗に言うお転婆な性格に育った彼女はたいそうな猫かぶりである。

 エリスと同じクラスになったが最後、大人しい王女様という猫はどこかにいなくなってしまうだろう。彼女自身はそれについてなんとも思わないだろうが、困惑するのはその周囲である。

 エリスは苦笑しつつお手柔らかにね、と頼んだ。

 しばらく執務室の中でグレースとエドウィン王を交えてお茶会を楽しんでいたエリスたちだが、夕食の時間が近づいていたこともあり解散することになった。


「泊まっていけばいいではないですか。久しぶりにルクス様たちに会えましたのに。わたくしたち1学年は、明日の予定は午後からですし」

「ごめんね。明日は午前中にエリスの入寮の手伝いをするんだ。わたしとぴーちゃんは白月の間は王都にいるから、またグレースに会いに来るよ」

「……本当ですか? お待ちしておりますわ」


 しかしルクスとピリカの別れは惜しいようで、グレースもなかなか離そうとしない。もともと会える機会は半年に一度あるかどうかという程度だったのでエリスも気持ちはわかる。

 ちなみにエリスはこれからいつでも顔を合わせる機会があるからそこまで惜しまれていない。その辺りは薄情な友人であった。


「ああそうだ、言うの忘れてた。グレース、入学祝いとして何か魔道具を作るよ。何がいい?」

「え……。……少し希望が多いので、考えさせてください」

「うん。決まったら言ってね」


 ルクスは軽く作ると言うが、魔道具は本来職人が長い時間をかけて作り上げていくものである。彼女が簡単に作れるのは、必要な手順を大量の魔力を使って短縮しているからだ。

 品質も最高級な彼女の魔道具の数々は、一つひとつが非常に高価である。個人専用化(ロック)されるため与えられた本人以外には使用不可能だが、それがさらに値段を釣り上げる要因になっている。

 そんな贈り物である、悩むのは当然とも言える。グレースには明日にでも何がいいか聞くことにしようとエリスはこっそり思った。

 すっかり考え込んでしまったグレースを後に、エリスたちは王城を出て宿屋に戻るのだった。

これで1日目は終わりです。裏話を1つ挟んで学院に戻ります。

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