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この作品には 〔残酷描写〕が含まれています。

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作者: 関 真一
掲載日:2014/11/19

私は、目の前の男を、見捨てた。


それまでの平穏が、我々を嘲笑うようにして崩れ去った日のことである。

私は、医療従事者ではなかったが救命措置の知識を持ち合わせていた。

だから、私の周りにいた負傷者を手に入るものだけで処置していった。


しばらくたって、近隣に避難所ができた。私の通っていた小学校だった。

地元の医師3名が、そこで野外診療所を設置して患者の受け入れを始めた。

私は、そこで包帯や三角巾を用いた比較的簡単な処置を、次々と訪れる比較的軽症な患者に施していった。


地元の病院勤めの看護師およそ10名が、野外診療所へ到着した。しかし、野外診療所へやってくる患者の数は時間を追うごとに増大していった。その時、ある医師が私にこう伝えた。

「君、トリアージは知っているかね?」と。

いよいよか、と私は思った。

私が、知っている旨をその医師に伝えると、今度は申し訳なさそうにこう言った。

「お願い、できるか?」

トリアージとは、患者の治療順を決める比較的高度な医療行為である。場合によっては、『見捨てる』選択をせねばならず、一歩間違えれば取り返しのつかないことになる。

私は、その医師にこの懸念を正直に話した。

「トリアージに看護師1名はつけられるが、それ以上は人員的に不可能でね。無理強いはできないが、一刻を争う状況だ。ご協力をお願いしたい。」

脳裏にトリアージの方法であるSTART法を思い出しつつ、私は肯定の意を表した。


私は早速、トリアージを行う患者受け入れスペースへと赴いた。看護師と数名の市民救助者が、次々と運ばれ、訪れる患者に悪戦苦闘しながらトリアージを行っているのが見えた。

私は、看護師に私が応援として来た旨を伝えた。

「悩んだら、重いほうのタグをつけてください」と看護師がアドバイスをしてくれた。

トリアージをする際、タグを用いて患者の治療順を表すが、タグには色がついている。これは緊急度順に、赤→黄→緑→黒となっている。先ほどのアドバイスは、例えるなら赤か黄で悩んだら赤を選んでくださいという意味だ。


最初の患者が、私の前に訪れた。曰く、柱の角に頭をぶつけたらしい。

つまり、この患者は歩けるし意識があるのだ。見たところ外傷もないので私は、大丈夫ですよと言って緑のタグをつけた。

次の患者は、私の前に運ばれてきた。「何があったかはわからないが、意識がない」と運搬者は言った。私が、患者の呼吸を確かめると呼吸が確認できなかった。戸惑いつつ、気道確保をしてみると呼吸があった。私は、急いで赤のタグをその患者につけると運搬者にすぐに処置スペースへ運ぶよう言った。


その後、数十名の患者の順番付けを行ったが、私は幸運にも黒タグを患者につけることなく済んでいた。

すると一人の患者が、また運ばれてきた。

運搬者は、消防団員のようだった。彼らは、お願いしますとだけ言って出ていってしまった。

患者の顔を覗き込むと、私の知っている顔だった。

彼は、小学校の同級生だった。

私達が小学生だったころ、よく遊んでいたのを憶えている。

彼は今も、私を憶えてくれていたのだろうか。

早速、呼吸の確認をした。

気道の確保もした。

脈拍も確認したと思う。

まだ、温かかったのだが。

どれも、なかった。


その日、私は初めて、人を見捨てた。

人を見捨てることは、こんなにも単純にできてしまうことだったのか。

その後もまた、何人もの患者に淡々とトリアージをした。

患者受け入れ担当の看護師が何かに気づいたのか、私に休憩するように言った。

小学校の校舎の隅で、私は赤黄緑の三色が繋がっているタグの切れ端を数えた。

それは、4組あった。

きっと、同級生の分もあっただろう。

涙は、出なかった。

人を見捨てたという感覚も起きなかった。

私はあの時、感情のコントロールが、できていたのであろうか。

いや、できていたはずがない。



私達がいた、あの小学校は今年取り壊されるらしい。

今は皆、以前と同じ日常を暮らしている。

“あの時”は、ひっそりとその息を引き取ろうとしていた。

最後までお読みいただき、ありがとうございました。

あえて、細かい状況描写をいたしませんでした。

読者の皆様による自由な補完をしていただければと思います。

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