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きしと猫

船乗り猫


長期間の航海をしている交易船や軍船に飼われている猫。主な役割はネズミ捕りや船員の慰撫である。国々によって好まれる毛色があったり性別があったりするのだが調べてみると面白い。


例えば霜降国から西方平原国の河船では泳ぎが達者な猫の説話からか長毛でキジトラの猫が好まれているし、北部沿岸地域では雪の中でも目立つという理由で黒い猫が好まれている。南方の商船団では三毛猫のオスが珍しいからと縁起物にされている。極東では船名主様等といって二尾猫をお迎えするといった風習もある。


また、船によっては一定の地位につくためには猫に好かれないといけないといった慣習があったり、猫の地位が夜警長だとか防疫長なんて下っ端船乗りよりも上だったりなんて事はよく見かける。

騎士は長く続いた平穏な日々で己の感覚が鈍っているのを思い知らされていた。

竿先から海中に気を配り、陸上における哨戒も忘れてはならない。そしてそれらの殺気を伸ばしすぎると魚が逃げるので自らの気配も抑えないとならない。

この地に来て半月あまり、最初の敗北は彼に教訓を与えて鍛え直す切っ掛けとなる。


糸より伝うあたりの感触、騎士が竿に気を取られる一瞬に彼に敗北を与えたものが獲物を狙って飛び出してくる。かの種族は生まれついての狩人で腑抜けた騎士ならば隙を突くなんて事は当たり前のようにこなす。だが、騎士も今までの安穏の中で鍛える事を怠った過去を切り捨てている。



喝っ!


騎士の気合の声は獲物を掠め取ろうとするモノを退けるに十分であった。

そして気合一喝で竿を引き上げ騎士は獲物を捕らえるのである。

釣り上げたのは食べ応えのありそうな魚69(あいなめ)、これは煮ても焼いても旨い。


騎士には日々の鍛錬こそ糧となる、そして釣り上げた魚は確実に彼の糧となる。


「ふっ、猫よ今日は私の勝ちだな。」


隙をうかがいつつも隙がないことを覚ってその場を離れていくぶち猫。心なしかやつれているようだ。

にらみ合いを続けても腹が減るだけなのだろう。

この地に着てから半月あまり、一行の船の手配が順調ならず分散して【極北】に向かっている。

暇さえあればここで釣りをしている騎士だが毎日のように魚を狙ってくる泥棒猫との勝率もだんだん上がってきている。それに従い獲物が獲られないからなのか斑の泥棒猫のやつれっぷりが目立ってきている。騎士は敵に情けをかけた心算なのか釣れた魚の中から小振りなのをひとつ取り出すと猫に向かって放り投げる。


いきなり投げつけられたものにビクリと避けるもそれが待ち望んでいた魚であることを素早く掠め取って岩陰に逃げ込む。これで奴も一日生き延びることが出来るだろう。

今日の釣果はまずまずだ。一つ位猫に呉れてやっても問題はない。もっとも、釣れていなくても宿に戻れば飯は出るのだが・・・・・・・・・・・・



みやみや・・・・・・・


ぶな・・・・・


岩陰ではいくつかの鳴き声がする。怪訝に思った騎士は猫が逃げていった岩陰へと気配を殺して進む。

そこには白い毛並みをこびり付いた血で染めている泥棒猫の連れ合いと思わしきメス猫と4匹の子猫がいた。斑猫は連れ合いの毛並みを舐め傷を清めようとしているが傷で憔悴しているのか弱弱しく蠢くばかりである。先ほどの魚も子猫に食わせようとしているのか手付かずなのだが乳離れもしていない子猫には無理な話である。

成る程と騎士は斑猫がやつれているのを理解し岩陰に踏み込むのである。


騎士が踏み込むと同時に斑猫は愛する家族を守ろうと気勢を挙げるのだが所詮は小動物、爪を立てたところで殆ど意味がなく傷ついた白猫と子猫を奪い去られてしまうのである。


白猫を見た騎士は傷自体は少々深いが手当てをして静養すれば何とかなるだろうと水で傷口を清め手持ちの傷薬を白猫の傷に塗る。その刺激に白猫がブニャッと鳴くが

「これを塗っておけば傷の治りが早くなる。お前には育てるべき仔がいるのだろ、しばし我慢しろ。」

そういって撫でると気持ち良いのかゴロゴロと喉を鳴らし始める。さらに白猫に釣りの合間に抓もうとしている乾酪を千切って与えると舐めるように味を確かめて齧りだす。


白猫はこれで大丈夫。子猫には・・・・・・・・乳を与えればよいが手持ちがない。宿に戻れば荒野の民の馬の群れに母馬がいたから馬乳を分けてもらえばよいか。そう判断するといまだ爪を立てている斑猫に残りの乾酪を与えて餌付けしてみる。

白猫が食べていたことで大丈夫と判断したのか、掠め取って味を知っているからか貪り付いてくる。

子猫も乾酪の匂いに興味を示したのか斑猫に近づいて一緒になって舐めている。

白猫は騎士の腕の中で安心したかのように眠っているし、騎士に害意がないのを理解したようだ。


ひとしきり乾酪を食べつくすとブナと一声感謝を示すかのように鳴いて騎士の足元に一度すりつくのであった。



「猫よ、来るか?」

騎士が問いかけるとブナと鳴いて子猫を咥え始めた。流石に全ての子猫を運びきれないのを見てくすりと笑うと子猫を懐の中に入れ始める。少々狭いが宿に着くまでの我慢だと思ったのだが、狭くて暖かくて居心地が良いのだろう二三度爪を立てると団子となって眠り始めるのである。


片手に白猫、懐には子猫を詰め込んだ騎士は本日の釣果を入れた魚篭を担ぐと斑猫を伴い宿へと帰るのであった。




町の門衛が見慣れた騎士の姿を認めたのは夕暮れには程遠い頃であった。

「おや、騎士様今日の釣果はどうでしたか?」

「ふむ、まずまずだ。お前の所もどうだ一つ?」

「これは見事なホッケで・・・・・・・・・良いんですかい?貰える物は有難く貰いますけど。」

「まぁ、こんだけ有れば少々余るだろうからちょうど良い。」

「では、すいません・・・・・・・・・・って、猫まで捕まえてきたんで?」

「こいつは私の釣果を狙う泥棒猫だ。ついでに拾った。」

「ああ、先日言っていた釣果を台無しにした泥斑はこいつなんだ・・・・・・・」

門衛は斑の頭を撫でると気持ちよさげに頭を擦り付けてくる。害意が無く益になると判れば現金なものである。


「まぁ、この泥斑もなかなか見上げたものでな。そこの白いのを養わんが為に私の事を狙っていたのだよ。ついでにこいつ等の滞在も認めてくれるか?」

「はははっ!構いませんよ・・・・・・・・・・えっと猫の入門税は・・・・・・・・・っと」

門衛は猫の入門税はいくらだったかと書付を眺めている。

「書かれてないからただですね。ようこそ泥斑の猫君、寒鱈の港へ。」

と仰々しく歓迎の意を示せば斑猫


ぶなー


と一声鳴いて応じるのである。











「・・・・・・・・・・・・・・・・・・と、言うことで猫を拾ってきた。逆立つ髪よ、少しお主の馬の乳を分けてもらえぬか?」

「そりゃ構わんが、猫に釣果を駄目にされた話は本当だったんだな。てっきり、釣れない言い訳だったと思ってた。」

「確かに人日卿には悪いけど俺もそう思っていたよ。小僧っ子、子猫に人肌程度に温めたミルクをやってくれ。」

「あいよ、にーちゃん。でも、猫なんて久しぶりだな。」


猫を拾った説明をする人日卿に一行は其々興味深げに猫を見たり面倒を見たりする。


「ねこだー」「こねこかわいい!」

「なでていいかな?」「でもねてるよ?」

「おーい、死霊っ子達、子猫は寝ているのを邪魔しちゃ駄目だぞ。」

「「「「「はーい。」」」」」


「おにーちゃん、こっちの白猫は傷ついているけど大丈夫なの?」

「ふむ、傷自体は深めだが綺麗にして薬を塗っていれば大丈夫だろ。何ならば縫っておくか?」

「弓の手、わかるのか?」

「人日卿、我等の事を知らないのか?荒野を馬とともに駆け数多の生き物達と共に暮らす【荒野の民】だぞ。傷ついた動物の手当てくらいは日常だ。」

「頼んでよいか?」

「これは片手間だ、問題ない。」

白猫を診て、傷口を塞ぐ弓の手に頼み込む人日卿。


「しっかし、なかなか根性の座った斑だな。」

極北の岩砕きからツマミである干し肉を分け与えられて満足げな斑猫をみて、極北の男達は

「こいつならば良い【船乗り猫】になるんじゃないのか?」

「だな、お前ねずみ取れるか?」

と問う、編みこみ髭に失礼なとばかりに


ぶなー


と不満げな声をだすのだった。


こうして猫達は宿の広間の片隅に襤褸切れの詰まった安息所を得るのであった。

















しかし、人日卿のその日の土産はこれだけではなく

「かゆい!」

「うわっ!飛び跳ねてる!」

「おい、死霊っ子達癒し手さんのところ行って【蚤取り薬】もらってこい!」

「わかった!」

「勇者(笑)お湯を沸かしてくれ。この猫ども洗うぞ!」

「判った。小僧っ子泥斑を捕まえてくれ!」

「うわぁ!にげるな!」


野良猫を拾うともれなくついてくる蚤まで土産としたのだった。

蚤を退治するのに数日かかり、宿の主の額には青筋が浮かび引き払うときに平謝りで更に銀貨を積み上げざる得なかったのは笑い話としておこう。


「お客さん、この蚤のせいでこの離れ使えないんだけどどうしてくれるんで?」

「すいませんすいません・・・・・・・・・・・」


「旦那!【燻し薬】はどっちで?」

「すまないね、そこの騎士様達が蚤を持ち込んで呉れたんよ・・・・・・・・この離れ全部燻して貰える?」

「へいっ!お前等、まずは掃除からだ・・・・・・・・」

「あいよ!」


「お客さん、【燻し薬】の作業代は払ってもらいますからね。」

「はい・・・・・・・・」


騎士人日卿は猫の一家と引き換えに財布の中身を軽くするのであった。

安俸給なのに・・・・・・・聖徒の常として。





以下、神々の会話。

おい、地の文。魚偏の69のあいなめはセクハラ指定だ!自重しろ自重!(by節制神)

ねぇ、それってどういう意味なんだ?(by剣神)

それはね・・・・・・・・・・・・(by説明をする性愛神)


地の文はシモネタをかました罰として正座で反省しておりますので私地の文が神界よりお送りいたしました。

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