走行しているうちに霜降国
羊毛国
人族連合南西部にある国家。気候は海流のせいか一年中温暖で季節がない、故に普通の農作物の生育しづらい環境で牧畜とその加工品を主産業としている。
所属している民は人族連合系が2割に魔王勇者戦役時代に奴隷として連れてこられた【荒野の民】系が8割となっている。人族連合系がかつては支配層を担っていたが数の多い【荒野の民】系に押され両者は対等な位置であると法に定められている。現王家も民族闘争を恐れてか両者から血を混ぜることによって融和しようとしているが逆にその事で人族連合系の純血主義者達の支持を失っている。
霧の都にある隊商達が到着する。綿羊国から羊毛の加工品を沢山積みこんだ一隊である。
行く先は極北連合、かの国はとても寒いので暖かい衣類は重宝されるだろう。毛皮だけでも暖かいが毛糸の保温性と加工のし易さは極北の女達の心をつかんで離さない。
「戦槌の旦那たちは今頃北の港にいるのかねぇ?」
「だろうなぁ、途中で色々拾って帰るとか朋と酒を酌み交わすなんて言ってたがそんな大した時間はかかるわけでもあるめぇ。」
「だな、馬に乗った【荒野】の連中と居るんだノロノロとしたおら達よりも数倍早く着くだろうよ。」
「だなだな。」
羊毛を積んだ隊商達は【霧の都】で極北の男達が飲んでいる姿を見て・・・・・・・
絶句するのであった。
「おにーちゃんはやくはやくぅ!」
「急ぐなって・・・・・・・・・霧がすごいから誰かにぶつかってしまうだろう。」
ぼすっ!
「あっ!すいません、大丈夫ですか?」
「うわぁぁぁぁぁ!おばけぇぇぇぇ!」
どだどだどだどだ。
「おばけじゃなにのに!」
「ひどいよねぇ。」「だね。」
「こんなかわいいこをみてひどいよね。」
「いやいやいやいや、普通死霊を見たらびっくりするって。」
その頃、町を散策している勇者(笑)と死霊っ子達は霧で見えない中ぶつかった町民その一がおびえて逃げ出してのをしり目に軽口をたたき合っているのである。
「また、貴方達ですか・・・・・・・」
町民その一の訴えを聞いて駆け付けた都の衛兵がうんざりした顔で言ってくるのである。
「俺たち何も問題行動しているつもりはないけど?」
「そんでも街中に死霊がいればびっくりするでしょうが!いくら神殿経由で触れが出ているとはいっても・・・・・・・・」
ちなみに町民その一は腰を抜かしている。
少々考えてみるがよい、霧の中で浮かんでくる灯り、その明かりに照らされる死霊。
どう見ても怪談話です。ありがとうございました。
「ああ、こいつらが普通にしているから忘れてた。」
「勘弁してください!」
衛兵の訴えが通じる日は遠そうだ。
それよりも都に触れを徹底させていった方が・・・・・・
【荒野の民】も準備はできている。元々が遊牧の暮らしで旅そのものが人生という生き方をしているのだから当然であろう。持つ物は常に整理され装備は整えられている。勇者(笑)は兎も角、極北の酔いどれどもが酒合戦に明け暮れているのだから先に進めない。そのまま放置して人族連合を横断するのも悪くないのかなとも思ったりもしているが、人族連合に不慣れであることに加えて啓蟄戦役で色々やらかした身が単独でいるのは霜降や西方平原では兎も角、啓蟄や雨水あたりでは問題があるだろう。
「なぁ、鳴弓この葉物は食欲がそそるな。」
「ふむ、逆立つ髪。買っていけば勇者(笑)が美味に仕立ててくれるだろう。」
「我としては干し肉で出汁を取って汁物としゃれ込みたいものだ。」
「そうだな掻き鳴らす琴、後はそれを肴に馬乳酒といきたいがそれはないのが辛いところだ。」
「ふむ、姐さんよ。この葉物は美味だな。」
「姐さんだなんて嬉しい事言ってくれるじゃないの。」
「そうそう、うちのカカアはんなにきれいでも若・・・ぐふっ!」
「・・・・・・・・・で、この籠全部でいくらだ?」
「異国の旦那が嬉しい事言ってくれたからおまけして銅貨20枚でどう?」
「いただこうか。わが故郷は荒涼とした大地だから野菜は貴重品なんだ。」
「どこの秘境なんだい、それは。」
「【狭間の国】は【荒野】だがなにか?」
「【狭間の国】って言ったら【傷痕娘の物語】の舞台じゃない!なんて遠くから来たんだね。商売かい?それに傷痕娘って本当に居るんかい?」
「商売かどうかといわれたら、そうだとも違うとも・・・・・・・・遠く綿羊の地にいる親類筋に訪問していった帰りだしな。」
「傷痕娘ならば、その連れ合い共々我等の知己であるな。」
「しかし、このような遠方の地にまであの子達の物語が届くとはな。」
「いやねぇ、うちの族長代行が旅芸人を呼んだ際相伴させてもらったんだけど、あれは良い恋物語じゃないか!あたしゃ感動したよ。」
熱の入った感想を述べる葉物売りの女房、旦那は脇に食らった一撃から回復しきっていないのか打撃を食らった箇所をさすりながら
「熱を上げているのは役者の美形にじゃないのか?」
「それはそれ!あんただって孤児娘役の女に鼻の下伸ばしていたじゃない!」
似たもの夫婦である。葉物やら根菜が売り物だけに煮た者なんて・・・・・・・・・(by演芸神)
あの物語は新作としては流行っているからな。(by詩人神)
「しかし、あの物語の場にいたのか?」
「まぁ、我は荒野の民のまとめとしてあの当時王都の孤児院に屯していたからな。傷痕娘・・・・・・といっても今では酒盛男爵夫人となっているか、彼女は良い女だぞ。傷がある無し以前に性根が良い、うちの大族長やら公爵の親父が一族に手に入れるために王家に喧嘩をする勢いだったからな。結局は奴隷公の一族となってしまったが、返す返すも残念だ。」
「ああ、二人の夫婦酒は中々美味であったな。」
「啓蟄との戦の時に助け出した者達のために一軍を率いていたり、私財を投じて職業訓練とかしていたな。それで目をつけられて商業神殿とか優秀な家人を探す貴族家とかに色々注文漬けられたり、引き抜きかけられたりしていたのは笑い話か。」
「ねぇねぇ、その話をもっとしてくれないか?」
目を輝かせている葉物売りの女房に荒野の民達も押されてうなずいてしまう。
「おい、みんな!ここにいる【荒野の民】の旦那が見た現場を語ってくれるってよ。」
うわぁっぁぁっぁあぁぁ!!
その場にいた荒野の民は市場の衆に囲まれて逃げるに逃げられない状況に・・・・・・・
そこで逆立つ髪が語ろうとしたのだが掻鳴らす琴に場所を譲らせる鳴弓。
掻き鳴らす琴が
「さて、我【狭間の国】は【荒野の民】そこにて【語り部】たらんとする我掻き鳴らす琴が、我ら一族が見た【傷痕娘】とその連れ合いの【痛みを嘆く酒盛卿】の優しく愚かな物語。」
前ふりして物語を語り始める。
「さて、語ろうか皆の衆。優しく愚かな物語、痛みに耐えて幸せをつかんだ一人の女の子。痛みの世界に涙して抗いの声あげる男の子。いまだ結末迎えぬは、世界の理不尽知りて尚、叫び途切れぬ愚かな子。美しくなく、足掻きの声を世界に放つ物語。さぁ、聞けここにいる者よ!耳に甘く無き物語を!!未だに足掻く愚か者の本気の本気の戦いの奇跡にも似た奇跡の物語。我この生き様に幾万の輝石を詰まれども一つの軌跡の有様に価値あるものと涙する。鬼籍に入りし者達の涙は奇石を穿つだろう。帰責を問うは常なれど我ら世界に住まうもの全てに負うべき責ならば彼一人の叫びにて購うなどの愚かしき。痛みと叫びに包まれた幸い求める子供等の事を語ろうことを語ろう!」
掻き鳴らす琴は琴を掻き鳴らしながら血を吐くかのような叫びをあげる。
聴衆は黙り物語の続きを待つ。掻き鳴らす琴は物語を思い起こし、その情景に怒りを覚えながら血の涙を流さんが如く顔を歪ませながら物語を続ける・・・・・・・
「我は見た。かの地にて全裸賢者の誉れ高き法務官殿が伝手を辿って助け出したる人も群れ。嗚呼、人なるものはなんて惨きを成すのだろう。幼き子供が無下にされ痛みに泣いて朽ち果てる。幸い誇る笑顔の娘、その白き肌土色になるまで責め立てられて死すら甘美と願うなぞ、人の子のあるべきことなのか?枯草郷のその事は我は知らない我は知らない・・・・・・・・・・」
眼に涙を浮かべいったん言葉を止めた掻き鳴らす琴は口の端から血を流しながら叫びを抑えて言葉を紡ぎだす。その気迫にその場にいた者達は一言も聞き漏らすまいとあまりの惨さに耳をふさぐものと其々の反応を示す。
「我は見た。助け出された幼き子、傷痕なくば見目麗しく健やかなる女の子。親の願いは傷痕に無碍する無頼は体の傷に、生きれいるのが不思議なほどに乙女の体は苛まれ、その場にいるは性愛の女神に仕える神官もこの世界からの解放を思うが程の有様よ。」
そこで聴衆は幸せな物語を聞きたいと思っているのになんてむごたらしい物語・・・・・・・・
聴衆の一人が
「そんなのでまかせだろう。」
と呟いたのを荒野の民は聞き逃さない・・・・・・・・・・
滅多に流さぬ涙の色を血の色と変えたのを自らは知らずその愚かな聴衆の胸座を掴みあげて
「嘘と思うか?これは本当だ!」
と血涙ながらに語りかける・・・・・・・・・・・
嗚呼愚かなる荒野の民よ、叫びの真偽は世に問わず。話を聞けと願うのみ
「嗚呼、死にかけの女の子。死なすが優しき事と思うが、生きて幸い掴んでほしいと性愛の神官の叫びに一人一人と立ち上がる。一人立てるは朽ちたる街娼、悪しき病に侵されて死を待つその身を励まして『我の朽ちたる命でもこの子の癒しとなるならば』一つ立ては崩れ落ち、二つ進みて崩れ落ち願い乞いたる神官の叫びに応じる愚か者。二人立てるは傭兵よ、朽ちたる娘の有様に郷の家族を重ねつつ幸いなるを願うなら一度命を分けようと。三つ立てるは幼き子。果てたる街娼母に持ち、あがれぬ母の代わりになると幼き娘に命を分けて己も一つ幸いを願う種たる気概を示す愚か者。その幼き子後々に市場を総べる男となろう。その幼き子後々に幸い求めて王にすら拳をふるう男となろう。四つ五つと命を分かつ愚かな者の群れ増えて最後に百をも超える馬鹿の群れ、弱きを守る性愛の女神は喜び奇跡を下す。彼等の命を幼き娘に分けて与える分けて与える・・・・・・・・・・・嗚呼、幸いなるは傷痕娘彼女の道に灯りは点る。」
聴衆は高名な物語の聞くことのない物語に耳を傾ける。
「命分け与えられし幼き娘。その傷跡は癒されることなかれども・・・・・・・・全裸賢者の誉れも高き聖域の盾の王の末裔の保護を得て癒しの時を迎えよう。三つめの子供は怒りを持ちて傷跡娘を慈しむ。おのが育てるその為にその身砕きし母親を重ねて思い、傷つく全ての女を守ろうと小さきその身に誓いたて。」
流浪の詩人が語ることのない痛みに満ちた物語を掻き鳴らす琴は続ける。
「幾度か日々は過ぎ。子供の親たる街娼は癒えて日々の糧を得るがため市場で商い行おう。息子な子供は手伝いを、全裸賢者の誉れの高き聖王の末盾の末女に礼を捧げられ。我が身に行い誉れある行い報われその時に無粋なる者どこにでもあるものものよあるものよ。通りすがりの貴族の血、『商売女の礼などと憐れみ誘う事なると』・・・・・・・・・怒りを覚える市場の男、無力に嘆く男の子。市場の男は拳をふるい、貴族の血だろうとかまわずに理不尽嘆く憤り叩き付けんと振るうも無残。返り討ちにあうのだろう。殴られ嬲られ男は叫ぶ『理不尽なれば立ち上がろう』と・・・・・・・・男の叫びに応じるは酒飲み貴族酒飲み貴族。押っ取り剣を携えて、幸い願う叫びに応ず。哀れと思う貴族の血、四面味方のなきことに気づきその場を逃げ出さん。それを眺める男の子、己の力のなさを知り賢者に力を願い乞う・・・・・・・・・・・それが苦難の始まりでそれが伝説の始まりで・・・・・・・・」
掻き鳴らす琴の物語は大盛況だった。
それは何度も語ることを強請られ、高貴なる方々にも求められるのだった。
そして旅路を走行することが遠のくのだが流石に色々な所から『さっさと来い』とか『いつになったら案件が終わるのか』という注文に一月後、旅路に向かうのである。
タイトル詐欺でした。
酒を飲もう。




