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市場にはいろいろとあるもので

魚醤


魚を塩で発酵させたもの。漬けこみすぎた塩漬けが由来で多少塩をきつく漬け込んだ魚から姿形が蕩けるまでに熟成させたものもある。材料も小魚類からエビカニ、イカや貝類を利用したものもある。北部沿岸地域では【壺漬鰊】と称して臭いがとてもきつい魚醤が酒のつまみとして愛用されているので有名である。

鈍色の空の下、鉛色の海は白い飛沫をまき散らし陸地を削り取ろうとばかりに打ちつけてくる。

荒々しい表情を見せている海も地元の物からすればまだ穏やかなのだという。そしてその下には数々の命を育んでいるということも。

聖徒から来た騎士は一人竿を片手に海へと挑みかかるのである。


遠くには海鳥が輪を描いて舞っておりそこへと向かう漁船が幾艘も見える。お気に出る彼等を眺めながら糸を垂らし、初めての海は何をもたらすのかと期待するのである。


糸を垂らして暫し、騎士の竿に違和感が生じ糸が引かれていくのである。

「むむっ!これは・・・・・・・・・」


竿先が撓り騎士と海中の何かとの戦いは始まる・・・・・・・・・・・・




聖徒の人日卿が魚と格闘している時、勇者(笑)は市場を散策している。

その傍にはいつもの添え物とばかりに死霊っ子がふゆふゆと憑いているし、暇を持て余している小僧っ子も退屈しのぎとたかり目的でついてきている。

寒鱈の市場は魚で有名である。地の魚の種類だけで数十種くらいあるのだろうか?

大きさごとに分けられているのもあれば小さい魚が種類も何もごっちゃに籠の上で盛られていたりもする。魚の加工品も多く、塩漬け、干物、発酵させた魚醤等々・・・・・・・・・・食べ物だけかと思いきや鮭の皮で作った上着やアザラシの毛皮の敷物・・・・・・・・変わった所ではクジラの包皮(ちんぽの皮)を使ったバッグなんていうのも見受けられる。流石にクジラの包皮のバッグなんて正体を理解できるわけはないのだろうが。


「にーちゃん、この魚・・・・・・・・鮮度が・・・・」

「小さい旅人さんや海の魚は初めてかね?うちの市場だとこの鮮度は当たり前だぞ!買っていかねぇか?」

「うーん・・・」

「親父さん流石に旅暮らしだから買っていくのはねぇ・・・・・」

「今夜の分だけでも入れておけばよかろ。宿に渡して調理してくれといくらか包めば作ってくれるって。」

「俺等自炊だしなぁ・・・・・・」「これ作り方わからない。」

「簡単だって、頭落として塩と酒で煮てしまえばいいんだ!生臭いの苦手ならば生姜加えてしまえば。」

「こんな新鮮な鰯だったら、開いて皮剝いてから味噌としょうがを加えて叩いて食べればうまいだろう。」

「味噌って極東の貴重な食材じゃないか!」

「それとも開いてから塩胡椒してからりと焼いてみるのもいいなぁ・・・・・・・・・」

「にーちゃんにーちゃん、うちには大喰らいがたくさんいるからこんな小さなのをやっていたら間に合わねぇよ。」

「そっち!なんかいろいろ知っていたり貴重な材料とか知っているあんたらなにもんだい!」

「どこにでもいるような旅の神官様と聖徒の宮廷料理人見習に憑きまとっている死霊ですがなにか?」


「どこにでもいねぇぇぇぇよ!」

小魚売りの親父の突込みは市場中に響き渡るのである。





同時刻、極北戦士の統領たる戦槌は足の確保に頭を悩ませている。

数日前に寒鱈の港に着いたのは良いのだが輸送手段が見つからないのである。

自分等だけならばまだ良い、どこかの船・・・・・無ければ漁船で送ってもらうという手もある。

港から極北の地への定期便は数日おきに出ているし、交易船に便乗するという手は使える。勇者(笑)達も同じ理由で何とかなるだろう、死霊っ子達の分少し追加する必要はあるのだろうが・・・・・・・・

問題は荒野の民とその愛馬達である。

確かに馬を運ぶ船も存在する、それでも一度に10頭も運べばよいだろう。次いでいえば馬と言う生き物は作者の肝臓並にデリケートで馬に乗せられることを嫌がる子もいる。


「どうする戦槌?俺等だけで先行して荒野の民と馬達は分散して移動するか?」

「それとも荒野の民の代表だけ俺たちと同道して馬は陸路で北岸沿いに進んでもらうか。」

「とりあえず、先行できる分だけ先行して国で船を仕立ててもらうのが無難か?」

「で、戦槌が先に行くとして俺が残った方が良いか?」

「悪いな、出来ればそっちでも馬の輸送をできる船を押さえておいてくれ。」

「あまりあてにするなよ。」

「うまくいけばよいかという程度だ、面倒事を起こさせなければ問題ない。あの勇者が世界を戦火に包むことを望んでいないのはわかっているが馬鹿は多いからな。」

「まったくだ、国の爺婆どもは心配性で困ったもんだ。」


極北経由での経路もいろいろ理由があったようである。


「まぁ、啓蟄とその近辺を通らせるのは問題だから海路で進もうというのが主な理由なんだがな。」

説明御苦労というか地の文に(略)





それから暫し後、未だ市場をうろついている勇者(笑)一行。

「おにーちゃん、このエビおいしいね。」「こっちの巻貝もコリコリして美味しいよ。」

「焼き魚なんて久しぶりだな・・・・・・・後白いコメ。我は所望する、白銀の炊きたてのコメを!!」

「・・・・・・これはなんだろ?くにくにと美味しいんだけど変な形。」

焼き魚を供する屋台を見つけたのを幸いに海の幸に群がっている。


「にーちゃん達良い食いっぷりだねぇ・・・・・って、いうか!死霊が飯食らうのか?」

「むぐむぐ・・・・・・・そりゃ死霊だって元は人だったものだし食うだろ。」

「でもよ、透き通っている体でどうして物が持てるんだ?食った物は何処に行くんだ?」

「・・・・・・・・考えたことなかった。」



どうせ勇者(笑)の事である異世界のご都合主義だとかそんなものだとかの思考停止をしているだけなのであろう。

屋台の男もその辺の疑問を詳しく問い詰めようともせず、食い扶持があればその分売り上げが上がると思ったようだ。


「こっちとすれば金を払ってくる客ならば死霊だろうが魔王だろうが問題ないのだが。」

商魂たくましい屋台の男の言葉に勇者(笑)は苦笑しつつ・・・・・・・


「そっちの鰊の干物を頼む。」

「あいよ!にーちゃん、魚に慣れているだろうからうちの伝統料理なんかもいけるんじゃないか?」

「なにがあるんだい?」

「そりゃ、塩漬けの鰊だよ。少々臭いけど旨いぞ。」

「ほう、どんなのが?」

「ふふふっ・・・・・・・」


男は屋台の隅から一つのツボを取り出す。壺の口には皮で厳重に封がされているのだがその封が中からの圧力で盛り上がっているのが見て取れる。それを取り出されたのを見て店から人が消えていくのである。壺の口は更に圧力を増しているのか膨らみ続けている。


「これはとっても元気がいいなぁ・・・・・とっても旨そうだ。」

男はとても大喜びで壺の封を開けようと・・・・・・・・・した時に


「まてまてまてまて!ここで開けるな!」「こっちに飛沫が飛ぶだろう!」

「嫌がらせか?嫌がらせなのか?」「誰か誰か警備を呼べ!」

等と周りの市場の店主達が口々に文句を騒ぎ立てる。

客達も

「市場の真ん中で【壺漬鰊】を開けるなんて・・・・・・」「逃げろ!飛沫が飛ぶぞ!」

「俺あれだけはダメなんだよなぁ・・・・・」「あれを食べモノだなんて思ってはいけないわ。」

「わー!とりあえず逃げろ!」「馬鹿!そっちは風下だ!」「でも風上は・・・・・・・・」

「おい!ここで開けようなんてやめろよな!」

色々騒いでいるし、なんか危険物らしいことを漸く気が付いた勇者(笑)は


「店主、俺は遠慮・・・・・・・」

「いやぁ、にーちゃん俺がご馳走してやるってのにそれはないだろう!大丈夫だって、慣れればこいつは病みつきだぜ!」


死霊っ子達は上空に逃げだしている。小僧っ子は遠巻きに見ている市場の衆の陰に隠れている、危機察知能力はそれなりにあるようだ。それでも、遅かったりするのだが。


屋台の男は壺の封を開け・・・・・・・・・



ぶしゅーーーーー!


吹き出す汁は周りを臭気で染め上げ空気の色さえ変えるようである。


遠巻きにしている周りの連中は兎も角、飛沫をもろに浴びてしまった勇者(笑)はたまったものではない。


「うわぁぁぁぁぁ!!くせぇぇぇぇぇぇ!」

染みついてしまった臭気を振り払おうと転げまわり悶絶する。

それを憐みの目で見る周りの者達、小僧っ子が


「にーちゃんごめん。おいら何もできないや・・・・・・・・」

と見捨てたことに関しては誰も責める者がいなかった。そう、ここにいる誰も彼もが勇者(笑)を一人生贄にして飛沫が飛ぶ位置から逃げ出したのだから・・・・・・・・


飛沫が飛び散り終えて落ち着いた壺の中身を男はあろうことか手づかみでむさぼり食らうのである。


「うげっ!」

誰が発した声だろうか、それはその場にいるもの全てが思ったことである。


「うまいっ!」

その臭気を何とたとえればよいのだろうか?酸味に帯びた臭いは嘔吐物を思い起こし、排泄臭にも似た腐敗臭にも似た・・・・・・・・・・更には海の香りがそこはかとなく・・・・・・

それを食べているのである。


勇者(笑)は気絶している。


その後しばらくして市場警備の兵達が来て男を連行するのである。なぜ来なかったのか?

「そりゃ、あの飛沫まともに浴びたら嫁さんに家追い出されてしまう。」

「命に別条はないから二次被害を押さえるのが優先だ。」


要は自己保身だった。

「俺にはあの飛沫を浴びて行動するだけの勇気はない。」

ごもっともで


勇者(笑)は冷たい水をぶっかけられさらには酒で丸洗いされて・・・・・・・

それでも臭いが取れず・・・・・・・・・その日宿を追い出されて、粗末なテントで夜を明かす事になるのであった。


それに従うのは死霊っ子達・・・・・・・・・いない。

「小僧っ子のにーちゃん、今夜泊めて。」

「仕方ないなぁ・・・・・寝小便するなよ。」「しないよ!」

見捨てられていた。





市場でそんな騒動があるともつゆ知らず、聖徒の騎士は海に住まう見知らぬ生き物との格闘を存分にやり遂げ籠の中には彼の戦果が詰まっている。最後の戦果として釣り上げた妙に平べったい魚を見て


「これ、食えるのか?まぁ、いいか。宿に戻れば判るのがいるだろう。」

と見知らぬ者に対する興味からか裏返してみたりつついてみたり・・・・・・・


だが、そこにも魔の手が・・・・・・・・・

岩陰から彼の戦果を狙っている灰色のぶち猫によって籠をひっくり返されて台無しにされるまであとわずか・・・・・・・・・・




はい、酸っぱい鰊の話でした。

さて、今日は本当に久方ぶりの休日だし酒でも飲むか。


次の休みっていつだろう………また間が空いてしまう。

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