側にいる資格
「Then it is a short interval, but I would like to speak to them」
「Sure. They learn and will grow up to be helpful for Aizu.」
教師だと言う英国人と握手を交わし、真紀はいつもの笑顔で緊張した面持ちで立っている藩士たちに声をかけた。
「では、短い間とは思いますが、頑張ってください」
「はい!」
一番大きな返事を返したのは、道中の船で何度となく真紀に洋行の話を聞きたいとせがんだ山本覚馬だった。それを微笑ましく思い出しながら真紀は言う。
「山本どの、今度は山本どのの長崎話、聞かせてください」
「あ、はい」
「もう少し調整が必要ね」
真紀の言葉に、修理も頷いた。
「一か所で数が揃わないのは残念でごぜえますが、新式銃が幾らかでも手に入れることが出来てようごぜえやした」
「そうね」
私塾を辞したその足で、真紀と修理は真紀の知己から紹介されたというアメリカ人商人の元に向かった。新式銃を、なければある程度の中古でもよいから古すぎないものをと、真紀が流暢な英語で交渉するのを修理は勧められたコーヒーをチビリチビリとすすりながら聞いていた。
「御方さま、途中でスーキルどのがえらく驚かれていたのは、何故でごぜえますか?」
挨拶程度の英語なら修理も何とか理解できるが、真紀とアメリカ人商人スーキルが交わしていた英語は修理の理解できるものを超えていて。ただ、途中でスーキルが真紀の言葉に、驚愕していたのは表情だけですぐに分かった。
「ああ、中古があまりないと出し渋ったから、先の戦争での流出品があるだろうと言っただけよ。少し前にアメリカを二分する大戦があって。向こうでは相当数の銃が使われたらしいのよ。多分、数十万丁」
さらりと言われた信じられない単位に修理の足が留まる。それに気づかず真紀は数歩進んで、
「とはいえ火縄銃と変わらないようなものも多いけど、せめて仕入れることのできたミニエ銃やエンフィールド銃なら何とか使えるし、目敏い薩摩、長州がスナイドル銃を押さえたとしてもまだまだ数はある筈…修理どの?」
「あ、失礼しやした」
少し早足で真紀に追い付いて、修理は小さくため息を吐いた。
「やはり、それがし一人では心許のうごぜえやした。正直申し上げれば、殿のためにも御方さまには京にお残り頂こうかと、進言しようかと思うておりやした」
「ん?」
意外な言葉に、真紀は小首を傾げた。
「それはどうして?」
「………申し上げてもよろしゅうごぜえますか?」
修理が何を言いたいのか分からず、真紀が問う。
「どういうこと?」
「……殿が御方さまを好いていらっしゃることは御存知で」
今度は真紀の足が止まった。
その様子で、修理は自分の言いたかったことが真紀に伝わっていることに気づく。
「御方さま」
「それは言葉の、通りなのね」
「殿には側でお支えする方が必要なのです。御方さまならば」
立ち止まる真紀に、修理は言い募る。
「敏姫さまが亡くなられて、まして殿にはお側に仕える女性がおられやせん。何より御方さまならば、会津をお守りくださる御方。そして何より、殿が好いておられるならば」
「修理どの、その話、聞かなかったことにするわ」
「いいえ、御方さま、聞いてくなんしょ。殿はまことに御方さまを大切に思えばこそ、何も仰有らないのです。少し前、僭越ながらそれがし、殿に何故嫁取りたいとおおせにならぬのかと、申し上げたのでごぜえやす」
「!」
真紀が顔を上げる。その複雑すぎる表情から修理は何も読み取れず、ただ自分が伝えたいことだけを語る。
「殿は少し淋しそうに笑ってお応えになりやした。言うは容易。したが、真紀どのには真紀どのの思いがある、と」
「………」
真紀は、口を開いた。しかし、言葉は紡がれず。やがて、深い嘆息だけを落として。
「修理どの」
「はい」
「やはりこの話、聞かなかったことにします」
「御方さま」
「私は、私の理由で会津の守護者を土津公から引き受けた。その理由はどうしても成したいもの。その為に会津に犠牲を強いることも有り得る」
真綿に包んだ、とても遠外な言葉だったけれど、修理が眉を潜めるには充分だった。
「御方さま、それは」
「詳らかにはできないの。でも分かって。だからこそ、会津の守護者であることはできても、容保どのの側にいる資格は、私にはないの。容保どのが望んでくれても」
修理はしかし、瞠目する。
真紀のこの言葉が意味するところは。
「で、では、御方さまも?」
「それに、理由を詳らかにしたとしても、もう一つ、相応しくない理由があるのよ。私の身体は子が出来ない。後嗣が必要な容保どのに、石女は駄目でしょう?」
自嘲するように小さく笑って、真紀が顔を上げる。
いつもと変わらぬ微笑みを浮かべて。
「さあ、まだ今日中に行かなくてはならない所があるわ。修理どの、参りましょう?」
「は、はい」
歩き始めた真紀の背中を見て、修理は内心思った。
御方さま、あなた様が仰有られたことは、即ち御方さまも殿に思いを寄せてらっしゃるということでごぜえやすよ?




