航海の薊
航海食
船中において暖かい物を食べるのは困難である。
理由としては人員面で調理職を置くことの困難さ。(主に資金面で)
船員の食糧を置くくらいならば商品置いた方がいいという利益追求面。
船内での調理の困難さ(揺れやら燃料やらいろいろ)
そのせいでこの世界においては航海をする場合数日から10日程度を目途とする航海計画を立ててこまめに補給を行うのが通常とされている。
そのせいか壊血病等の船乗病とは縁が少なく船員の損耗率は低い、いずれは外洋や長期的な航海を行うのかもしれないが今現在はそれに向けての雌伏期間としてとらえる事が出来るのかもしれない・・・・・・・・・
とある異世界人から見たこの世界 と名付けられた手記より
鉛色の海はそこかしこで渦巻いている。船は渦の間を縫うように進んでいる。時折渦の影響を受けてなのか船が揺らいでいる。故に慣れぬ者は地獄の苦しみを味わう事となる・・・・・・・・・・・・・・・
はずなのだが
「しんかんさーん!野菜こんなものでいいの?」
「うんうん、そんくらいでいいや揺れているから手を切るなよ!」
「きをつけるー。」
「こっちもおゆわいたよー!」
「じゃあ、野菜入れて後、干し魚あっただろそれもぶち込んどけ。」
「りゅーかい!」
「にーちゃん、こっちもあと焼くだけにしといたよ。」
「小僧っ子、焼いといてくれ。」
初めての船旅をしている子供達は元気であった。なんだかんだで海洋神と漁労神の加護を受けて船酔い知らずの体質となっている子供達は船内で調理に勤しんでいる。
この極北の海は揺れるので調理をするのも危ないのである。それでも日々美味しい物を食べたい勇者(笑)は熱源としての魔道具(商品名:焼石くん、販売価格銀貨40枚)を複数個用意して温かいスープを作るのである。
普通、船乗の食事なんてものはすぐ食べられる携帯食を中心にしてあるのだが勇者(笑)の私物のお蔭で温かい食事にありつけるのである。【西の凍らず】から【寒鱈港】への航路では勇者(笑)の乗る船だけが恩恵を受けていたのだが海の上で僚船から発する旨そうな匂いに他の船の士気は低下して船内では反乱がおきそうになっていたのは笑い話である。最も船長自身が俺にも寄越せという状況なので反乱と言うよりは僚船に対する略奪計画と言った方が・・・・・・・
その話を【寒鱈港】で聞いた勇者(笑)は何を馬鹿なことをと笑っていたが船団長と船長達の真剣な表情と飢えた船員達の殺気交じりの懇願に同行中の食事の用意をせざる得ないのであった。
「ほれ、そっちスープあがったよ。」
「分かった、二番船に持って行って。」
「あーい、その前に位置を確認して・・・・・・・・・・・」
出来上がったスープを鍋ごと僚船に運ぶ死霊っ子達、ふゆふゆと空中移動できる強みである。
「って、重たいんだけど!」
「何人前あるの?」
「ほんの40人前」
「・・・・・・・・・あの船船員が20人で客が8人だったよね?」
「奴らの食欲を甘く見てはいけないよ。オレ達換算だからあのデカブツ共はもっと食う。」
「判るけど、わかるけどさぁ・・・・・・・」
死霊っ子は数人がかりで鍋を運んでいくのであった。
死霊っ子が運び込んだスープを待ちわびてる二番船。取り敢えず、料理を受け取った順に食事時間となる。航路の見張りと当直の操舵手を除いて食事にかかる、ちょっとした火鉢くらいはあるので焼き物とか茶位ならば出来るのだが料理をするとなると人員の都合上暖かい汁物なんて船の上ではご馳走なのである。冷たい海、身を切るような潮風、船の上での労働の後で暖かい飯・・・・・・・・これを美味しく感じる事が出来ない者がいるだろうか?
某聖女様の作った料理だったら?(by大寒神)
それは嫌がらせとしか言えないだろうって地の文に(略)
因みにこの時代の航海では貴族と言えども暖かい料理が出る事はなく、下手な王侯貴族よりも良い物を船上で食べていることになる。穏やかな内海で遊覧目的で得に仕立てた船であれば可能かもしれないが、船という物は移動手段であると同時に交易品や物資を運ぶ物であるから荷物も最低限に収めていくのである。
「おじちゃーん!できたよー!」
「おおっ!まってました!」
「わるいねー!」
「わるいとおもってないくせに。」
「はははっ!ばれたか!」
「あったかい飯は海の上では一番のご馳走だな。」
「そだ、そだ。」
「鍋は後でとりくるからねー。」
「うむ、お前ら先に食っているんじゃない!」
「げぇつ!船長!」
この食糧配給のお蔭でいつもはある程度の間隔を置いている船団が其々の位置を確認できる所までにいるのである。そして飯時の平行運航やら船同士の入れ替わりは無駄に高度な航行技術が使われていたりするのだがそれを指摘する者は誰もいないのであった。
子供達が食事の準備をしている間、戦士連中は船の上で訓練をしていたり船中で酒盛りをしている。
極北の民やその流れを汲んでいる連中が乗る船である、酒の備蓄はしっかりとしている。その分食糧事情改良すればいいじゃないかと他の連中からすれば突込みが入りそうなものなのだが、荒れる海で調理は危険すぎるのと酒ならば悪くなりづらいから水代わりになるという建前らしい。間違いではないのだが数日ごとに補給地点がある極北航路ではどう考えても飲みたいが為の理由づけであろう。
「赤髪薊、船の上では揺れるのだから足の裏の感覚を中心に体中で状況を知るんだ。足場が悪いと嘆いていてもそれは相手も一緒だ、ならばそれを利用するんだ。体の軸を一定に保ちながら素振りをして見ろ。」
「はいっ!って・・・・・・・・とっとっとっ・・・・・」
「体に力が入り過ぎ!」
若き赤髪薊に指導をする戦士達もいれば船中には酒盛りをしている戦士もいる。船の中では訓練しているか飲んでいるかしかやることがない。他には賭け事している連中もいるけどそんなものである。
一度航海を学習の時間にあてようと本を読ませた戦士長がいたのだが揺れの酷い船中でそんな事をしたら船酔いが酷くて戦士達は使い物にならないは、船室が酸鼻極まりない事となってしまったので強要しないこととなっている。
「ほらっ!そこで俺のあがりだ。この酒は俺のものだな。」
「ちっ!まだ酒はあるから良いけどさ・・・・・・・・・・ちょうどそこで醸しているし。」
「ちょっ!あんたたち少しは呑む量控えなさいよ!醸しても出来上がる前に呑みやがって!美味しい時期を判らないのかこの酔いどれ共が!」
船中でも仕事を忘れていなかったらしい麦酒売りの姐さん。醸しているそばから飲み干されているのでかなりお冠である。
「姐さん俺にももう一つ貰うよ・・・・・・って、もうないの?」
「ないわよ!醸す傍から飲み干しやがって!!陸に上がるまでないわよ!」
「ええっ!!」「なんだって!」「姐さんいるから補給は大丈夫だと思っていたのに・・・・・」
「あのねぇ、この船だけでも50樽は積んでいたはずだよ。どうして三日で飲み干せるのさ!」
「そりゃ、オレ達極北戦士は世界最高峰の酒飲み集団だからな!」
「一日一樽はよくある事だろう!」
「ないよっ!」
「良いじゃん、姐さん。太客のいる地で商売できるんだよ。しかもこんな太客がいっぱい。」
「・・・・・・・・・・・確かに太いわね。腹の脂肪層が・・・・・・・」
「姐さん、そこを見ちゃいやん☆」
姐さんの視線の先である程好く脂がのっている腹部を隠すように身をよじらせる極北戦士某。
「おっさんがやっても気持ち悪いだけなんだけど・・・・・・・・・・」
頭痛が痛くなった気がする姐さんは次の航路は神官さんが乗る船(一番船)にして貰おうと心に決めるのであった。酒を飲んでいる連中が二日酔いで頭痛くならないのに、醸している方が頭痛くなるとは・・・・・・・・・
これぞ極北クオリティー(by極北諸神群角笛を抱く英霊神)
そんなこんなで着いたのが【紅鮭港】、【寒鱈港】より海路で四日程である。陸路だと十日以上かかる、どちらが良いかと言われたら海路を取る者が多いだろう。その分金はかかるし、料理は不味いので棲み分けが出来ているのかもしれない。中間地点に補給港が出来て、食事事情が改善されていればまた話は変わるのかもしれないが・・・・・・・・・・一隻位ならば兎も角多数の船を受け入れる事が出来る港は存在しない。
魚ばかり目についていた【寒鱈港】に比べて【紅鮭港】は色々な物が見える。穀物から酒やら【霜降細工】と縁があるのだろうか細工師の工房が多数みられる。街の造り自体も港湾施設がずらりと並び街が見えていない。そして奥の方に一際大きな建物が見えるのである。物見の塔にも見えるし、その割には屋根にはタイルなのか散りばめられて綺麗なのである。
船上の勇者(笑)には港湾施設群と大きな建物しか見えないが、それでも賑やかそうな港町に逸る心を隠せない。なんだかんだ言っても陸に上がれるのはうれしいし、色々な物を見る事が出来るのは好奇心がうずくのだろう。なんといっても異世界だし。
そして久方ぶりの陸へと歩みを進めるのである。
仕事休み貰えたので綴ってみる。
つぎはいつやすめるだろう?




