そうこうしているうちに霜降国
霜降国
聖徒王国から見て北西部に存在する、小王国。
山がちの国で産物は木材と銅、鉄、銀等の鉱物や輝石類、その細工物の類である。
逆に斜面が多いせいで下手に開墾がならず農地は霜降王都(通称:霧の都)近辺の平野部に集中している。そのせいか、民は各地で作った産物を王都で売り、その収入で食物を買うと言った生活をしている。
買い取られた産物は貴重な外貨収入源となり、その金銭で他国からの食物やら他の物資を輸入している。
気候は冷涼で霧が多く、霧降る国と命名される由来ともなっている。
冷涼で冬の寒さが厳しく冬を【家の季節】短い春から夏を【外の季節】等と呼び習わす慣習がある。
住民は素朴でこつこつとした事を好むが人見知り癖のせいか排他的と思われていて、黒に近い茶の髪と小柄ながらしっかりとした手足を持つ大地に根付いていると言った風情の民が多い。
国の成立自体は古く、勇者・魔王時代よりも前の【人族開拓期】もしくは【人族王朝期】に遡り人族の王であった【聖王】よりこの地の開拓を命じられた初代【霜降候】が一族郎党を引き連れてこの地に根付いたのが始まりである。この由来ゆえか民も王も同じ一族であると言う意識が強く、両者の結びつきが強い。平民階級と貴族王族の者との姻婚、養子縁組等も他国比べてよく見かける。一族意識が強いからか彼等の名乗りは【一族の名】・【家の名】・【個人名(通り名)】と言った形でされることが多い。
【人族連合諸国漫遊記】より抜粋
西方平原国【白の都】から旅立って半月程であろうか、街道を往く勇者(笑)一行は一種異様な集団であった。
遠く人族の支配の及ばぬ【狭間の国】の中でも異民族とされる【荒野の民】、皮の服を纏い髪の毛を編み上げたり剃り上げたりしている姿は何処の蛮族と勘違いされそうな風体である。彼等は馬を駆り、その周りには裸馬が常に付きしたがっている。やや小柄ながら引き締まった身体をしている馬は、ここらでよく見かける馬車馬等と違い軽やかな足取りで付き従っている。これだけを見れば遠い異国からの馬商人とも見えるのだが、彼等の同道者もまた異相である。
同道するは【極北の民】その中でも武に優れたる戦士の一団である。ここらを往く者達よりもゆうに頭一つ以上大きい体躯に極北産の毛皮を纏い、手には其々武具と酒壷を握っている。彼等は荒野の民の馬が牽く馬車に乗り込み荷物宜しく談笑している。少なくとも彼等に殴り込もう等と言う者は蛮勇だと言われても仕方がないくらい威圧感がある。
そして、この一隊の大事な大事な運搬物であるのが【異世界人】勇者(笑)である。黒髪黒目の珍しい風体ではあるが着ている服も相俟って、どこにでもいる若者にまぎれてしまったら探すにも面倒であろう。だけどその胸元には神官位を示す徽章がつけられ、そばには子供の死霊が常にしたがっているのである。彼の補助としてどこにでも居そうな少年がいるのである。
馬に乗った旅装の騎士も同道しているのだが、異様な一団に紛れてしまって存在感がない。
「おい、俺が運搬物って何だよ!」
「そこの異世界人は兎も角、俺達が馬車の上で酒盛しかしていないみたいじゃないか!」
「・・・・・・・・・・・・・・・・・うん、彼等にまぎれてしまうと【聖徒七騎士】の一つである我がめだたないのは仕方がないが・・・・・・・・・・」
そこの登場人物達、地の文に(略)
すれ違う旅人達も一種威容で威圧感がある一団に道を譲りながら遠巻きにしている。休憩所や野営地にて手早く天幕を設置したり、黒髪の若者が小僧を従えて旅行中にしては手の込んだ料理を作っていたりと・・・・・・・・・・・目立つ事目立つ事、ちょっかいをかける盗賊とかが
「お頭、前方に馬商人の群れがいますぜ!」
「どれどれ・・・・・・・・・・・・・・・馬商人に馬追い達、護衛の戦士・・・・・・・・・・・・・これは止めとけ。」
「何でですかい!馬が・・・・・・・・ひの、ふのみ・・・・・・・・・・・で沢山居るじゃないですかい!」
「そうだぜ、かしら!あんだけあれば暫くウハウハですぜ!」
「馬鹿かお前等!俺たち追剥商売は安全第一だ!見てみろ、あの護衛達をあいつ等一人潰すんにどんだけ手間かかる、あの馬追い達も多分兵士崩れだ。馬からあいつ等を引き剥がすんは無謀だぞ。それにオレの感だがあいつ等に関わっちゃなんねぇ気がする。」
「お頭、そんな事言って怖気づいたんじゃないんですかい!だったら俺らだけでやるんでそこで指をくわえてみていればいいんですよ!!」
そんな相談をしていると
「おじちゃん達何相談しているの?」
「猟師さん?」
「うわぁぁぁぁ!おばけぇぇぇぇぇぇ!!」
「逃げろ取り殺されるぞ!」
「お、オレを遺して逃げるなよ・・・・・・・・こ、こしが・・・・・・・・・・」
「知るか!命が惜しいんだ!うわぁぁぁぁぁ!!」
背後からフユフユと浮かんで覗き込んでいる死霊っ子達に驚いて腰を抜かすやら逃げるやら・・・・・・・・・・盗賊達が逃げ出しているのを見て
「しつれいしちゃうわね。」「お化けじゃないのに。」「何で逃げるんだろうね。」
「おーい、チビ共。あまり遠くに行くんじゃないぞ。そろそろ休憩地に入るからそこで飯にするからな。」
「「「「「はーい!おにーちゃん」」」」」
慌てて勇者(笑)の居る馬車に戻るのであった。盗賊達はただ退屈して外にうろついている死霊っ子に愕いて逃げ出したのである。実際に戦いとなれば倍の人数が居ても難しいだろう、命拾いしたのは盗賊達のほうであろう。その後彼等はこの場を捨てて別の場所で仕事をするのだがどうでも良い事である。
「外でなんかあったか?」
「んーとね、おじちゃん達がそうだんごとしてた。」「あたちたちが来たらこし抜かして逃げちゃった。」「おばけーとかなんとかいって。」「失礼しちゃうよね。」
「「「「ねー。」」」」
「お前らは死霊なんだから知らない人が見たら吃驚するだろう。あんまりいきなり姿を見せるのはそりゃ吃驚するだろう。」
苦笑いしている勇者(笑)
「ここらならば良いけど町では俺か誰かについているんだぞ。」
「「「「「はーい。」」」」」
その場に居た小僧っ子はそれって追剥じゃないのか等と思ったが、口を挟まなかった。現在馬車の中、勇者(笑)と小僧っ子は馬車の中で粉を練っていたり、唐辛子をすり潰したりしている。馬車の中自体が色々な野菜がつんであったり、塩蔵肉がぶら下がっていたり・・・・・・・・大きな目の細かい籠の中からは汁物の良い匂いが・・・・・・・・・・火や刃物を使っていない物の調理馬車と化しているのである。
勇者(笑)は薬研ですり潰した唐辛子に苦味の強い柑橘の皮と塩を入れて更に潰している・・・・・・・・
「おにーちゃん、何作っているの?」
「これか?俺の故郷で【柚子胡椒】という調味料があるんだが、どうにかそれを再現できないかと思ってな・・・・・・・・・・・・・丁度似たようなのがあったから試しているんだ。」
「ふーん、どんな味?」
「ちょっとピリ辛で柚子の香りがするんだが、少しつけると色々味が引き立つぞ。」
本当に柚子胡椒まで自作するとは勇者(笑)は何処の出身なのだろうか?疑問である。カツ丼もソースだったりしているし・・・・・・・・・・・・
美味が増えるならばそれは問題なし。(by厨房神)
次こそはつまみ食いを成功させてやる!(by盗賊神)
暫し経って休憩地、火を囲む極北戦士の一団に馬の世話を終えて混ざってくる荒野の民。人日郷もその中で楽しく会話をしている。まだ日も高いのに酒の入った壷があるのは体の中で火を燈さないと凍えてしまう極北の民の特性からなのか?
酒好きなのは彼等のあり方だからわらわの子供達全てと思わないで欲しいものですわ。(by極光神)
そんな中で寸胴の大鍋一杯に作ったスープを配る勇者(笑)と小僧っ子。小僧っ子が練っていた粉は串に刺されて火であぶられている。穀類の焦げる良い匂いが・・・・・・・・・・これは麺麭の一種なのだろう。焼きあがった串焼きの麺麭を齧り、スープを啜る。暖かい食事というものは心を豊かにするものだ、近辺で休憩している隊商達もその匂いを嗅いで悔しそうにしている。普通旅路での食事なんて物は宿や食堂がない限り冷めた麺麭に何かしらといったものが主流だし温かいスープや焼きたての麺麭なんてものは何処の道楽者だと言う話である。これは貴族であってもあまり変わらない、そういう意味では贅沢なのである。因みに遊牧民族である荒野の民にも旅路の途中でスープなどを作る事もあるが干し肉と乾燥野菜をさっと煮込む程度の物でしっかり煮込むのは居留地に居るときくらいである。そういう意味では他の者よりは恵まれてはいるのだが、女衆も居ない彼らにそこまで気が回るかどうか・・・・・・・・・
「ふむ、これは美味だな。勇者(笑)よ、ならば吾のこれを喰らってみろ。」
「弓の手さん、この干し肉は・・・・・・・・・・・・味が濃い!噛めば噛むほどに・・・・・・・・・」
「ふふふっ!荒野の民秘伝の干し肉だぞ!これでスープを作れば・・・・・・・・」
「おおっ!出汁が出てきているのが良く判る!」
「弓の手、これを忘れているだろ!」
「黒槍、悪い!確かにこれを欠けては味わいが成り立たないよな。」
訂正、荒野の民も食べる楽しみを大事にしているのだった。因みに干し肉は秘伝ではない。
「ふむ、これは美味しい。」
「成程、携帯食として乾燥しているから保存性が良くて、干したことにより旨味が凝縮されているんだ・・・・・・・・・・・弓の手さん、これ売ってちょうだい!」
「小僧っ子、旅の仲間だろ。お互いに融通しあうものだ、他人行儀は良くないぞ。」
「いやぁ、こういうことはちゃんとしないと・・・・・・・・・・・・親しき仲にも礼儀ありって。」
「吾等相手にそれは不要。お前からも色々貰っているしな、それに吾等の飯も作るのだろ材料提供だ。」
「ありがとう!これで・・・・・・・・・・色々・・・・・・・」
「はふっ!」「あつっ・・・・・・・・・」
「逃げないから落ち着いて飲めよ。」
「うんっ!」
なんか干し肉を見て色々構想が出てきている小僧っ子にスープの熱さに顔を顰めている死霊っ子達、勇者(笑)も荒野の民の食文化に興味津々である。因みに騎士様と極北戦士達は食べて飲んでばかりである。役に立っているのだろうか?
そんな一行のおいしそうな匂いにつられたのか隊商の中でもまとめ役なのか裕福そうな服を着た者が供を連れて
「そこのご一統の皆様方、我等にもそのスープを分けてくださいませんかな?勿論ただではとは申しません。」
鍋の中のスープは半分ほど残っている。人日卿が一同を纏める振りをして
「お前等お隣さんに分けるのはいいか?」
「構わんぜ人日の旦那。」「俺はもう少し食えるが・・・・・・構わんぞ。」
「我等にも十分行き渡っているから問題ない。」「いいよー」
「勇者(笑)、お前は?」
「夜は街でしょ?ならば問題ないかな?」
「我等は大丈夫みたいだ、旅の途中でなにかの縁だ。器をもってこい、振舞おうぞ!」
と一声をあげると男が
「こちらの殿様が我等にもスープを振舞ってくださるとの事。皆器をもってこい!」
と大声をだす。そこで隊商の者達が代わる代わるスープを飲み
「うめぇ・・・・・・・・・」「あったけぇものは染みるなぁ・・・・・」
「野営地でもないのに贅沢な。でもうめぇ!」
とうめぇうめぇとの大合唱。
まとめ役らしき男も
「これはこれは・・・・・・・・・・・・・街中の食堂でもこれほどのものは・・・・・・・・・何か秘訣でも?」
等と商売の種になるのかと話しかけてくる。話に持ちかけられた人日卿は
「ああ、そのスープはそこの料理人が作ったものですからな。そこの小僧っ子は聖徒の王宮料理人ですし、夜のうちに仕込んでいたみたいですな。」
「ほぅ、やはり馬車の中で魔道具か何かで熱し続けていたとか?」
「さぁ、彼等の馬車の中は魔窟になっているので見ていないのですよ。」
「こんな美味しい物を旅先で食べることが出来る秘訣を教えてくださいませんでしょうか?出来れば本ご本人様にお話でも・・・・・・・・・」
魔窟とは酷い言い様である。作業部屋と化しているのは否定しないけど・・・・・・・・
ある程度配り終わったからか勇者(笑)は人日卿に手招きで呼ばれてくる。
「人日卿、どうしたんだい?」
「そっちの隊商の長がお前のスープの秘密を知りたいんだそうだ。教えて問題ないか?」
「別に問題ないし・・・・・・・・・・・・・秘密というほどでもないから、だって夜のうちに仕込んでおいて一晩暖めるでしょう。後は馬車で運んで食べるときに暖めなおすだけだし・・・・・・・・・ちょっと手間だけど商品とか運ばないからその辺は運ぶ事できるし・・・・・・・・・麺麭なんかも馬車の中で捏ねて寝かせておけば焚き火で炙って焼けば良いだけだし・・・・・・・・・・・・」
勇者(笑)は気がついていないからかもしれないが、スープや煮物の中で一度醒ましておいて置くと具材にスープの旨味がしみこむのである。鍋ちぐらによる保温調理で長時間煮込んだのと同じような効果が・・・・・・・・・・
うむ、美味美味・・・・・・・(by処暑神)
火から離れているのに煮えるとは面妖な(by荒野神)
これは・・・・・・・・面白い。(by戦槌神)
旅路で暖かいものが食べられるのは・・・・・・・・幸いだな(by旅人神)
えっと、神様方・・・・・・・・・・何堂々とまぎれているんですか?
隊商の長は勇者(笑)の巣と化した馬車の中身を見て・・・・・・・・・・・絶句している。
保存の利く塩蔵肉とか野菜は判る、塩等も必要だろう、砂糖やなんかも用意しているのは贅沢であるがわかる・・・・・・・・・・・・・・・・
でも南方の香料とか極東の穀醤・・・・・・・・そして鍋を囲む【ちぐら】・・・・・・・・・
「何処の料理屋ですか!」
思わず突っ込みを入れてしまった彼を誰も責めることは出来ないだろう。壷の中にはジャムが色々あったり(白の都の孤児達の餞別である。)、旅路において色々な病に対応した調合をされている配合香辛料(南方大商人からの差し入れである)、西方平原国宮廷御用達の果実酒(西方平原国王からの下賜品である)・・・・・・・・・・・更には作りかけの柚子胡椒の入った薬研・・・・・・・・・・・・・
うん、彼は悪くない・・・・・・・・・・・・
隊商の面々も思いかけずに出会った美味に力を取り戻し準備を整えている。その脇では荒野の民が愛馬達に勇者(笑)謹製の軍用焼き菓子(激堅)やら林檎を与えている。それを旨そうに食っている馬、数十頭いる馬其々に上手く行き渡るように世話しているのである。
この浮世離れした一行を見て隊商の長が護衛兼調理人として雇いたいと申し出たのは笑い話であろう。それに対して聖徒の栄えある騎士である人日卿は道の許す限りの同行を許可するのであった。その時支払われた報酬は材料費や手間賃を除き人日卿の臨時収入となり、余力のある荒野の馬達に牽かれた商品は隊商の利益となり共に嬉しい事となったのである。
「ああ、【菓子作る神官】様。この鍋用のちぐら、我々も真似して宜しいですか?」
「それは良いけど・・・・・・・・・」
「ありがとう御座います。これで我が下の者達にも美味しい物を食べさせることが出来ます。」
「そんな大した物じゃないじゃん。鍋にぼろ布とか毛布掛けるだけでもいいし。」
「いえいえ、これはこれで理にかなった品物ですぞ。このちぐらという籠だけでも銀貨を払うくらいの価値が・・・・・・・・・・・そして、美味しい物を食べて士気が上がれば効率も上がりますし私もおいしいものが食べることが出来て嬉しいですし・・・・・・・・・」
「まぁ、そうですよねぇ・・・・」
「ああ、これは御礼となります。」
じゃらり・・・・・・・・
「これはこれはご丁寧に・・・・・・・・・・」
勇者(笑)の公的な称号を知った隊商の長はお偉いさんとの縁故を作ろうと擦り寄ってくる、美味とその秘密だけでも利益に繋がらなくとも美味しい思いが出来ると踏んで。胃袋は大事である。
彼等と同道すること数日、旅の中間点である霜降国【霧の都】に到着するのである。
因みに上巳卿は国許に帰っています。
流石に異世界人を一人だけにするのは問題なので人日卿が同行しています。
さて、年末デスマーチに備えて栄養補給しないと。後酒も




