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中年サラリーマンの俺だけど、会社の斜め向かいの席のギャルになぜか懐かれている  作者: 只野 唯


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10/14

10 少し厄介な昼休み


 最近、山本には少し気になっていることがある。

 それは、斜め前の席に座る朝倉さんのことだ。

 きっかけは、あのバレンタインの出来事だった。


 社内でバレンタイン禁止令が出たにもかかわらず、「これはバレンタインじゃありません。日ごろの感謝です」と言い張って渡されたチョコレート。

 そのお返しという形で、二人で昼食をとった。

 駅前の路地裏にある、小さな和食屋だった。

 それで終わるはずだった。

 ただの、少し変わった出来事として。


 けれど気づけば、それから二週に一度ほどのペースで、朝倉と昼を共にするようになっていた。

 最初は「お礼の延長」だったはずだ。

 しかし今では、山本のほうが密かに予定を気にしている。


 午前中、ふと視線を上げると、モニター越しに朝倉の横顔が見える。

 淡い色のネイルをした指先が、軽やかにキーボードの上を跳ねている。

 何かを話して笑うとき、目尻がきゅっと下がる。

 若い。

 まぶしい。

 自分とは違う季節を生きている人間だ。

 だから、なるべく見ないようにしている。

 それでも、気がつくと視線が向いている。


「山本さん、今日どうします?」


 昼前になると、朝倉が椅子をくるりと回して声をかけてくる。

 その声を聞くだけで、胸の奥が少しだけざわつく。


「どうします、とは?」


 山本はわざと素っ気なく返した。


「ランチですよ」

「今日は忙しいのでは」

「山本さんに断られたら忙しくなるかも」


 いたずらっぽい目で言う。

 山本は小さく息をついた。


「……行きますよ」


 言った瞬間、なぜか朝倉のほうが嬉しそうに笑った。

 自分は何をしているのだろう、と山本は思う。

 年齢も、立場も、きっと釣り合わない。

 彼女にとって自分は、少し面倒を見たくなる会社のおじさんに過ぎないはずだ。


 それでも。

 定食屋で向かい合い、湯気の立つ味噌汁をすすりながら他愛のない話をする時間は、思っている以上に心をほぐしてくれる。


 ある日、朝倉が言った。


「山本さん、最近ちょっと顔色いいですよ」

「それはあなたの錯覚です」

「私の健康プロジェクト、成功ですね」


 そう言って笑う彼女を見ていると、胸の奥がじんわりと温かくなる。

 最近、気になっているのは朝倉の存在そのものではないのかもしれない。

 彼女と一緒にいるときの、自分のほうだ。

 コンビニの総菜パンで十分だと思っていたはずの男が、次のランチの予定を少し楽しみにしている。

 それが――いちばん厄介だった。

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