第2話
「あれ、ティム君達!」
4人が外に出て、時計塔付近に設置された公園に出て、いざティムが笛を、ヒスイが小さな竪琴を構えた時――
「やあ、プレセア。お出かけ?」
「うん、空の散歩ついでに、明日の分の薬草の買い出しに行ってきたの」
プレセア・メイフィールド
魔法薬局“ドラグポーション”の店主兼薬師を務める龍族の少女。
羊の様な角を頭部に生やし、背には龍に相応しい大きな翼をはためかせ、ゆるくカールした腰まである青いロングヘアーをなびかせながら、ゆっくりとティム達の前に降り立つ。
露出の多い服装を好む為に、今現在は胸元のはだけた着物を着ており、その手には薬草栽培の農家で買い付けた、薬草の詰められた袋を抱きかかえている。
「それよりさ、ヒスイさんが一緒で楽器持ってるって事は、2人で演奏するんでしょ? 調合するにはまだ時間が早いからさ、ボクも聞いてって良い?」
「それは、構わないよ。ねえ、ヒスイ?」
「うん、折角だから聞いてってよ。どうせ明日にはお客さんに聞いて貰うんだし、ギャラリーいた方がやる気出るよ」
「良かった。じゃあお礼に、明日は食べに行くよ」
そう言って、料理人であるコハクの隣に座って、“期待してるね”と笑顔で告げ、コハクはぎこちなく頷いた。
「――じゃあ、予期せぬギャラリー増えたけど、始めようか」
「そうだね」
ぱちぱちと、観客達から拍手がなり、2人はそれぞれの楽器。
ティムは笛に口をつけ、ヒスイは竪琴に手を添えると……
――ゴーーーンッ!! ゴーーーンッ!!
突如、時計塔からけたたましい鐘の音が鳴り響いた。
「――!? 何? どうしたの!?」
「――そう言えば、プレセアは初めてだったね? 迷い子の来訪」
「え?」
「この世界の全ては時計塔から齎される――知識も時の流れも、そして住人もね。時計塔のオルゴールは時の流れを、鐘は迷い子の来訪を示す」
「行こ、ティム。ごめんねヒスイちゃん、コハク君、プレセアちゃん」
キョトンとしてる3人を置いて、ティムとファティマは時計塔へと駆けだした。
入口の扉をくぐり、階段を上って、幾つかの扉を開いて――
「……ファティマ、確認」
「はい」
重厚な扉を開いたその中は、100人は雑魚寝が出来そうな巨大なベッドが1つ――それを中心に据え、その傍に1つの本が置かれたテーブルと、洋服ダンスがあるだけの、異様に広く殺風景な部屋。
ティムはベッドに駆けだし、ファティマはテーブルに駆けだし、本を手にとり表紙を開き――ペラペラとページをめくる。
「ふんふん……へえっ」
本を読むファティマとは別に、ティムはベッドに横たわる迷い子――巨人が来る事も想定した為に、無駄にでかいベッドの枕の部分に向けて目を凝らす。
「――あっ、居た」
眠っているのは、1人の下着しか纏っていない、表現するのが難しい少女だった。
まず眼を惹くのは、見る者すべてにため息をつかせるほどだが、どこか違和感を抱かせる様な美貌――そして、右前が硬質そうな赤い髪に、左前がウェーブした金髪で、右後ろが流れるような長い銀髪で、左後ろが鴉の濡れ羽色をした長い黒髪と、部分ごとにてんでバラバラな髪。
身体は完璧なまでの、黄金律を実現したメリハリで作りあげられていて、所々が形にしろ配置にしろ。最上という表現しか出来ない程だが、白い肌が基調であるにも関わらず、赤味がかった部分や黒っぽい部分、黄色っぽい部分がある等、なまじ整っている事が逆に異常さを醸し出している印象。
ティムが彼女から目をそらし、テーブルに置かれた本に目を通してるファティマと視線を交わし――。
「彼女はサフィア・レジュナ・ミント・陽菜――科学大系の人造生物で、その最新型“フレッシュゴーレム”の試作品だって。完成時期はそんなに間がないけど、新鮮な死体を素体にした人造生物みたいだから、会話と理解自体は問題ないって」
「じゃあいつも通りに――ファティマ、服を着せてから様子見といて」
「わかった。ティムはお粥とホットミルク、それと薬の用意お願いね――念の為に、自警団に連絡取っておく?」
「いや、今回は良いよ」