最終面接
「特殊履歴書をご提出いただき、ありがとうございます。最初に確認しておきますが、これは最終面接であり、本面接は筆頭代表者の私が行います。それでは、早速ですが何点かご質問いたします。まず、他社との競争も激しい本業界において、弊社をご希望になった理由とはなんでしょうか?」
手のひらに汗がにじむ。初めてやっとここまで来れたんだ、なんとしても全力を尽くして勝利をもぎ取る。
「ええっと…大学院では経済学を専攻しておりました。具体的に申しますと、A・H・クリスの生み出した新万能主義と非配膳主義の統合した経済理論がありまして、それを経営学に応用した『モライとニコルズによる一般経営学』を研究していました。その研究分野と御社におけるビジョン・理想は非常に似通っており、その点で自分の持つ技能が発揮できると感じたからです。」
合理的に説明をしていく。それでこの最終面接まで勝ち上がってきたのだから、間違いはないはずだ。
「なるほど。志望動機は理解いたしました。それでは次に、自分の役割とおっしゃられましたので、その役割についてのご説明をよろしくお願いします。」
最初の文句は掴みには十分だったようだ。まだ緊張は切れないが、少し胸を撫で下ろす。一呼吸置いて、返答する。
「自分の役割というのは、一言では弊社の利益に貢献することです。」
「具体的にはどのような?」
「自分の研究してきた経営理論を一般に応用することで、御社の中での例えば財政面の健全化、効率化、安定化を図ります。自分の専門分野で太刀打ちできない問題に関しては杓子定規な対応にならぬように、他の角度から問題部分を分析し、解決に導きます。」
面接官はスラスラとペンを走らせながら微笑んでいる。感触は良さそうだ。
「なるほど、ありがとうございます。それでは最後のご質問に参ります。なぜこの私をお選びになったのをご説明いただけますでしょうか。」
手のひらの汗が一瞬にして引っ込んだのが分かった。
「あ…えっと、その…京都九経大学の修士卒でいらっしゃいますし、なによりも御社筆頭代表様の御顔が他の一般人に比べ優れていたからです。形状的にも優れています。」
走らせているペンの音が、止まった。
「他にはなにかございますか?」
「えっと、あ…今召されている洋服はバンヒュールの45年モデルだと思われますが、その点で洋服への意識の高さ、センスの高さが伺えます。後は、あの…えっと御顔が他の方と比べ、小さいのが優れていると思います。」
相手からの返答はなくペンの音だけがカリカリと響きわたる。この沈黙は何度味わっても苦しい。
「なるほど、了解しました。最終面接、ご苦労さまでした。待合室にてお待ち下さいませ。」
味気ない返答を受け、トボトボしながら部屋を出る。くたびれた同輩たちの姿がそこにはあり、自分はその最後の1人であった。PDAを見ると、結果が出るまで10分ほどと可愛いイルカのアイコンが教えてくれている。なんだいつもより時間がかかるな。昔の「シュウカツ」には何とも返事をもらうのに1週間近くかかったそうだが、もしもそんなものだったら発狂間違いなしだな。今でも十二分に狂いそうなくらい辛いのに。
PDAに赤ライトが点灯している。結果が出たようだ。
「このたびは、ミツトモ・カガク及びジュウコウギョウの『筆頭代表直属助手』へのご応募ありがとうございました。誠に残念ながら、今回はお見送りとさせていただきます。今後の貴殿のご活躍を心より祈っております。以下は今回の面接の点数評価ですので、ご参考くださいませ。」
採用者数:1名+予備採用3名
合理性:B+、整合性:B、感受性:E、読心性:F
総合評価:D(385名中167位)
会社に就職することにとって代わった、特定の女性への就嫁活動は、自分は不向きなのかもしれない。昔の言葉では、「お見合い」と言い喜ばれたそうだが、僕から言わせれば、なんていうものを作ってくれたんだという怒りしか湧いてこない。まったく原始人どもめ。
明日の「お見合い」の予定は、7件だ。早くいいところに就職できたらいいなあと思いつつ、男だらけのエレベーターに乗って次の面接官のデータを眺めた。