悪魔の黄色い粉
「ぶぇくしゅっ! ぶぇくしゅっ! どういうことですかぁゆぅいぃー」
放課後の教室だ。聖痕十文字学園中等部二年、炎浄院エナが目を真っ赤にしてティッシュで鼻をかみながら苦悶の呻きを漏らしている。
春爛漫のここ数日、どういうわけだか急に目がゴロゴロして痒くて堪らず、クシャミと鼻水が止まらないのである。
去年までこんなこと無かったのに! これでは、次世代ラーメンの開発も儘ならないではないか。
「うぐぐぐぐ……どうしようコータくん……」
花粉なんて『お化け』と一緒で、信じていなければ全く怖くない……
これまでそう信じていたエナがツインテールを震わせながら、やり場のない悔しさを必死で訴えるも、
「シッ! シッ! こっち来んなエナ!」
花粉症は伝染ると固く信じ込んでいるクラスメートの時城コータが、彼にすがるエナを邪険に追い払う。
「そんな~コータくん……」
涙目のエナに追い打ちをかけるように、
「ほれほれエナちゃん、はやくお掃除手伝ってよー」
同じくクラスメートの冥条琉詩葉が燃え立つ紅髪を弾ませて、意地悪く笑いながらエナに近づいてきた。今日は掃除当番なのだ。
ぽふぽふ……琉詩葉が手元で振ったハタキからモワーンと埃が散って辺りを舞うと……
「べくしっ! べくしっ! べくしっ! くきー! やめなさい冥条さん!」
弱りめのエナの目と鼻を刺激して、彼女に更なるダメージを与えた。
「どーした? どーしたよエナちゃん? 『自己管理』が出来てないんじゃないのー?」
普段は風紀委員のエナから遅刻や寝坊を、『自己管理』の出来て無さを散々責め立てられている琉詩葉が、ここぞとばかりにハタキをポフポフ。
「うぐうう琉詩葉! 殺す~!」
花粉にやられて普段の元気もどこへやら。琉詩葉にいいようにされるエナだったが……!
「くしゅん! くしゅん! ……あえ? あたしも……? うそ!」
埃を吸いこんで、大きなクシャミをした琉詩葉が、驚きと恐怖に目を見開いた。
ぎらん! エナが燃える目で琉詩葉を睨んだ。
がきっ! エナは琉詩葉の喉首を引っ掴み、彼女からハタキをもぎ取ると琉詩葉の顔に押し当てると、
「やってくれたわね冥条さん!」
モワーン……琉詩葉の眼前で舞い散る埃に、
「どひー! ごめんなさいエナちゃん! べくしっ! べくしっ!」
チョーシこいていた琉詩葉が、エナに泣きながら詫びを入れる。
「あー……琉詩葉、エナ、俺、先に帰るから……」
急速に険悪になってきた状況に、逃げ出そうとするコータだったが、
「あなたも、そこで待ってなさい!」
右手で琉詩葉を絞めあげながら、涙と鼻水をダラダラ垂らしたエナが憤怒の形相でコータに叫んだ。
「ひ、ひいぃ!」
コータは我が身を竦ませた。
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「ふー。スッキリした!」
それから三時間。ハタキ片手のエナは己がダメージも顧みず、琉詩葉が涙と鼻水を枯らして脱水症状で昏倒するまで彼女を責め立てた後、教室の片隅でブルブル震えてヘタリこんでいる時城コータを、真っ赤に燃える目で見下ろした。
エナは穏やかな笑顔でコータに言った。
「おまたせコータくん……! さ、今日はどんなラーメンが食べたいぃ?」




