第一話
天の柱、世界樹、時の塔。
様々な呼び名を持つこの時計塔を中心とした、世界の土台ともいえるこの場所にある、時計塔を取り囲むように造られた街で暮らす者達は、元は皆別々の世界、別々の次元の住人で、“迷い子”、と自らを称している。彼らは、この世界に住まう事になった時期、理由もまちまちで、それぞれが色々な思いを抱きながらこの世界で生きている。
それぞれの世界からつまはじきにされた理由――それを忘れてこの世界で生きようとする者も居れば、望郷の念を持って生きる者、帰れない絶望から死を望む者もいた。
「ご馳走様」
「お粗末さま」
そんな中で、時計塔に住むこの2人――ティムとファティマは違った。
一体いつからこの世界で時計塔の機能を守り続け、どこから来たのか――それは本人を含め、この世界に住まう誰もが知らない事で、この時計塔自体も全ての世界を支える要だと言う事以外で、わかっている事は決して多くはない。
そして外見はほぼ似ている物の、2人の関係性も決してわかってはおらず、ただ自然な流れで2人は兄妹の様に日々を過ごしていた。
「仕事終わったけど、これからどうする? 寝る時間にはまだ早いけど」
「うーん……」
「ごめんくださーい」
しかしそれでも、2人は決して人形と言う訳ではなく、人間味もあった。
普通に感情の通った会話を交わし、泣いたり笑ったり、怒ったり楽しんだりするし、友達だっている。
「あ、いらっしゃい」
姉である音楽家のヒスイに、弟である料理人のコハク。
食堂“緑の宝石箱”を営む姉弟で、たまにティムとファティマの所へ遊びに、あるいはそれぞれの管理する施設を使う為に来る。
「ねえねえティム君、新譜出来てるかな?」
「ああっ、出来てるよ。食事で聞きたいって言うのはこれかな?」
「どれどれ……うん、良いね。そうだ、一緒に演奏しようよ」
「良いよ」
「ファティマ、コレ新作何だけど」
「ごめん、晩御飯さっき食べちゃった。感想、明日でいいかな?」
「うん、良いよ。調理の本は、その時まただね」
「わかった」
そして個人的にも仲が良い。
ティムはヒスイと一緒に演奏するのを楽しみにしているし、ファティマもコハクの新作料理も料理の本の事での会話を楽しんでいる。
異邦人である事に何の意味も持たない場所で。




