はじまり
『……………ーーーえっ…………?』
気が付くと、俺の目の前が汚いゴミ屋敷(俺の部屋)から楽園に変わった。意識が遠のいた記憶も無いし、瞬きをしていたら急に視界が変わったような錯覚。
これこそワープ……と言うのかトリップと言うのか?しかしお約束では、竜巻に巻き込まれた場合『うわぁ~~、吸い込まれるッ』が妥当で有ろう。
こんなにも簡単にトリップをした俺…芝崎康。残念ながら『…ここは何処だ?』というトリップ特有のお約束セリフを、言わずにワープしてしまった男で有る。非常に虚しい。あっ……、しかし竜巻とか関係無しに『ここは何処?』の名ゼリフは言うか、そうか…じゃあいいや。
「ここは何処?」
一応言いますよ…それは。例え夢でも、さっきのゴミ屋敷の方が夢でも関係無い。お約束に反した行動をするヤツなんて、死ねばいいのに……な~んて、嘘だって。
(……死語は慎みましょう。)
ソレにしても此所は何というか……。「楽園」と言われれば楽園とも言えるし、「地獄」と言われれば地獄になりそうな…何とも微妙、微妙過ぎる所で有る。辺りも静かで物音すらしていない。静か過ぎるのもまた怖いしな。
「ここは…。」
そう言ってその場から立ってみる。……そこで俺は動揺してしまった。
まさか、此所が「天空」だなんて思わないだろう?立つと座っていたら隠れて見えなかった町が、雲が、空が(空は上にもあるでしょ?)下に見える。下の方はは雲のせいで見えなかった。
物静かな場所に怪しげな音が入り驚愕して振り向くと、小さめな耳の長い少女が立っていたのだ。多分地球で言う……え…エルフ…、だったっかな?簡単に言うとそんな感じだ。しっぽ等は触れたら長くなりそうだし、もう触れないでおこう。
『……マッdクeiage#&%~~。』
何語ーーー!?無理です、無理です…。途中で『マック』って言った様に聞こえたけど、ここでファストフード登場な訳無いしッ。マックマック、マクドナルド……。お腹すいたわ。
そうして少女は気付いたように、持っていた何かを回した。まるで時計の様な、ソレにしては異常に大きいような、そんな感じだ。回したあと、俺の顔を真っ直ぐ見る。その瞳に映る赤い瞳はカラコンか?それとも生まれつきか?
『大変…し…、失礼しました。間違えていた様ね。』
……マック。…って違う違う、一応今のなら分かるぞ!どうやら謝られているようだな、俺。
『あの……これでも分かりませんか?しまった。また……間違えたかなッ?このダイアル回しにくいのよね…』
「あ…ま…まぁ一応分かる、ケド。」
『あら、そ…そうですか!良かった。さっきはごめんなさい。私のミスで驚かせてしまったようですね。本当にスミマセン。』
少女は姿形は幼いものの、喋り方的に『出来る女』って感じだ。俺のお袋そっくりな口調。
「今の回したのって…」
『あっ、これですか?これは、音替えマシーン1000号ですっ』
割とまんまだな。せめて通訳機とかさ……………もういいや。俺は面倒くさがりなんだ。いるだろ?部屋がゴミ屋敷化していくヤツ。服とか出しっぱなしでしまわないヤツ。それが俺だ。
それとあえてツッこまなかったが、1000号ということはあと999号まで有るんだろうなッいくら何でも多すぎるンじゃないか?
「っていうかさ、俺はなんで此所にいるの?」
『私が呼びよせたのですよ。貴方のお力を借りる為に。』
「えっ……俺の力?」
俺は今まで、平凡かつ「普通」と呼ばれる人生を歩んできた。仲の良い女子も不細工でも可愛くも無い平凡だったしな。…男友達は割とモテてたけど。
だから、こんな風に力を必要とされていると言われてまんざらでも無かったのだ。
『説明は…出来ません。何も言うなと言われているもので。貴方のお力が必要、それだけは知っておいて下さい。』
「ああ…。」
『それよりも、ここから飛び降りれます?」』
「はい…はい?」
『飛び降りれますか?何なら後ろから押してあげますよ?』
下を見下ろすと、洒落に無んない高さだ。高い山も下にちっぽけに見える。だって考えても見ろよ…、観覧車で落ちるより遙かに高いんだぜ?
「無理っス。」
『しょうがないわね。目をつぶりなさい、催眠をかけてあげる』
「とかいいながら後ろから突き落とすなよ!?無理だからな?」
そう言いながら目を瞑った。
………ーーー俺の異世界の始まりはこのロリ少女との出会いだったーーー。