赤髪薊の復讐談
さて荒野の朋よ兄弟達よ、我は旅先似て幸いに至る道を歩む子に出会う。
彼は極北の地にて弟妹分を養わんと額に汗して働き、縁あって神々にも極北の族長達にも巨躯の戦士達にも認められるに至る。
願わくばそれほどの働きをしても尚、弟妹達に食べさせてやりたいと身を粉にする少年を我等が家族に迎え入れんと願うも「我が願いは弟妹達の幸と滅びつつある我等が薊の氏族の復興である。」と言い切り助力の手を振り払い一人立つ誇り高き男である。
我は彼の誇りに敬意を持ち、友である事を願い彼も受け入れる。
此処にて極北の小さく偉大な少年と我ら荒野の民の縁は結ばれる。我等が同朋よ彼の名は赤髪薊、極北の神々より【雪耐一葉】の号を頂く若き戦士である。彼に逢うことあらば杯を酌み交わし家族として受け入れよ。それに異議あるならば我が前に来るがよい。拳砕けるとも説得の言葉を発そうぞ。
さて、彼に対する問題を一つだけ受け入れがたく彼に黙り同胞達に助力を願う。その問題とは彼が幼少の頃彼の住まう【薊の郷】が疫痢にて朽ち果てるに任せざる得ないのである。うんの良し悪しは兎も角、神々の差配にて難を逃れし彼は【東の凍らず】にて保護を受ける。その事を嗅ぎつけるは【雪の船団】は【氷走る白鳥号】の船長。名を【痘痕鼻】という。
彼は幼き赤髪薊の両親と確執があり、かの者が亡き事を知ると幼き彼の事を疫病の元だの呪われし者だのと言い張り、この者がいる地にて交易をするのは自らも災いを受けると子供を処理する事を脅すのである。
何とも卑劣な言いぐさであってもその当時民を支える物資をかの船長が握っていることを知るに受け入れざるを得ず。幼子を追放に処するのである。
【東の凍らず】の良心は彼を殺すことを良しとせず、腐れ船長の目の届かぬ【西の凍らず】に送り届け隠す事にする。
孤児たる少年は新たな地にて恨むことなく、新たに出来た弟妹達と共に生き抜く戦いをする。
彼は幼き身にて見事に思いを御している。彼は幼き身にてなすべきことを成している。
その事に異議は認めず、異議あらば我が前に至り剣にて話し合いをしようぞ。勿論その相手が神々であろうと世界であろうと臆することなく相対しようぞ。
さて荒野の諸賢に問う、かの糞野郎の手を得てここに至る品々は幸いなるものであろうか?
さて荒野の男に問う、我は誓いに縛られて助力は出来ぬが我が誓いを破り彼の為に立ち上がる者はあるだろうか?
さて荒野の女に問う、幼子を不憫させる世界に否と言うべきであろうか?
さて荒野の大族長よ、我は流れる血と誇りに賭けて問う。
幼き子供に吐き掛ける呪詛跳ね除ける為に我は盾になろう、この事は荒野の掟に背くのだろうか?
飛び立たんとする少年にまとわりつく悪意切り払う刃となろう、この事は荒野の民への背信となろうか?
道拓かんと若き戦士が為に小さき灯となろう、この事は荒野の民の誇りとなるだろうか?
さぁ、答えよ荒野の同胞達よ!
答え無きならば我一人でも切り拓かんとする幸いに至る子の為に推参しよう。その時は我の名を荒野の民から消し去りたまえ。
助力無きならば我一人でも優しき戦士の為が唱を高らかにうたおう。その時は父母よ我の事を死したる者と思いたまえ。
荒野の同胞達よ、お前等の一人であろうと幸い無きを嘲るならば我一人荒野の民の敵となろう。その時は神々よ我の事を一筋の刃と思いたまえ。
赤岩の筋、岩より流れ落ちる滴にて命を得た一族の子、逆立つ髪が荒野の同胞に向けて文を記す。
願わくば我等が同朋が真なる荒野の民であらんことを
赤岩子爵・逆立つ髪の文より
宴の後死屍累々の戦士連中を尻目に街への帰途に就く勇者(笑)。孤児っ子やら死霊っ子やらを満載にした馬車の群れには黒焦げとなった赤髪薊が転がっているけど気にしない。彼は戦士の名乗りを許されたのに引き際と言う者を見誤った。その報いを自らの体の痛みと言う形で払っているのだ・・・・・・・・・・・
「うん、街に付いたら療養神殿に放り込むからそれまでの我慢だ!」
「ううっ・・・・・・・・・・」
「その治療費は自分で払うんですよ。」
「おんなせんせー!それはひどいとおもいます。」
「ならば転げ石、赤髪薊の治療費の為におやつがなくなってもいいの?」
「ううっ!そ、それは・・・・・・・・・」
「一回くらいならばいいけど・・・・・・・・・・ずっとだと・・・・・・・・・・」
意外とひどい子供達であった。
いやいやいやいや、女先生の質問が酷いから・・・・・・・・・(by極北諸神群入り江の泡を浮かべる英霊神)
子供の楽しみと兄貴分と秤にかけさせるなんて酷い物だ。(by極北諸神群松鶏の羽を抱く英霊神)
苦難の時が彼を磨き上げる。(by極北諸神群砥石の盾を持つ英霊神)
成れど惨い事を・・・・・・・・彼をどうして研ぎあげねばならぬのかが疑問だ。(by極北諸神群薊の花を髪に刺す女性神)
勇者(笑)としてはあまりにひどい状態の少年戦士に治療費の少しくらいは負担してやろうと思っているのはどうでもよい話である。
「これって、流石に労災だと思うんだ。」
勇者(笑)、旨い事つないだつもりなのであろうが地の文に(略)
女先生としても余裕があれば彼の治療費くらいは出したいのだろうけどギリギリな会計状況の孤児院。ここ数日は菓子作りの臨時収入があるとはいえあくまでも短期だし頼り切るのは宜しくない。この時とばかりに蓄えておいていざと言うときに備える。けち臭いとか外道とか言われそうな女先生であるけど少ない資金でどれだけ子供達を満足させることができるか腐心しているのだから子供達も守銭奴だのしみったれ婆だの言いながらも・・・・・・・・言った子は制裁されているけど・・・・・・・・・・養母として愛しているのである。
所で言った子供の自業自得とは言え、そこまで頬は伸びたりしないんですけど・・・・・・・・・・
口は禍の元であるな。(by松鶏の羽を抱く英霊神)
懐かしいですわね、よく悪さした子の頬を伸ばしたものですわ・・・・・・・・・(by薊の花を髪に刺す女性神)
・・・・・・・・・・・(by砥石の盾を持つ英霊神)
意外と子供等は丈夫なようで
「痛いじゃないか!この生き遅れの年増婆・・・・・・・・・・うわぁぁぁぁぁぁ!」
「あらあら、そんな悪い言葉を吐くのは誰かしら?私の教育が足りなかったのかしら?」
きりきりきりきり・・・・・・・・・
子供の心が折れる時は近いのかもしれない。
「ご、ごめんなさい・・・・・・」
「はい、わたしはだぁれ?」
「ぼくたちのおか・・・・・・おねーさんで美人で自慢の女先生です。」
「はい、よくできました。」
勇者(笑)と死霊っ子達(産地様々)は見なかったことにしている。しかし、お母さんくらいは見逃してあげようよと思うのは・・・・・・・・・・はい、そこで地の文を脅さないように。
【西の凍らず】につく。なんというか色々あって疲れ切った顔をしている一行。
酒が抜けきっていないのか人日卿は赤い鼻をしたままで宿の自室になだれ込んだまま出てこない。装具とかきちんとしておかないと後からの手入れが大変だぞと思った小僧っ子が思っているのだが思っているだけで手伝う事はしないのであった。彼もまた、疲れ果てているのだから。翌朝あたりに宿の下働きが良いように差配してくれるのだろう、多少の金銭を媒体にして。
子供達も孤児院にたどり着くと銘々に寝具を用意してもぐりこむ。
「寝る前に服を脱ぎ散らかさない!顔を洗って歯を磨きなさい!」
と叱っている女先生も眠たそうなのであまり説得力がない。
勇者(笑)も馬車を御してくれた比較的無事な【荒野の民】達に心付けとして幾何かの銀貨を渡そうとするのだが同道の伴から受け取るわけいかないと固辞する。ならば馬達に旨い物を食わせてやれと渡すとしぶしぶながら受け取る。彼等は言葉通りに群れの馬達に美味なる果物とか赤い岩塩とかを振舞うのである。
なんだかんだ言っても馬と子供にはとても甘い連中なのである。
勇者(笑)も死霊っ子達を引き連れて宿の自室にと戻る。宿の娘さんに一張羅の神官服の手入れだけを頼んだのは彼としては十分できている範囲だろう。そして、数日振りの柔らかな寝床を堪能するのである。
翌朝
あーさー(by太陽神)
ほぼ普段の顔として回復した勇者(笑)普通に回復する事が疑問であるがどうせギャグ補正とか言うのであろうから気にしないことにして、彼と死霊っ子達は朝食を摂ると孤児院へと向かい約束の報酬を支払う。そして転がっている赤髪薊・・・・・・・・
「まだ、連れていっていないのかよ!」
「あざみのにーちゃーん!」「早く冥界神殿の弔い手さんを・・・・・・・!」
「違うでしょ、それだったら癒し手さんでしょう!」
ずたぼろのまま放置されていた赤髪薊を慌てて療養神殿に送り込む一行であった。勇者(笑)もつかれていて彼を療養神殿に送るのを忘れていたのに気が付いた。
「あら、報酬渡し忘れてますわよ。」
いや、そういう問題でないと思いますが女先生。流石に自分等の兄貴分を放置しておいてのその発言に冷ややかな目で見る孤児っ子達であった。その視線に気が付いたのか女先生も
「もう、今から送り込んだら時間外料金かかるでしょ。もう少ししたら連れていこうと思っていたわ。それより、ちゃんと身支度できているの?」
冷や汗を流しながら誤魔化しにかかるのである。
暫し後、療養神殿にて
「なんて酷い傷、何がどうしたらこんなに・・・・・・・・・」
「それが・・・・・・・(説明中略)・・・・・・・・で、神々込の争いに思い切り巻き込まれてしまいまして・・・・・・・・・・」
「・・・・・・・・・・・取り敢えず死ぬほどではないのでしょうが・・・・・・・・しばらく時間がかかりますよ。」
「えっと右腕の刺傷、背中の火傷?凍傷かもしれんな?前身は打撲が見られるし、額には石?がぶつけられた跡がある。」
「なんでわざわざ争いに巻き込まれるなんて馬鹿が・・・・・・・・・・つける薬・・・」
びゅん!(匙を投げる音)
「・・・・・・・そっか、漬ける薬がないと神の啓・・・・・・・・・」
「まてまてまてまて!癒し手ならちゃんと治療してよ!寧ろあの馬鹿どもに付ける薬・・・・・・・・・」
びゅん!(匙を投げる音)
「そっちには付ける薬がないのは理解した。」
とりあえず、赤髪薊は治療され、数日もすれば治るだろうと保護者責任的な事をしっかりと叱られつつ神殿を後にする。貰った明細にはしっかりと匙代が記載されていたのは笑い話としておこう。これは療養神殿なりの冗句なのだろうから。
いや、これは冗句ではなく我が本心である。子供等の取り合いで氏族間闘争のみならず他国とも戦争起こしかけるとは何事だ!我等が子の仕事を増やし過ぎる大馬鹿者は一度〆ないとならぬようだな。(by療養神)
其処は冗談としておいてくださいよ。療養神様。
払い忘れていた賃金を孤児院に渡してからのんびりと市場見物としゃれ込む勇者(笑)、死霊っ子達は孤児っ子達と遊んでいるために彼一人である。久々に誰もいない状況にゆるり、気が向いたものを購入したり軽食をつまみつつ生欠伸なんかもしている。市場の顔なじみに今日は菓子屋やらないのかとか言われたりもするがそこは自主休業だと言って世間話なんかもしている。
そこかしこに死霊っ子やら孤児っ子達が数枚の銅貨を握りしめて買い食いしている姿も見えたりするのだが其処は微笑ましい光景と言えるのだろう。
そろそろ、死霊っ子達の旅の資金もたまったなとか次はどこに向かうのだろうかなどと取り留めもない事を考えながら飲み物を啜る勇者(笑)。この街を旅立つときも近いと実感するのである。
数日後、族長達も【荒野の民】も二日酔いから回復して次の地へと向かう段取りが組まれ始まる。
その回復するまでの間に孤児っ子達を引き取りたいと申し出る族長達がいて今度は冷静な話し合いと子供達との面談の末に多くの子達が新たな養い親に見いだされるのである。
【荒野の民】は海沿いの陸路で【狭間の国】に近接する港【東の凍らず】に向かう。これは彼等の馬を輸送する船が少ないのと運賃、馬の運動不足が原因である。そこに付き合うのが【極北戦士】編み込み髭、異相の異国民と現地の民との無用な衝突を防ぐために仲立ちをする手筈となっている。最初の内は方向を同じくする族長連中も付き合うから結構な大群となる。
勇者(笑)に人日卿をはじめとする聖徒王国の面々は海路で【東の凍らず】に向かう手筈が整えられる。同道するのは【東の凍らず】近辺を勢力地域とする族長達に【雪耐一葉】の号を頂いた赤髪薊。【極北戦士】の名乗りを許された彼は成人したと見做されて孤児院を出て世界を相手に生き抜くこととなったのだが一度は【薊の郷】に戻って故郷を見て来いと族長連中に説得されたのと先の老戦士薊髭との戦いで使用した香辛料他の代金(銀貨二十枚)が彼の報酬で賄いきれなくなり勇者(笑)の従者兼護衛として借金返済の旅となるのであった。族長連中も借金くらいは簡単に返せるほどの余力はあるのだが、旅でもしながら見聞を広げる口実としては良いとばかりに手助けする事はないのである。それでも同道の人日卿にくれぐれも我等が一門の若き戦士の事をよろしく頼むとしつこく言い続けるのは笑い話であろう。
「さて、大体の道筋は決まった。船の手配をせねばなるまいが適当なのがあるか?」
「ふむ、【雪の船団】の船が【東の凍らず】経由で行くらしいが・・・・・・」
「其処はやめた方が宜しかろう。何せ我等が薊の若者が貶められてそれを許せるほどには我の器量はない。」
「然り、あの下種を見かけたら憤怒のあまりに魚のえさにしてしまいたくなる。」
「これこれ、白雪草のそんな事をするでないぞ。魚にも好みと言うものがあろうって・・・・・・・」
「ふむ、我としたことが軽率であったな。」
「否、白雪草の憤りは最もだ。」
「そういう酢の実のはなにをするのだ?」
「船に穴をあければよい。我等【極北の民】はこの極北の海の覇者であろう。高々【雪の国々】のダルマ船くらい簡単に沈められるだろ。」
「ダルマなだけに手も足も出ずってか・・・・・・・」
「誰が旨い事をいえと・・・・・・・」
「ねぇ、族長さん達どうして【雪の船団】を嫌がるんで?」
「ふむ、異国の神官殿は聞いておらんか、お主に金を借りているそこの赤髪の少年の話を・・・・・・」
族長達説明中
「・・・・・・・・・・それは【東の凍らず】の連中の弱さにも憤りを隠せぬが私怨が為に少年をないがしろにする性根が同じ【人族連合】の民として許せぬ。事の次第を【雪の国々】に文を認めよう。流石にこれを放置すれば怒り狂う【極北の民】との戦にもなりかねん。」
「その怒りに感謝する。遠く人族の騎士よ。」
話を冷静に聞いているようであるが内心憤っている。馴染みの少年に襲い掛かった不幸に石を投げる行為をした下種の事は要らぬ諍いの種であり、それを防ぐのが【人族連合】の代表国【聖徒王国】の名代としてこの場にいる人日卿の役割である。この手紙によって件の船長は【雪の船団】から叱責を受けて【極北連合】への航路から外されることとなる。
「船って商船?」
「そうだが、何を考えて居るのだ?神官殿は?」
「商船と言う事は商売にならなければ損だよねぇ?その糞野郎は今どの辺にいるの?」
「そろそろ【西の凍らず】にも来るはずだが・・・・・・・」
「ならばこういうのは如何?」
勇者(笑)は悪い笑みを浮かべて説明するのであった。
そこに【荒野の民】が一口噛ませろと乱入してくるのは笑い話としておこう。自らの口を養うために懸命に働く健気な子と言うのは彼等のツボに入るものであるし、自らの旅路を正当な物とするために保護受ける大人の中で一人宣言する馬鹿な死霊っ子と言うのは彼等の敬意を受け取るに値するものだからである。
其処は勇者(笑)も同意するところであるし、【極北戦士】達も助力するのは吝かではないと言い切る所である。そんな子供達を一人とは言え私怨で貶める行為をしているのである。【荒野の民】が民族単位で怒り狂ってもおかしくない。幸いな事に(?)荒野の民の代表ともいえる【荒野十三氏族】が一つ【赤岩氏族】の若長、赤岩子爵・逆立つ髪がその場にいるのである。彼は両脇をそり上げ残った中央の髪を逆立てにらみのきかせた三白眼のやせ男であるが、その怒りをこの場で表すことなく【狭間の国】にいる彼等の統領たる【騎馬公】や王都において孤児達の守護者として名高い道楽貴族【全裸賢者】、更には孤児上がりの青年貴族である【黒髪孤児卿】、傷痕を持つ孤児娘の為に意地を張る【酒盛卿】等既知で心あるもの全てに檄文として送るのである。その後【雪の国々】経由での交易が一時激減したりするのであるがその檄文がどれだけの影響を持ったのかは不明である。
さて、さらに数日が経つ。目的の【雪の船団】の船団が到着する。
彼等の悪巧みが始まるのである。
まずは【死者の導き手】にして【慰撫する菓子の作り手】たる勇者(笑)。
彼は死霊達を引き連れて船旅を乞う。
その死霊達は人族大陸に縁を持つ者達で彼等に故郷の地を踏ませてあげたいと願うのであるが腐りかけの状態で知性の欠片すらないと断るのである。
勿論勇者(笑)はこの死霊達(死霊っ子+α)はわざと多少の誇張有で死後の無残な状態にしてもらうように願っているのである。死霊達は十分な報酬やら義憤やらで少々派手な格好をしているが十分すぎる効果をもたらしたようだ。
次に訪れたのは【荒野の民】の代表たる逆立つ髪と彼の古馴染である婆さん馬である。
彼は【狭間の国】の名門貴族である自身の身分を明かし、自らの一門とその馬達を運ぶに相応しいかと問いかける。異相の蛮族であっても貴族は貴族、しかも大国の名門であればよい縁故になると揉み手しながら案内するのだが船に乗り込もうとする逆立つ髪の後をついていた婆さん馬が押しても引いても動かない。逆立つ髪が何事か婆さん馬に問いかけると婆さん馬はブルンブルンと同意とばかりに頷く。
それを聞いて逆立つ髪は
「うちの婆さんが気に入らない船はやめておこう。」
と詫び代わりの銀貨を投げ捨てるように甲板に放り投げて立ち去る。実際の話航海後で匂い立つような男達の垢じみた体臭を婆さん馬は嫌がっていたのであるが。人の言葉を離せぬ彼女はこんなところに居たらゴミだめに追いやられると下手な人族よりも賢しい頭で判断するのである。それを酌んだ逆立つ髪も古馴染の判断を尊重するのである。もっとも、それがなくとも婆さん馬をだしにして断るという流れだったのであるが思いの外臭かったのでだしにする必要すらなく逃げ出したのは誤算としか言いようがない。
この時代の船という物はモノを運ぶために衛生概念を捨てている部分が多いのである。旅暮らしであってもきれい好きな【荒野の民】には耐えがたい物であろう。
そして最後にかの船に訪れたのが【聖徒王国】の古き名跡たる【七騎士】が一つ人日卿と同道者たる極北戦士である。
人日卿は人族大陸へ至る術としての船を乞い、同道者達を紹介する。
一人は神に仕える者。【東の凍らず】の古賢、神職・言葉閉ざす者。
一人は古き戦士。【東の大氏族】有数の強者、戦士長・薊髭。
一人は見届ける戦士。【東の大氏族】が一つ白雪草の一族から遣わされる若者、戦士・白雪髭。
一人は見届ける戦士。【西の大氏族】が一つ深き雪原が一族から遣わされる歴戦の強者、戦士・戦槌。
一人は多くを見聞きする者。【中の大氏族】が一つ塩花の一族が自由商人にして長老衆が一人、戦士・岩砕。
一人は謡う者。女神に仕える者にして癒しの御業を振るう、巫女・震える高音。
一人は孤児。先に進まんとする兄弟分を憂う優しき娘、柔韮。
一人は孤児。先に進まんとする兄弟分を支える健気な娘、雪茸。
最後は孤児にして族長足らんと欲する者。薊の氏族が最後の子にして再建誓う愚直な子、雪耐一葉の名を賜りし若き戦士・赤髪薊。
極北の民の一行は愚直な赤髪薊の試練と探究の見届け人であることを明かし、乗船を願う。
若き戦士の探求と試練の旅の後援として聖徒王国の騎士が名乗り上げる。これは大々的に名を挙げる機会だと揉み手をして靴をも舐めんばかりに船へと案内する船長。
その船に乗り込まんとする時に同道の神職達は神からの言葉を受け取る。
曰く、この者は下劣な功名心に囚われておりこの船旅は彼の餌食となるだろうと。
曰く、若き薊の子を貶めた下種がこの船長であると。
それを聞くに戦士達は得物を構えて船長の首印を取らんとする。同朋の屈辱は自分が屈辱と同じ、古き蛮族はそれぞれの誓いに則り行動を行おうとする。それに対して後ずさる船長に船を守らんとする船員達。
其処を無用な血を流すことを良しとしない建前を持つ人日卿がこの場の停戦を提案する。
人族の地にて探求の助けとなる彼の言葉に従う極北の民達。人族の有力者たる彼の言葉を受け入れるは【雪の船団】の船員達。
騎士人日卿は曰く、かの赤髪薊は弟妹分である孤児を養わんが為、自らの氏族を再興せんが為に立ち行動する高潔なる戦士であり【西の凍らず】にて名高き者である。故にこの地にて彼を貶めたる者が訪れるのは自殺行為であり敵対行為であると。
それを聞いた船長は昔のことを謝罪するも周りが受け入れず。
成れど高潔なる赤髪薊は国へ帰るだけの補給を出来るように同道の者、港の者に乞い、更には空荷で帰ることがないように商人達に乞う。
なれど、港の者は補給のみを赦し交易に関わる事を厭う。なれど、商人達は自らの利よりも年端もいかぬ少年を貶める者への理を求める。その悪名千里を超え万里を超え、私利の為に貶める支離滅裂なりし糞野郎に関わる事を拒絶する。かくして、彼等は船のすきっ腹のままに航海に出るのである。彼等はこの愚かなる船長に仕える事を後悔し、彼の愚を公開するのである。
そして二度と彼がこの海を渡ることがなくなったのは、幸いなことであり。
赤髪薊の復讐は血を流すことなく終わるのであった。
成れど流されないのは血だけであって、多くの金銭と信頼が【雪の船団】から流され、彼等が立ち直るまでに長い年月がかかり、更なる復讐の誓いがなされることは歴史のみ知ることである。
「さて、ここで追い討ち。オレ達は別な船で行くの予定だがここですることとは?」
「あの糞野郎の報復に備えて軍船を共に行かせること。」
「はずれ。」
「おにーちゃん、雪の国に一杯物資をもって商売に行く。」
「それはありだけど、そうしたら商売敵を損させる為に国ごと計ったと言われるよ。」
「わかんねぇ、神官さん答えは?」
「噂、乗った船で笑い話にしてやるんだ。船乗りと言う生き物は噂話やら笑い話が好きだろ。しかも商売敵の糞むかつくやり口が虚仮にされた話だ。金もかけなくてもいっぱい流れるぞ。」
「流言飛語による情報戦だな。勇者(笑)よ、どこの諜報戦を習ったんだ?」
「いやぁ、一般常識だし。(そんな事はありませんby作者)」
「嫌な世界だな。」「これを常識とするなんて・・・・・・・」「相手があわれに思えてくる。」
「でも、あの糞野郎が損をするというのはとても良い事であろう。」
「うむ、そこだけは評価に値する。」「こっちの足元見るから縁を切るのにちょうど良いか。」
「代替の船団見繕わないと・・・・・・・・・・」
「どうせなら冬の国々を経由する商売はどうだ?西方とか綿羊とかい必要とするのはそっちが主産地だし・・・・・・・」
「ついでだから南方とも交易したら?香料とか冷えた体温めるのによさげだし。」
「赤髪薊は民に必要な物を見つけるのが上手いな。」
「酒で温めればよいだろうが。」
「我等戦士だけならばそれでもよかろう。酒を受け付けぬ者や妊婦もいるのだぞ、香辛料自体薬みたいなものだ。常備しておくに悪くない、神官殿は南方との伝手もあると聞いている。我等にも紹介状の一つを用意してもらえぬだろうか?」
「それは良いけど、大した伝手じゃないよ。」
「構わぬ、最初の取っ掛かりだけを用意してもらえばあとは大きな流れとなろう。ちょうど、旅をして見聞広げる戦士の訓練にちょうど良いだろう。」
「あははははっ、彼等が途中途中で飲み歩いて何時着くかわからなそうだな。」
「それは否定せぬが聖徒の騎士よ、笑うところではないぞ。」
「なぁ、神官さん。俺の仕返しに乗じて色々企まれているんだけど俺だしにされてる?」
「勿論だろ、赤髪薊。族長なんだからその位しないと・・・・・・・・・・…」
「そりゃ、わかるんだけど。オレ達の情報流して他国の商船が【雪の船団】の後釜を狙おうとか狙わせて安く買いたたく話をしたりするのって・・・・・・・・・・」
「うん、商機がありそうだ。俺も一口乗せてもらおうかな。」
「ああ、神官さんまで・・・・・・・・・おれにみかたはいないのだろうか?」
「おにーちゃん、極北戦士さん達が西の平原経由するならばあそこの子達の様子も見て貰えば?」
「死霊っ子、それは良い考えだ。どうせ寄り道するんだからこっちの頼みも聞いてもらおう。どうせあそこでも貴族が狙ている可能性もあるしな。」
西方平原国厨房神殿の孤児達が狙われることではなく彼等の制作物が狙われるのであるが、それはどうでもよい話であり、極北戦士が乱入する事で撃退するべきつまみ食い実行犯が増えて苦悩するのは勇者(笑)のあずかり知らぬことであり、極北戦士が国許で大反省会に参加する羽目になるのはどうでもよい話である。
さて酒が飲みたいと思う。




