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foundation  作者: なみさや
京都
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御方さまの御言葉





修理は大阪蔵屋敷に出向いていて合議にはおらず、その夜遅くに帰参した。帰るなり、公用局詰の数人が部屋に押し掛け、合議の場での顛末てんまつを語った頃、秋月が覚馬を伴い、顔を出した。

「なんじゃ、にしら。御方さまへの不満を修理どのに言い上げておるのか」

「不満などとは」

「顔に出ておるぞ、遠野。しかし、にしらが薩摩から報せがあってから不眠不休で案を練っておったこと、御方さまは御存知じゃ。それに浅慮などとは思わぬと仰せであったろうが」

どかりと座り、秋月は修理に言う。

かく、明朝早くに二条城と御所から命が下る。九門六門警護の各藩とも承知と報せてきた。今宵の内には準備を整えねばなんねぇ」

「それはすぐに済みましょう。過日の馬揃えがこの時、役立ちやす。一刻もあれば」

「うむ、準備を始めておるゆえ、半時で済むはず。しっかし、御方さまがあれほど激して制されるとは、わしらも思わなんだ」

会津の中でも京都守護職の役目の意味の捉え方によって、意嚮いこうの違いが生まれつつあった。家老たちを始めとする年長者は御家訓故に幕府第一と考え、公武一和のためにこそ会津は動くべきと思う者が多い。一方で年少者は御家訓こそ身に沁みているけれど、新しい知識に触れる機会が多いせいか、御所の鎮守こそが会津の役目と思う者が多く、その最たるが公用局と言える。

公用局詰でも家格が別格である修理は、他の公用局詰たちと年頃は同じだが、その物腰の軟らかさゆえか、微禄な家格の者たちに慕われるようで、夜にもなれば今日のように公用局詰が部屋に押し掛け遅くまで語り合うことが多いとは言えども。

容保は公用局の進言を受け容れることが多い。自分の知らぬ情勢を知るために設置された部署であるからそれも当然なのだが、公用局詰には自分たちの意見こそ会津を代表する意見であると口には出さなくても、その言動に自信が見え隠れすることに、同じ公用局詰の修理は、心中では幾分遠いところから見ていた。

今日の公用局詰たちの話は明らかに真紀をないがしろにするもので、修理はその性故にそれに対する憤りを口にするべきか迷っていた時の、秋月と覚馬の訪ないだった。

「少し前じゃが、御方さまが仰せになったことがある」

ポツリと覚馬が切り出した。

「人の思いを忘れぬようにと」

「人の思いとは、なんじゃ?」

秋月に覚馬が返す。

「書物や見聞には、人の思いは含まれぬ。実践しようとすれば人の思いが反発することはよくあること。人の思いが実践することに反発すれば、いずれ大なり小なり反動がある。それを忘れてくれるな、忘れぬことが、いずれわしの助けとなると、仰せであった」

「人の思い」

修理は小さく笑う。秋月はそれを見咎みとがめた。

「修理どの、にしはなぜ笑う」

「失敬。いや、御方さまらしい御言葉と思いやして。御方さまが仰有ったことがありやす。行いには必ず意味があり、その報いは大なり小なり、行った者が受けなくてはならない。だから、心して行えと」

「……禅問答のような御言葉じゃな」

「しかし、御方さまらしいですね」

「なるほど、ではやはり御方さまは幕府との兼合かねあいを心配なされて申されたのだな」

遠野は一人憮然とした表情を浮かべていたが、秋月が笑いながら、肩を叩いた。

「にしはにしなりに考えた結果を進言したのであろうが。じゃがな、御方さまの御言葉を聞いてなじょ思うた。言うてみい」

「……幕府が嫌疑のもととして利用するとは、言われて始めて気付きやした。その前から、江戸表からの書状のことも御方さまは仰有っていたけんども、あそこまで御方さまに言わせたわしらも、悪いやもとは思うのですが……」

「得心がいかぬか」

「………」

憮然と頷く遠野の表情が答えを物語っていた。秋月は再び遠野の肩を叩く。

「よいのだ、よいのだ。疑いをもってして事に当たれと言うのも御方さまの御言葉じゃな、のう、修理どの」

「はい、いかにも」






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