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財布の軽さを嘆くのは

北國諸侯連合(北國連合)


聖徒から見て北西部、大雪・小雪地方の沿岸部に点在する港湾都市国家の連合。

この小国連合は極北連合との交易の為に成立し、極北連合の植民都市という一面もある。人族連合と極北連合の交易拠点兼緩衝地帯。

主な産業は交易と漁業、人族連合側からは穀類、乾燥野菜、羊毛製品等が輸出され極北連合側からは漁業生産品、馴鹿・毛長牛の加工品、氷竜の鱗(竜鱗貨と言われる)、塩が輸出される。

最近では【狭間の国】や【魔王領】との交易に出る商船団が出始め、【極北の海】の一大交易拠点となりつつある。それ故か人族連合、極北連合双方から直轄地にしようと言いう動きと直轄地に息のかかった港を用意しようとする動きがある。

霜降国に滞在する事一月半、先に旅立った極北の隊商達の後を追うように旅をする勇者(笑)一行。

よほど【狭間の国】やら【聖徒王国】等からせっつかれたのか使用経路もきっちりと指定され、下手に寄り道も出来ないようになっているのは騒動を恐れてか?

街道というには少々か細い道を行きながら立冬地方との境に差し掛かる。この道もその地方の生命線であるからそこそこの人が歩んでいるがほとんどが地元の民である。


人通りのない道に我等のみぞありとばかりに進む騎馬戦士に極北の大男達、数十頭の馬に幾つかの馬車、街道沿いで仕事をしている地元民達は物珍しげに眺めるのである。

勿論眺めるならば眺められる事も覚悟せねば成らぬというのは何処の賢人の言葉であったろうか?

この田舎道にいるのは粗末ながらもしっかりとした作りの上っ張りを纏い、土だの木屑だのにまみれた男達にその徒弟や手元と思われる子供達。彼等に弁当を届けに来た利一緒に作業をしている女性達。どの顔も日に焼けていたり汗をかいていたりするが血色はよく民を丹誠に慈しんでいるのがよくわかる。

遠くから作業歌が響いているのが異郷の地という風情が一層増しているなと思う勇者(笑)であった。彼の世界においても歌を掛け声代わりにして作業をしていた歴史もあるのだが、スピーカーから流れる音楽を背景に作業をしていた勇者(笑)には判らない世界であろう。


勇者(笑)のいた世界の某底辺土方の労働風景を歌った歌は良い歌であった。(by音楽神)

ああ、あれはよい歌だ。(by労働神)

あれをカラオケで歌うといつの時代の者だといわれる。(by作者)


えっと、神様方に作者、しゃしゃり出ないでください。あれが名作で心に響く歌であるのは認めますけど。


そんな地元民しかほとんど利用しない道であるがどうしてこの道が選ばれたかというと彼らが旅することによってこの道沿いの民へ金を落としてくれれば等と言う霜降国側の涙ぐましい懐事情というのがある。道は狭いが程々に通行量があるために整備されているし、賊等も見受けられない。迂回路としては悪く無い。ただ、隊商用の野営地の類が見られないので道行く集落の水場等を間借りして夜を過ごさないといけないのが難点だが天幕を所持して一時とかけずに設営をする【荒野の民】に料理馬車で暖かな物を作り上げている勇者(笑)と小僧っ子がいればそこらの隊商等が冷たい保存食をかじりながら進んでいるよりも十二分に快適なのである。彼等の旅に同道している聖徒王国の人日卿は野営する村々で野営する許可と場所の調整を村長に挨拶がてらに行うのである。村としても食料を買っていき無体をしない彼等を追い返す理由などないので幾何かの商売と引き換えに許可をするのである。


そんな旅路の途中での野営中、小僧っ子はふと思ったことを極北の編み込み髭に質問するのである。

火の番をしている編み込み髭は小僧っ子の指示の下で鍋にかけられたスープをゆるゆるとかき混ぜながら応じるのである。


「なぁ、編み込みのおっちゃん。おっちゃん達遅れているんだろ。国で待っている連中をなだめるための物用意してるのか?」

「大丈夫だ!問題ない!ちゃんと土産に酒を用意している。菊枕卿の林檎酒だろう、尋問者卿に紹介で黄金色な蜂蜜酒、西方平原の牡丹杏種酒に貴腐葡萄酒、木苺の酒に薔薇の酒もある。」

「酒しかないじゃん!」

「長連中は旨い酒を奢れば許してくれるぞ。それどころかこれだけの酒を用意すれば宴がにぎやかなものになると大変喜ばれようぞ。」

「それはわかったけど酒飲めないのとかいるじゃない。」

「酒が飲めない?そんな不幸な人間は極北の民にいないぞ!あの寒き大地に酒の助けもなしに過ごすなんてそんな恐ろしいことを・・・・・・・・・・」

「酒飲みは良いとして、国で待っている女性とかへの土産は?」

「だから酒があるだろうが!」

「・・・・・・・・・・うん、おっちゃんの中ではそうだろうけど、酒ばかり用意しても他の物を用意しないと女性陣の怒りを買いそうだけど・・・・・・・・」

「ならば、どんなものが良いのかな?」

「甘いのならば菓子とか、光物とか・・・・・・・・」

「光物って鰯とか鰊とか?」

「鰯とか鰊ってなんだよ!」

「北の海でとれるうまい魚だ。鱗がきらきら光って光るんだぞ!」

「そっちの光物じゃなくて宝石とか指輪とか首飾りとか!」

「宝石は食えないだろうが、装飾品とか動きが制限されるから好かん!」

「にーちゃん!編み込みのおっちゃん、自ら死地に行こうとしているよ!」


極北戦士の感性に流血の予感をした小僧っ子は勇者(笑)に助けを呼びに行くのであった。



その頃、野営地傍の放牧場で牧場主の好意により場所を借り受けることに出来た逆立つ髪と掻き鳴らす琴達は燕麦を馬達に振舞いながら馬達の見張りをしている。近隣の農家から人参だの大根だの傷物の林檎等を安く手に入れ馬達に与えて長旅の労を労うのだが馬達もご馳走と存分に走れることに満足してもっしゃもっしゃと噛り付いているのである。次の朝に荒野の馬だけにご馳走が与えられたことに村の馬達が恨めしそうな顔をするのだが別の話。


「綺麗な毛糸の織物、酒は手に入れたろう。一族の健やかなる様は良い土産になろう。」

「おいっ!こらっ!くすぐったいぞ。なに我が懐をまさくろうとしている。」

「逆立つ髪、懐に菓子作る神官の【硬い菓子】が入っているのではないか?」

「ああ、それか。馬に乗りながら齧るにちょうど良いのでな。」

「あんな硬いのを齧るなんて馬や牛位の丈夫な顎をしていないと無理だろう。」

「口に含んでいればつばと合わさってほろほろ崩れるのだがな。」

「それはよいがその菓子奪われているぞ。」

「おいっ!それは我の物だ!」


ぶるるん!

馬は菓子の入った袋を抜き取ると一目散に遠くに駈け出す。いくら馬と共に過ごしていても馬の速さに追いつけるわけのない逆立つ髪を馬鹿にしたように嘶きながら袋を器用に開けて菓子にかぶりつく。その匂いを感じたのか他の馬も群がっているのは笑い話である。


ぶひひぃん!


馬の口に入ってしまったものを取り返す術がなく、菓子を諦めた逆立つ髪は掻き鳴らす琴が熾した火の元に戻ると五徳の上に乗せられた薬缶から薬湯を器に注いで掌で暖かさを奪い取る。

「ふむ、霜降の細工物は中々に良いな。灯りと言い、五徳と言い・・・・・・・・使い勝手が良い。」

「然り、国への土産に少し仕入れるのはどうだ?我等の中にも鍛冶やら鋳掛屋はいるだろうがこれほどの品は見かけぬ。我等の地に鉱脈がないせいもあろうが。」

「我は馬の模様の入った灯りが気に入っている。これを天幕でつけると天幕の中で馬が跳ね回っているようではないか。何とも愉快なものだ。」

「俺はこっちの短刀を推すぞ。この刃紋が何とも艶めかしい。それでありながらも切れ味が良いのはうれしい。」


逆立つ髪と掻き鳴らす琴の会話に他の見張り役の荒野の男達も

「この木の皮を織り込んだ敷物が良いな。」だの「こっちの鍋は女衆が喜びそうだ。」等と参加してくる。

「我等の土産足りそうか?」

「少し心もとないな。自分の天幕と氏族の長だけとはいえ、自分用に良い物ばかり用意するなんて言うのはあまり宜しくない。」

「近隣の者にも多少は福分けせねばなるまい。」

「然り然り、大きな物はいくら馬がいるといっても・・・・・・・・・」

「その辺は次の町にて細工物を眺めながら考えるとしよう。」


そういって、掻き鳴らす琴は毛布にくるまると星降る夜を天蓋として青臭き草を枕に仮眠をとるのであった。




騎士という身分ゆえか一人村長の家に接待を受ける人日卿、よくよく考えてみたら勇者(笑)は神殿教会の神官だし、逆立つ髪は異国の子爵、戦槌等も族長の類縁で貴族階級ともいえなくもない。そうは見えないからすっかり忘れ去られているけど。本人達も気にしていないから放置しておこう。

村の中では立派な建物であるが、街の邸宅とかからすれば見劣りがする。質実剛健を旨とする聖徒の民で誉れ高き人日卿は見てくれの粗末さを口にしないだけの嗜みがあり、旅路にて屋根のあるところで休めるだけ幸いなのである事を知っている。


「騎士様やお茶は如何ですかいの?」

「ご婦人、ありがたくいただこう。」

「おや、まぁ、こんなど田舎の婆を捕まえてご婦人なんて町の(もん)は洒落た言い回しをするもんなんですね。」

「うちの婆にご婦人なんて大層な言い方は必要なかろうって。はははっ!」

「爺さんったら・・・・・・・・・」


茶を喫しながら人日卿は村長宅を眺める。色々な道具がぶら下げられている中で一本の竿が目に入る。


「村長、この近辺では何が獲れるのかね?」

「おや、騎士様も釣りを嗜まれるか。そうさねぇ、少し離れたところにある沢には鱒だのカワカマスだのが釣れますぞ。そう毛鉤でふらふらさせると・・・・・・・・・」

「それは面白そうだな。普通餌をつけて垂らしておくものだが・・・・・・・」

「この沢に住む鱒は飛ぶ虫を飛び上がって捕まえるのですよ、その毛鉤はそれを模したものでな。水面ギリギリに滑らせると虫と勘違いしたのか鱒が飛びつくんで。」

「ううっ!試してみたいが明日には発たねばならぬし・・・・・・・」

「夜釣りなんてもんじゃどうじゃろ?明日は馬車の中で寝ておればよろしかろ。」

「はははっ!せっかくのお誘い受けねば失礼だな。同道願おうか。」

「おや、まぁ、爺さんったら・・・・・・・・・・騎士様も夜道にお気をつけて。」

「うむ、村長を借りるぞ。」


人日卿は村長から竿を借りると連れ立って沢に向かうのであった。


翌朝、勇者(笑)の所に朝食にしたいと数匹の鱒が届けられるのであった。


「ちょっと、いきなり鱒を届けられても塩焼きとか香草焼とかムニエルくらいしかできないよ!」

普通、そこまで調理法が思い浮かべば十分である。


その村は眠たげながら満足げな村長に見送られて出立するのであった。

眠たげな村長の顔を見た村人達は「ああ、また病気が始まったか。」

等と気にもしなかったのはこの村での日常なのだろう。


そして次の町に着いた夕刻、勇者(笑)の忠告を聞いて女性向けの土産を買いあさる極北戦士と同族の生活が豊かになればと細工物を見定める荒野の民、夜の一戦で毛バリ釣りにはまった聖徒の騎士がそれぞれの買い物をして町に金を落とすのであった。その後、財布が軽くなったことに後悔しているものも多少いるのだが笑い話とするべきであろう。


全然旅が進んだ気がしない。

恵方巻でも食べて酒でも飲もう。

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