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独白01 テオ

俺とお嬢様の関係を一言であらわすのは難しい。


六歳までの俺の人生はまさに壮絶、ってやつ。国王の寵愛する側室の息子として生まれた俺はいわゆる第一王子というやつにあたるらしい。いち男爵家の小娘にすぎない、見た目ぐらいしか価値のない側室に先を越された王妃殿下はそりゃあもう機嫌を損ねて、その二年後、王妃殿下が今の王太子を懐妊するまで、国王と下賎な娘の血を引いた憎き赤ん坊…まあ、俺である…を守るために、乳母も兵士も俺の傍を片時も離れることができなかったらしい。


ただ、争いは王妃殿下が王太子を産んでからが勝負だった。当然、正妻である王妃殿下の息子こそが王位を継ぐものだって彼女は主張したけれど、王宮内では第一王子である側室の子供こそが次期国王にふさわしいって動きもあって、宮殿は荒れに荒れた。まあ、王妃殿下もご苦労さんだよな。立派な王妃として国王を支えるために、そりゃあお小さい頃から教育に教育を重ねて、それが蓋を開けりゃ王様はどっかの得体の知れない女と子供作って、自分の子供は王様にふさわしくない、だなんてさ。俺は同情するね。


とにかく、俺は幾度も生と死の狭間を彷徨った。とはいえ、俺にとってはそういう生活が当たり前だったから、当時はそんなもんかーって感じ。王宮内で起こったゴタゴタと比べりゃお嬢様のいじめなんて軽いモン。まあ、今はそれはどうでもいいか。



で、六歳のとき、俺は王妃殿下の差し金で誘拐されたわけ。王宮で誘拐って、考えてもみりゃ笑える話だけど、とにかく王妃殿下は適当な連中に俺を誘拐させてさくっと殺しちゃえば、後の面倒ごとはともかくとして自分の息子が王太子になれると思ったんだろうな。

結果的にそれはうまくいった。ただ、問題の俺が、突っ込まれた荷馬車から逃げ出しちゃったんだけど。


その頃の俺はそりゃあもう王妃殿下が怖くて、王様のご寵愛のことだけ考えてる実の母親のことだって怖くて、王宮に帰るのなんてゴメンだと思った。当時六歳にして普通の子供よりはだいぶ賢かった俺は、このまま帰らなけりゃ王妃様は勝手に俺を死んだことにして処理してくれるだろうって考えた。そりゃ、俺は逃げちゃったわけだから、裏で俺を始末しようと探しはするだろうけど。そういう意味で、王様の覚えもめでたいアレッサンドロ侯爵家の旦那様に拾われたのは俺にとってまさに僥倖だった。

一週間、乞食みたいに辛酸をなめて過ごした。そのあとは天国さ。旦那様は俺の顔を知らなかったみたいだけど、ま、見目が良かったのが功を奏したのかな。あとはお嬢様が俺の顔を気に入ったのも大きい。俺は地べたを這い蹲る生活と早々にオサラバして、アレッサンドロ侯爵家の使用人になった。


本来は俺みたいな出自の知れない奴が、大切な一人娘の従者なんてできるモンじゃないんだけど、当時五歳のお嬢様は、初めて見る年の近い子供…ま、俺のことだな…に興味津々だった。お嬢様には兄君がひとりいるんだけど、若様はお嬢様よりも五つも年上で、ちっちゃくてキャンキャンしてるお嬢様とは折り合いが悪かったし。あ、ちなみに若様は今、留学中ね。


お嬢様はその頃からそりゃあもう手がつけられない我侭娘で、俺が遊んでやらないと泣くわ喚くわ、ああ、あの頃から俺の脛は痣だらけだったんだけど、旦那様はそんなお嬢様をでろでろに甘やかしてて、俺がお嬢様の従者になったのもそのせい。

お嬢様は勉強だって遊びだって、とにかく俺を連れまわした。クソ生意気な子供で、ちゃんと俺が逆らえないことを分かっててやるんだよな。気持ち悪いのなんの、ふわふわでかわいい女の子がさ、そういう自分の魅力を理解して必要な相手には媚売って、裏では俺とかメイドたち相手に癇癪起こしてさ。ああ、ウチのお嬢様は努力家だからね。マナーのお稽古も教養の勉強もなにもかも、自分を高めることに関しては決して妥協しないとこは評価するけど。



俺とお嬢様の関係を一言で表すのは難しい。

たぶんお互い嫌い合ってるんだけど、なんかこう、お傍にいるのが当たり前、みたいな?いや、従者は傍にいるモンなんだけどね。小さいときから絶えず一緒にいたせいか、俺たちはお互いのことを一番よく理解しているし、たぶんこの先、彼女以上に俺を理解できる奴は現れないと思うし、その逆もしかりだ。…いや、あれでいてお嬢様は単純だから、それはないか。

ちなみにこれ、好意じゃないから。そこは勘違いしないでもらいたい。



そんなお嬢様にも、どうやら春が来たらしい。お相手はオーウェン公爵家のご令息・サラディア様。まあ良縁だよね。政略の思惑が絡んでる匂いがぷんぷんするけど、お嬢様が幸せそうであれば従者の俺としては言うことはない。ああ、あのふやけた顔踏み固めて差し上げたいなあ。やらないけど。


ただ、そのお嬢様がサラ様サラ様言ってるご令息はそりゃあもう曲者だ。まず、何を考えてるかわからない。いや、たぶんろくなことを考えてない。お嬢様を見る目が超ヨコシマ。あ、変な意味じゃなくてね。お嬢様の極悪な性格を理解して、それを利用しようとしてるってこと。

あー、ご令息。あんまりお嬢様をけしかけないでくださいよ。確かにそこのお綺麗な女の子は、性根はひん曲がってるし、無駄にえらそうだし、自信家だし、善悪の判断もついていないろくでなしだけど、とっても単純で一途なんですから。ご令息が一言ささやくだけでどんな悪事にも手を染めちゃうんですよ。ボロボロになって捨てられたあとそれを慰めることになる俺の身にもなってもらいたいもんです。…俺、五体満足でいられるかな。


とにかくあのご令息には、俺たち使用人一同が脛の痛みとクッションの埃に耐えながら手塩にかけてお育てした大切なお嬢様を引き取っていただかなくちゃならないんだから、あんまり妙なことにお嬢様を巻き込まないでいただきたいもんだ。

今夜は伯爵様の夜会でどこぞの哀れな男がお嬢様の罠に引っかかるみたいだけど、まことご愁傷様である。悪いね、うちのお嬢様、今日は可憐ななりで行くけど、その子、清楚でもなんでもないから。

とりあえず俺は、帰ったお嬢様がきっと武勇伝を語りまくるだろうから、質のいい紅茶でも用意しておくかな。



…ああ、そういえば最近、お嬢様は前世がどうとか言っている。俺の出自まで夢に見たというのだから信憑性は抜群だ。抜群、なのだけれど、こんなに身を粉にしてお世話しているどうしようもないお嬢様を俺が没落になんてさせるわけがないので、お嬢様が危惧していらっしゃるようなことにはならないだろう。ま、最近お嬢様に「没落させますよ」って言うとすっかり大人しくなるので、もうしばらくその事実は伏せておくことにする。

テオとお嬢様の間には好意はないけど愛がある。

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