言わぬが花
「なじょされたんだべ? 殿は」
秋月の言葉に、修理は首を傾げる。
「私も何があっだのか、わかんねえ」
八月の政変で、長州を始めとする尊皇攘夷の激派が京都から駆逐されたこともあって、政変後は幾分静かになりつつあったけれど、幕府が異国と交渉を続けることに朝廷は苛立ちを増していた。
そんな折、国許蟄居を命じられていた福井藩主・松平春嶽が許しを得て、上洛が決まった。容保に届いた春嶽からの書状によれば上洛後、会津どののよろしい時に訪れたい旨と、一柳なる家老補佐どのは在京かと認められていた。
それを見た容保の反応が常に有らざるものだった。明らかに不機嫌で、なぜ福井どのは他藩の家老補佐をそれほど気にかけるか、と修理も聞いたことのないほどの厳しい口調で言えば、主税が恐れながら京都守護職拝命の際、御方さまが福井さまに、口添えくださったことがあったのではと言えば、容保の機嫌は幾分直ったものの。
「修理どの、それがしは思うたが」
「秋月どの、それは言わぬが花と申しやしょう?」
秋月の言葉を遮る修理に、秋月はニヤリと笑った。
「やはり、そうか」
「……秋月どの」
「いやはや、殿も男であられた。善哉善哉」
修理は深く溜め息をつく。
「頼みやすから、口外無用で」
「そりゃぁ吝かではねえけんじょも、御方さまも同じだが?」
最近、真紀は玄と珀を連れて出かけることが多い。行先は中川宮邸であったり、花街であったりもするのだが、数日前から大阪に出向いている。定宿の大阪蔵屋敷にはすぐに使いを走らせたが、帰りは早くとも明日になるだろう。
「さて。雅長の話では、殿の夜床に侍るのは、玄と珀にて。御方さまがお出でになられたことは終ぞごぜえませぬ」
秋月が奇妙な表情を浮かべる。
「それはつまり、そういう関係にないか、あるいは殿だけのお気持ちということか?」
「だから、秋月どの。このことは他言無用」
秋月にとっては慶事のきっかけに思えるかもしれないが、二人の複雑な思いを知る修理にとっては単純には喜べない。
だから、溜め息が出る。
「なんぞあるのか?まあ、わしらが気を揉んだところでどうなるわけではないがの」
「………」




