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空気は読めるものではなく

技比べ・力比べ


これは【極北】の地を始めとして戦士文化の強い地域に見られる娯楽。

力比べとは単純に力の強さを競うものであり腕相撲から組打ち(相撲)に相当するものまで様々な種類がある。漁村文化や山人文化の強い地域では力比べとして綱引きをすることもあったり重たい物を持ち上げたりなどというのも見受けられる。

大して技比べは戦闘技術を競い合うことを主としており棒や刃引きされた武具を使用して制限された状況下での勝ち負けを競い合う。


どちらも基本的にご楽である相手を故意に不具にしたり死に至らしめることは厳禁であり、負けそうになったらそれを認めるというのも一つの嗜みとされる。

「しんかんさーんつかれたー!」「おなかすいたー」

「こっちのごはんはー?」


【族長達の会議場】(略称)にて勇者(笑)と聖徒王国使節(?)一行の補助要員として連れてこられた孤児っ子達やら死霊っ子達が口々に空腹を口にする。

極北連合の族長連中が酒盛りをしている間には勇者(笑)が持ち込んだ菓子を配り歩いたり、人日卿が土産として持ち込んだ酒等を酌していたりしているので色々と働きまわっていて食べる暇がなかったのである。とは言っても、要領の良い子はつまみをちょくちょく相伴に与っていたり貰っている子もいるのだが・・・・・・・・・

それでも、子どもというものは腹減らしなのである。よく動いていれば腹が減る、氷竜の酸っぱい吐息(婉曲表現)のせいで宴会場を移すなどという馬鹿馬鹿しいことも行った後なので余計に腹が減っているのだろう。勇者(笑)も酒とつまみばかりで小腹がすいたので食事を作ることになる。


「お前ら竈から作るから穴を掘れ。」

「どんくらいの穴?」

「お前が入るくらいの穴だな。」

「穴掘ってどうするの?」

「それはお楽しみだ。」

「えー、僕埋めちゃうの?」

「埋めてほしいのか?」

「やだやだー!」

「おにーちゃん冗談きついよ。」

「まぁ、穴が竈になって鍋になるんだがな。」

子供達は顔中に疑問符を浮かべている、勇者(笑)は気が付かないふりをして子供達に食材を切り分けたり火をおこしたりするように指示を出す。

「小僧っ子のおにーちゃん、神官様何作ろうとしているのだろう?」

「おいらにもわからないな、にーちゃん色々妙な調理法知っているから、それを披露するんじゃねぇの?」

「ふーん、料理人のおにーちゃんにもわからないことあるんだ。」

「にーちゃんの頭の中に何が入っているのか全部取り出してみてみたいよ。」

「取り出したところで脳みそしかないんじゃない?」

「小僧っ子に雪茸、手が空いているならば肉を切り分けておいて塩振っておいてくれ。」

「あいよっ!」


穴を掘って、底面に菰を敷き、その上から香草を敷き詰める。そして、食材を置いてから塩と酒を振りかけて更に香草をかぶせ、菰で封をするようにかぶせる。その上から土をかけて、

「神官さん、埋めちゃうの?」「穴にご飯じゃなくて僕らのごはん!」

「お前ら、この上から火を焚いておけ!」

「えっ?」

「これである程度時間がたてば地面の中で肉や野菜が蒸し焼きになるんだ。その間に汁物とかいろいろ作るぞ。軟韮は麺麭を捏ねておけ、生地は固めにな、雪茸は別に火を焚いてお湯沸しておけ。」

「わかった。」「うん!」

「死霊っ子達は干した茸とか野菜で汁物づくりだ。」

「しんかんさまー、香辛料使っていい?」

「ちょっとだけならな。あれ高いんだから。」

「おにーちゃん、【荒野の民】のおじちゃんたちが来たよ。」

「そっか、じゃあ干し肉分けてもらって汁物に加えるか、こっちで飯でもどうだと誘っておいてくれ。」

「わかったー」


子供達がそれぞれに分かれて準備をしていると、族長達の付添だろうか女子供衆が物珍しげに近づいてくる。こっちが食事の準備をしているのだとわかると酒盛りをしている男連中を後目に自分等も食事やら野営の準備をするのであった。


「異国の神官様?何を作っているので?」

女衆の一人が疑問を投げかけると

「肉や野菜の蒸し焼きですよ。あっちはあっちでまだまだ時間がかかりそうだし俺がいなくても気が付いていないようだしね。酒盛りから逃げても問題ないでしょう。」

「まぁ、酔いつぶれて寝ているとか他の輪に混ざっているくらいにしか思われないでしょうから問題ないですけど宴の主賓が何をしているのかと・・・・・・・・・・・・」

「あはは・・・・・・・・・そっちは何を作っているので?」

「これ?うちの氏族の名物料理で・・・・・・・・・・」

「なるほど、これがこうなってそうなるんだ・・・・・・・・・・」

いつしか女衆たちと料理談義になって小僧っ子やら孤児っ子も混ざって色々賑やかな風景となっている。



勇者(笑)が離れたことに気が付いていない男連中(酒盛り中)は何時もは遠く離れている他の氏族の族長やら戦士連中と杯を交わしあったりしている。酒に飽いた連中は力比べをしたり武技を競い合ったりしている。

「極北にいる友にして戦士戦鎚よ、宴の場はこっちでよいのか?広すぎてわかりずらかったぞ。」

「おおっ!逆立つ髪、よく来た!すまぬな、ちょっと教えた場所に難があってな。皆の者よく聞け!遠くは【狭間の国】馬を駆る誇り高き【荒野の民】の騎馬戦士達が我等と杯を酌み交わすために駆けつけてくれたぞ!」

勇者(笑)達の野営道具やら食材を運び込んできた荒野の民もこのまま宴会に突撃するのである。戦鎚の挙げる声に極北の男達も杯を掲げ

「よくぞ来た!友よ!」

だの

「まずは我等が幸福なる出会いを神々に感謝しよう。」

「こっち来てまずは飲めや!」

だの歓迎の意を顕わにする。極北の男達は無骨な戦士文化であるが良き酒があれば誰とでも友となり同胞となれるのだ。そして荒野の民も旅暮らしをする遊牧文化故、礼を示し認めるに値するものがあればそれを認め友とするのを幸いとする。彼等は人族連合の者からすれば風貌怪異で蛮族と言われる連中なのだが懐に入れば何とも趣深く高潔な者達なのである。酔っ払いだけど。


すまぬが我らが子を酔っ払い扱いするのはやめてもらおう。(by荒野神)

地の文、それはひどいと思うぞ。(by極北神)

でも、我等が息子達が年から年中酔っぱらっているのは否定できませんわね。(by極光神)


神様方地の文に茶々入れするのは・・・・・って、宴に交じっているんですかい!


うむ、子供等と混じって楽しむのも悪くなかろう。(by極北神)


極北の神々は地の者と共にある。神も人も混ざって杯を交わしあい交流を深めていくのである。


「掻き鳴らす琴よ、一つ爪弾いてくれないか?この幸いなる宴を盛り上げるようなことをさ。」

「うむ、白雪髭。一つ紡ごうではないか、我らが故郷の地【荒野】より離れた【王都】にて大杯求めて男達が己の限界まで超えて挑む物語を・・・・・・・・・・・・・」

「それって、いつぞやの【酒合戦】・・・・・・・・」

掻き鳴らす琴の【酒合戦】は当事者である極北戦士底無やその当時の駐狭間の国大使である熊討勇士が目の前にいるにもかかわらず面白おかしく語られるのであった。


やんややんや


「なぁ、底無。本当に鬼がたるで一気飲みしてしばかれたんか?」

「ああ、あれは見事な一気飲みだぞ。おかげで酒が飲めないと雷竜の爺様やら岩妖精のおやっさんがかんかんでさぁ・・・・・」

「しかし、おれも参加したかったぞ。」

「おまえ、族長だろうが。」


掻き鳴らす琴の語りを肴に盛り上がる一同、そこに宴に巻き込まれた孤児っ子もいるのである。

「おぅ!おめぇは異世界神官のおつきの孤児っ子じゃねぇか!お前ものめのめ!」

「えっと、酒飲んだことないんで・・・・・・・・・・」

「大丈夫だって、おめぇも極北の男ならば酒位水のように飲めるだろう。しかも初の酒?そっかそっか・・・・・・・ おいっ!【酢の実】のおめぇんとこの黄金色の蜂蜜酒わけてくれ。こっちの小僧が酒童貞捨てるからよいいの飲ましてやらねえとな。」

「酒童貞言うなよ、下品だな。初飲みはよい酒をというのは同意だがな。ほら其処の赤髪ののっぽが初飲みのか?我等が【酢の実】の郷の蜂蜜酒だ。黄金色できれいだろ、うまいぞ感覚が研ぎ澄まされたようにもなるいい酒だ。まずはぐいっといってみろ!」

「それじゃあ、いただきます。うまっ!」

「おおっ!いいねぇ、よい飲みっぷりだ!」

「だろ、だろ、我等が蜂蜜酒はうまいんだ!もっといくか?」

「いただきます。」

宴に巻き込まれた割にはなじんでいる赤髪の孤児っ子こと赤髪薊、極北の男らしい酒の強さに周りの男衆も気に入ったようだ。


「いい飲みっぷりだ、今度はこっちも試してみろやコケモモの蒸留酒だ。」

「始まりの麦を使った酒も悪くないぞ。」

「こっちのはなんか燻製のような・・・・・・・・からっ!」

「はははっ!腹の中に火が付くようだろ。舐めるようにして飲めという輩もいるがそれじゃ極北の男らしくない男ならばくいっと呷るんだ。」

「こらこら無茶飲みを教えるんじゃない。うまい酒は口の中で転がして味わうものだ。」


初飲みの少年を前にして大人達が飲み方の指南をしている。

「少年、名を何というのだ?」

「赤髪薊と呼ばれていますが・・・・・」

「薊?薊の氏族の出か?」

「はい、【東の凍らず】から離れること数日、薊の郷が俺の故郷で父の名は舞行く綿毛、母の名は明けぬ夜になります。」

「おおっ!薊の裔がここにいたか!」

「舞行く綿毛ならば我が三従弟甥だ!我等が流れをくむ氏族の裔が不自由しているなんて・・・・・・・・・」

「不自由してないですけど女先生や極北神殿の方々にはよくしてもらっているし・・・」

「おおっ!明けぬ夜ならば【東の凍らず】にて極光神様の巫女を務めていたではな、なるほど赤髪が目立ってわからなかったが面影がある。しかし神殿の連中も不義理なことだ、我等が東の氏族の子がいるならば教えてくれてもよいものを!」

「ふんっ!名乗りをするまで気が付かなかったお前等に言われとうないわ!」

「しかし、どうしてこんな遠くまで?薊の郷に起こった難を逃れた?」

「そ、それは・・・・・」

「少年に代わりわしが話そう。薊の郷に雪崩が襲ってその後で疫痢がはやったのは知っておろう。彼はその残りの一人だ。まずは【東の凍らず】の神殿で保護されておったんだが、【雪の船団】の船長にいたろう痘痕面の糞野郎。あいつが疫痢の地の子供がいるなんてとごねてな、騒ぎが大きくなってしまったんで仕方なく目につかない所にということで西まで送ったんじゃ。この子にはすまん事をしたと思っているが【雪の船団】がもたらす物資は【東の凍らず】では必要だったんでな・・・・・・・・・・・・・」

「いえ、あの時は仕方なかったんですよ・・・・・・・神職さん」

極北神殿の老神職が簡単に語った同族の不幸に極北戦士達の涙を誘う、特に東側に勢力範囲を持つ面々は交易を盾に少年を無体した【雪の船団】に憤りを隠そうともしない。


「なぁ、神職さんよ、この子が病持ちでないことを説明したのだろ。」

「もちろんじゃ、もっともあの糞野郎は明けぬ夜に懸想していたから薊の氏族がいるのが気に食わなかったんだろ。」

「それにしてもだな・・・・・・・・・・・・胸糞悪い話だ。」

「我等の糧を脅しの種にか・・・・・・・・・・・・薊の子よ。すまなんだ、もっと前にお前に気が付いていれば・・・・・・・・・・・・」

「頭を上げてくださいよ【酢の実】の族長様、【蔓苔桃】の戦士さん。西に来たからみんながいるし俺だっていろいろ楽しく過ごしているんだし、恨まなかったということはないとは言えないけど今幸せだしいいよ。」

「うん、よい性根をした子だ。これは詫びの印に、10年物の蜂蜜酒だ!遠慮せずにやってくれ。」


湿っぽいことを終わらせ宴が続く、東の氏族衆の胸中には胸糞悪い【雪の船団】の某船長に対して一族の借りを返す誓いが建てられるのであった。




「神官さん、生地こねたよー」

「どれどれ?いい感じだな、薄くのばしてから木の棒に巻き付けて・・・・・・・・・・」

「おおっ!くるくるだ!」

「そうそう、これを火にかざして適当に回しながら焼けば・・・・・・」

「焼けていくのが見える!」

「できる?雪茸。」

「やってみるぅ!」

「火傷しないように気を付けるんだよ。」

「うんっ!」


「おにーちゃんまだできない?」

「もう少し待とうな、これって実際半日くらいかけて作るもんだし・・・・・・・・」

「夜仕込んで朝食べる的な?」

「そうそう。まぁ、麺麭が焼けたら開けてみようか。」


「こっちの汁物は完成だよー!」

「どれどれ?いい匂いだな味は?・・・・・・・・・・・うん、だいじょうぶだ!」

「お腹すいたよー、これだけでも食べちゃダメ?」

「ぜんぶ出来てから・・・・・・・・・・・って言いたいけど、お前等の状態じゃ無理か。出来た所から食べればいいよ。」

「いよっしゃー!みんなごはんだよー!」

「ごはんごはん!」

空腹を抱えた子供達の視線やら何やらに耐えきれなくなった勇者(笑)は出来た物から食べる許可を出すのである。なんか食べている人数が増えている気がするのは気のせいである・・・・・・・・・・・・・・と言いたいのだが他の氏族の女子供衆も便乗して、色々持ち寄りの食事会状態なのである。それならば仕方ないかと彼もいっしょに食べ始めるのである。



大体同時刻、赤髪薊は初めての酒を飲みながら戦士達の話を聞いている。酒の飲み方から戦い方について、今は亡き父母や郷の者達の事など・・・・・・・・・・・

男達は、特に東の大氏族に属する者は幼いといっても良いくらいの同朋に教えをたれ導きを与え出会えたことを喜んでいる。まぁ、年若き者に教えを語る者もいるわけで赤髪薊に語るのは東の大氏族の間でも名の知れた長老格の老戦士。左目が傷によって潰れ、武具もつ拳も傷まみれという歴戦の勇士の教えは一風変わっていた。

「お前も薊の男ならばいずれは戦うこともあるだろう。戦いというのはな覚悟することで決まるんだ。いくら力が強くても逃げ腰になっていては勝てる戦も勝てはしない。怖いと思うのは仕方がない、痛いのが嫌なのは誰も一緒だ。ならばどうするか?わかるか?」

「逃げずにふんばる?」

「いいや、足掻くんだ!別に敵を倒すことだけが勝利じゃない、目的を果たすのが勝利だ。そのためにいくらでも逃げても良いし喚いても卑怯に手を染めても良い。そこを勘違いするな。勘違いして突撃して名を守るなんてことは脳みそまで筋肉が詰まった馬鹿のやることだ・・・・・・・・・・・今のお前のなすべきことは?」

「孤児院の弟妹分を守る事と薊の氏族の再興です。」

「ならばやるべきことは一つ!強くなる事と生き残ることだ。わかるか?お前は優しい、薊の様に誰それ構わず恵みを与え大地を肥やしていく生き方をしているのはよくわかる。だがな、強さの裏付けのない優しさなど誰かに恵みを与え続けることなぞ出来ぬし生きていなければ目的を叶えることが出来ん。薊の根っ子のようにしっかりとした地力をつけろ、薊の葉のように悪しき者を近づけぬ力を持て!わかるな。」

「はいっ!」

「聡い子だ。言葉の教えだけではこの場は勿体無い、稽古をつけてやろう!誰か、武具を持て!」

「はっ!」

「稽古というと技比べ?力比べ?」

「そうさなぁ、実戦形式で技比べと力比べするか、あともう一つは手加減としてお前の得意な物で挑んで良いぞ。」

「なんでもいいんで?」

「ふむ、東の古き戦士薊髭の名に賭けて誓おうではないか!」

「えっ!薊の名を持つってことは同族?」

「お前と同根になるな、もう数十年ほど帰っておらぬから薊の氏族と言って良いのか分からぬがな。ところでどうした?お前の得意なものを言わんか?」

「それは力と技の比べのあとで。あと準備していいですか?」

「うむ、支度の時間くらいわしの方でもあるからな。互の準備が出来たらはじめるとしよう。」

「はいっ!」


なぜか力くらべ技比べをする事となった赤髪薊は万全を迎えるために準備をすることとなる。

とは言っても神職に頼んで【酒抜】の神術を乞い酔を覚ますことと、用をたしてスッキリすることくらいなのであるが。

暫し経って、互いに準備が出来たのを確認すると宴席の外れに対峙する。二人の対峙を目敏く見つけた胴元(先の賭け試合を仕切っていた極北戦士)はどうゆう状況なのか聞き、面白そうだと触れ回るのである。

「おうっ!薊の裔と東の大戦士が稽古するってよ!」

「そりゃ、無茶だろどう見ても賭けにならねえだろ。」

「ふふふっ!そこは俺の腕の見せどころよ!三戦するから何勝何敗でどっちが勝つか賭けるのよ。」

「それでも薊の坊主のボロ負け確定だろ!」

「甘いな、そこのチクチク髭の爺さんは一つだけ坊主の得意な物で挑めと言っていたから運び方によっては芽も出るだろ。」

「なるほど、俺は坊主が全敗に銅貨一枚。」

「俺は坊主の一勝に銅貨一枚!」

「久しく隠れていた我が類族の初舞台だ二勝に銅貨十枚。」

「氏族の名乗りなければ我等が貰い受けようかと思っていた良き少年だ。全勝に銅貨五枚。」

「荒野の我等が子を持っていくつもりだったのか?」

「ああ、良い性根で筋も悪くない。金貨払ってもおしくないぞ。」

「そうそう、荒野の民は子供好きだから良い子がいたら我が子にしたがるのだよな。」

「そういうことは先に言え、後で触れを出さねばな『荒野の民が通るから子を隠せ』とな。」

「おい、我らを人さらいみたいに言うな!」

「そう言っても奴隷替わりに使われていた孤児を拐ったのもお前らだろ!」

「戦槌、お前だってあの養い親のでっぷりとした腹を殴りつけただろうが。」

「ふんっ!加減も知らずにガキを殴る馬鹿が嫌いなだけだ。」

「戦槌、お前外国で問題起こすなと言っていたはずだが・・・・・・・・・・・」

「げぇ!戦士長!それはその・・・・・・・・・・・・えっとあれでして・・・・・・・・・不憫なガキを見逃したとあっては戦士の名折れだと・・・・・・・・・」

「けしからん!だが、悪くはないぞ。だがな、霜降での酒合戦は・・・・・・・・・」

くどくどくどくど・・・・・・・・・・・・・


観衆賭け中、一部説教中。


「なんかダシにされてますけど・・・・・・」

「よくあることだ、あとで胴元には酒の一つでも奢ってもらおう。どれから始める?」

「では、力比べを」

「うむ、かかってくるが良い!」

「おうっ!」


力強い掛け声とともに赤髪薊は薊髭に向かって組み付いてくる。幼いとは言えそれなりの体格を持つ赤髪薊の突進の衝撃をわずかに下がる程度で受け止める膂力は幾星霜の間、鍛え抜いたものとしての結果が出るのだろう。赤髪薊が力を入れるも動じることなく、逆に薊髭にも力が入る。


ぐぎぎ・・・・・・・・・


両者の力が肉体という器を通して溢れ出し拮抗する。薊髭の押し出しにも若さでもって対抗し負けてたまるかと腰を落として足元から踏ん張りをかける。

「ふむ、やるじゃないか!だがわしはまだまだいけるぞ!」

「爺のくせになって力だ! 」

「ほれっ!まだまだいくぞ!ふんぬっ!」

「くそっ!」


薊髭が力を更に入れる、それに負けじと赤髪薊も押していこうと力を込める。極北の男の膂力は強い、両者の力はどれだけ強くともそれを支える大地の方がたまったものではない。ましてや柔らかな芽生えと花の咲く草原においてはどれだけ大地に根が張って硬かろうと上の草花は柔らかく・・・・・・・・・


ズリッ!


拮抗していた両者の足元が草花で滑り組み合ったままの状態で腹を地面に打ち付けることとなるのである。


どすんっ!


老いた戦士も若き戦士足らんと志す者も等しく地面に胴体を打ち付ける。

そこで審判役をしていた胴元が

「両者地に付いたため引き分け!」

と宣言するのである。


「畜生!大番狂わせだ!」

「こっちもやられた!爺さん何やっているんだよ!」

だの周りの声がうるさい中、向かい合う二人は用意された棒を構えて、技比べと移るのである。


「ふふふっ!中々の力であったぞ。まさか草で滑るとは・・・・・・・・・・・」

「やりなおします?」

「まさか、あれはあれでそうおいう結果にしろという神々の思し召しなのだろう。」


いや、それはないから。(by決闘神)

我も観衆として見ていただけだし。(by極北神)

若い子の奮闘する様はよいものですわね。(by極光神)


そんな神々の茶々入れなど知らず、両者が間合いを図るのである。

棒の先を薊髭に向けて突撃の構えをする若き赤髪薊に対し、同じく棒の先を向けて構える薊髭。

奇しくも同じ構えを見てどちらが先に致命打を与えるか、観衆は固唾を飲んで見守っている。


「うらぁぁぁぁぁ!」

気合の叫びを上げながら飛び込んでくる赤髪薊に対して棒の先同士をぶつけ合う。


ごっ!


鈍い音がして両者の棒の先端が砕ける。これが実戦ならば薊髭愛用の豪槍がたいていの武具に打ち勝つのであるがそこは訓練用の棒、互いに打ち合う威力に負けてしまうのである。棒の先がダメになったのを気にせず更に打ち込んでいく薊髭!それを内懐に飛び込むように避けて棒を投げて拳をで殴りつける赤髪薊、若き拳は相手の顔面をブチ抜かんと当たるのだが老戦士の感は鋭く、額を向けることによって拳と相対する。


がつっ!


拳と額、どちらにも等しく衝撃が走るのだが打ち負けたのは拳の方である。赤髪薊は思わに痛みに後ろへと飛び退くとさらに攻めるとばかりに薊髭の攻撃が続く。武具を手放し拳も炒めた赤髪薊は数合ほど避け続けた後に攻撃を受け負けを認めるのである。



さて、最後の勝負になるのだが、両者息を整えたあとで

「さて、次の勝負は何を求めるのだ?」

東の古き大戦士薊髭の問いかけに幼き孤児である赤髪薊は考える。力では運に助けられ技では太刀打ちできず、自分になにができるのだろうかと・・・・・・・・・・

この選択は戦いの一部であり、足掻きの一つである。純粋な戦闘の技で勝てるわけはなく自分の持つ強みとは何か?悩むのである。

そんな若者の姿を笑みを浮かべながら堂々と待つ老戦士、その姿は風雪に耐えてしっかと根を張る大木のような風情であった。

観衆も最後の勝負とあってどのような勝負が繰り広げられるのか、若く経験がない割には僅かなりとも歴戦の古強者に喰らい付く様は賞賛に値し見届ける価値があるものだと判断する。


そして少年の選択は

「味比べで!」

「味比べ?」

「ええ、俺が一番得意とまで言わないまでも勝ち目があるのは料理だ!だったらこれで勝負をする!なんでもいいといったのはそっちだから文句無いだろ!」

「ぐぐっ!確かに・・・・・・・・・・・・・・・しかし普通ならば戦士らしいものを選ぶのが普通だろ。」

「胴元さん、これって問題ある?」

「勝負の内容としては問題ない。賭けをまとめる身としてはもう少し見栄えがするものをお願いしたいがな。まぁ、爺さんが油断したということで最後の勝負は味比べだ!」

「とは言え、どうやって勝敗を決めるのだ?」

「単純に料理を作って食わせてうまいと判断したものの多い方でいいんじゃない?」

「流石にこの人数は多すぎるぞ。少し数を絞れ。」

「わかった!五人くらいでどう?それならば一口位づついけるだろ。」

「うむ、ならば判断役を互いに二人づつ選んで端数は胴元に用意してもらうか。」

「わかった!選びながら料理の準備も進めるけど良い?」

「うむ、わしもそうしよう。胴元異存はないな!」

「ならば、四半時後にここで始めよう。」



四半時後、観衆達が火を起こし簡単なかまどを作る。流石に火を起こすところから始めるとなると時間が掛かりすぎるのでそこは両者ともに平等な条件として用意されるのである。

老いたる大戦士である薊髭は肉の塊を塩と香草と共に持ち込み、審判役として古馴染みである【東の凍らず】の長老格と【蔓苔桃】の族長の二人を連れてくる。若き孤児にして新進気鋭の菓子屋台が主力である赤髪薊は西の【極光神殿】の金庫番、なぜ厨房神殿に居ないのか不明だと言われる美食家(グルマン)腹声と遠く【狭間の国】は【荒野の民】が一人である掻き鳴らす琴と連れたち、【始まりの大麦】の粉と肉や野菜の細かく刻んだもの等を用意している。そして公平を期すために端数の審判役として胴元が連れてきたのは【聖徒王国】の【七騎士】が一つ人日卿である。

そして、調理開始の合図をしようとするとき・・・・・・


宴の余興で面白い事をしようとしているのに我を呼ばぬとは悲しいぞ!(by極北神)

ふむ、この赤髪の子供の菓子は美味なのだ。妾にも振舞うが良い!(by極光神)


極北諸神群の主神格の二柱がふらりと現れる。宴に紛れていたのは皆知っていたのだが、流石に審判役に誘うのはと・・・・・・・・・・・遠慮がちだったのだがむしろ誘わない方がお気に召さなかったようで自ら名乗りを挙げるのであった。そして、神々の言に微小なる人の子は逆らえるはずもなく・・・・・・・・なし崩し的に審判役が増えるのであった。


そして料理開始!

薊髭は肉を串に刺すと塩と香草を塗し、まずは近火にて表面を炙り旨みを閉じ込める。そして少し火から遠ざけてじっくりと中まで熱を加える。ここで彼の拘りなのか肉に熱は通すのだが中まで火を通しすぎない、表面は焦げ目が香ばしいのに中は赤みがかった状態を目指して火にかける位置を変えている。

対するは赤髪薊、【始まりの大麦】の粉を乳清と卵を混ぜ少量の楓蜜を加える。そして持ち込んだ肉を鍋で焦がすように炒め、いつの間にか用意したのか南方の香辛料と塩で味を整える。この南方の香辛料を分けてもらうために後で代金を払うと勇者(笑)に言ったので彼の財布に寒風が襲うことになるのだがそれは後の話。ここで彼が思っているのはこの爺に一泡吹かせてやれということである。


互いの火のそばには肉の焼けるいい匂いがして両者にそれぞれに賭けている観衆の食欲もかきたてている。なんたってほとんど酒くらいしか飲んでいないから余計にくるものがあるのだろう。


「肉を焼いているだけで勝てると思っているのか?じいさん俺の料理で腰抜かすんじゃないぞ!」

「抜かせ小童が!細工がすぎるぞ、肉は単純であるからこそ旨いんだ!」

「美味い肉ならばそれなりの拵え方があるだろう!戦ばかりにかまけて美味を知らないなんて不幸だな爺さん、俺が美味というのを教えてやろう!」

「美味というのはよく知っておるぞ、そこの貧乏舌ではわしの焼く肉の玄妙を知るわけないか!」

味比べなだけに舌戦も繰り広げられているのである。孫と祖父の差位あるのに何互いにムキになっているのやらと思っているものもいなくはないのだが、そこはそれとして料理の匂いや進行具合に観衆は盛り上がっている。


そして、赤髪薊は肉の焼けた鍋をおろして、新たに鉄板を用意!鉄板が熱せられると同時に乳脂を溶かし熟させると先ほど溶いた大麦の生地を流し込む。肉を焼く匂いとは別に穀類の焼ける香ばしい匂いが立ち込める。薄く伸ばした生地がさっと焼きあがるとそこに先ほどの肉、予め刻んだ野菜、乳酪等を乗せてくるりと巻く。その時に審判役の面々に好みを聞くことを忘れていないのは彼なりの気遣いか?

薊髭の方も肉塊がいい具合に出来上がっている。表面の焦げ目から小さくひび割れ肉の脂がジワリと滲み出て火に落ちるそこで上がるジュッ!という音と共に煙が立ち込め肉に煙の風味が付いてくる。実は薪に細工がしてあり肉と相性の良いハンノキの薪を使っている。ハンノキの煙はナッツのような香りを肉にもたらしてくれる。これは野営の多い戦士暮らしの経験のなせる技であろうか。


そして、両者ほぼ同時に出来上がり切り分けられ、取り分けられそれぞれの料理が審判役の前に並べられる。それぞれの料理は特徴は違えど匂いは良く食欲を掻き立てられる。見物の観衆の中からも匂いを嗅いで腹を鳴らすものが・・・・・・・・・思わず腹を抑えて赤面するもそれを笑うものは誰もいない。皆料理に目が向いているのだから。


胴元が審判役の面々に試食してくださいと言った瞬間、風上の方から料理の良い香りが・・・・・・・・・

そう、それは勇者(笑)他が穴を掘って作っていた土中蒸しやら荒野の干し肉で出汁を取った具だくさんの汁物、更には焼きたてのパン・・・・・・・・・・・更には宴から逃げ出した女衆が作った数々の料理・・・・・・・・の美味なる匂いが流れてきたのである。


そちらに目を向けると蒸し上げられた香草の香りに包まれた肉や野菜を滴る汁ごと齧り付き飲み下している子供達の姿が見え、各地の美味を取り分けて食べている女衆の姿が見え、更には焼きたてのパンの香りに焼きあがるのを待ち構えている死霊っ子の姿が見えるのである。勇者(笑)は蒸し上げられた肉に香辛料をふりかけさらに炙る。単純に香料の焦げる匂いが風下側に襲い掛かるのである。


美味なる匂いが襲い来る中で審判役の面々は自が責務を果たすのである。彼等の料理が決して不味いわけではなく寧ろ美味なる部類であることを記しておきたい。

ただ、不運だったのは風上で美味そうな料理が用意されていて、それを匂いだけで我慢しなければならないことである。多分、審判役が判定を下す頃には粗方食べ尽くされているのだろうし、取り分けて残すなどということはないだろう。

結果を簡単に言うと4対3で赤髪薊の勝ちであったとだけ記す。そして勝負自体は一勝一敗一分けの引き分けで勝者なしとなり、賭けに勝った者は誰もなく胴元の一人儲けとなるのであった。


がしかし、古強者の薊髭に対して戦いで負けたとは言え見事に食い下がって引かなかった赤髪薊に対しては場にいる戦士族長連名で極北戦士としての名乗りを許され、更には極北神より【雪耐一葉(ゆきたゆるいちよう)】の名を下賜され一人の戦士として独り立ちすることになるのである。

初めてこんなに長く綴った。執筆中小説って初めて使ったけど結構使い勝手良いな。


さて、酒だ。

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