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ラウ・ファミリア ~正しさよりも、共にある温もりと優しさを~  作者: 言ノ悠
第一話 パーティ結成、そして事件発生
9/41

09

 王城の門を抜けると、一行は厚い石壁に囲まれた城内へと迎え入れられた。

 高い天井の廊下には燭台が整然と並び、揺らめく灯火が白い壁に淡い影を落としている。硬い石畳に反響する足音が、広がる静寂をいっそう際立たせていた。


 衛兵に導かれ、いくつか角を曲がった先で重厚な扉の前に立つ。

「こちらです」

 短く告げられると同時に、扉が押し開かれた。


 中に広がっていたのは、華美さよりも落ち着きを重んじた私的な応接室だった。

 厚手の絨毯に深緑のカーテン、重厚な木の調度品。余計な装飾はなく、静謐な空気が場を支配している。


 その中央に、毅然とした軍服をまとったオルファリオン王国騎士団長の姿があった。


「久しぶりだな、騎士団長サマ」

 最初に口を開いたのはミササギだった。

 軽く笑みを浮かべて放たれたその言葉は、応接室の空気をわずかに揺らした。


 騎士団長は口角をわずかに緩め、すぐに真顔へと戻る。

「その節は世話になったな。座ってくれ」


 手で示された先には、磨き込まれた木の長椅子が並んでいた。厚い絨毯に沈むように置かれたそれは、質素ながらも威厳を保っている。

 ジンガを先頭に、仲間たちは順に腰を下ろした。椅子がわずかに軋み、静かな室内に細く響いた。


「本題に入る前に、ひとつ言っておきたいことがある」

 向かいに騎士団長が腰を下ろすのを見届けてから、ミササギは口を開いた。


「……なんだ?」

 騎士団長の声音は低く抑えられていたが、わずかな警戒がにじんでいた。


「部下の教育をきちんとやれ。下手をすれば、俺がこの国の敵になるぞ」


 その一言で、応接室の空気がひりついた。

 沈黙ののち、騎士団長は目を細め、口角をわずかに動かす。

 それが笑みか苦笑かは判然としない。


 やがて彼は重々しく息を吸い、深くため息を吐いた。

「すまない。どうしようもなくてな」


「何がどうしようもないんだ?」

 ミササギの声音には怒気ではなく、真実を引き出そうとする冷ややかさが宿っていた。


「国の事情だ」

 騎士団長は短く答え、指先で肘掛けを軽く叩く。

「情勢が不安定になり、戦力を拡大せざるを得なかった。兵の数は増えたが、教育が追いつかん。粗削りの者が多い」

 その声音には、言い訳ではなく苦い現実を伝える響きがあった。


「冒険者ギルドを通して指名依頼を出すなら、それなりに協力はしてやるけどな」

 冒険者ギルド。魔物討伐から護衛、探索、人命救助まで、街や王国に寄せられる依頼を仲介する公的組織だ。

 依頼主からの報酬を取りまとめ、冒険者の身分や力量を保証する唯一の窓口であり、この世界に欠かせない存在でもある。


「《ブラック》ランクに依頼を出せるほど、国庫に余裕はない」

 《ブラック》ランクを動かすとなれば、国が傾くほどの大金が必要だ。

 そもそも、そんな資金があるなら戦力を拡大する必要もない。


「国の事情はひとまず置こう」

 騎士団長は背凭れから身を起こし、視線を鋭くする。

「まずは確認させてもらいたい。昨夜の騒乱を、君たちはどのように知った?」


 応接室の空気が再び張りつめる。

 ジンガは即座に答えた。

「屋敷から黒煙を見ました」


 その瞬間、隣に座るミササギが、ジンガの足を軽く踏んだ。

「……いっ」

「かしこまるな。舐められるだけだぞ」

「そういう問題じゃないだろ」

 ジンガは不満げに顔をしかめ、横目でミササギをにらむ。


「口調など気にしなくていい。私には遠慮はいらない」

 騎士団長が穏やかに言葉を添えた。


「それでも、礼を欠くわけにはいきません」

 ジンガは小さく首を振り、真っすぐに答える。


 それから、隣のミササギをにらみつけるようにぼやいた。

「管理職って大変なんだぞ」


 ジンガは咳払いをひとつして姿勢を正した。

「……ミササギは一旦置いておいていいので、何をお聞きになりたいですか?」

 視線を正面に戻し、騎士団長へ促す。


 騎士団長は顎に手を添え、短く息を吐いた。

「貴殿らがどこまで把握しているのか、我々には分からない。昨夜の現場で、何か不自然に思えるものはなかったか?」


 その声音は威圧ではなく、真実を求める静かな響きを帯びていた。

 ジンガは目を伏せ、言葉を選ぶように間を置いてから口を開く。


「ええ、あの場に魔法陣の残滓がありました。自然にできたものではないはずです」

 ジンガの言葉に、応接室の空気がぴんと張り詰めた。


「魔法陣だと?」

 騎士団長の瞳が大きく揺れる。


「はい。出過ぎた真似かもしれませんが、実は昨日のうちに魔法陣の解析は終わってまして」

 ジンガは真剣な眼差しを騎士団長へ向けた。


「な、解析だと?」

 騎士団長の瞳が驚きに揺れる。


「このお話は不要ですか?」

 ジンガは探るように問いかけた。


「いや、必要だ。こちらには一切の報告が上がっていない。可能な範囲で構わない、聞かせてほしい」

 騎士団長は真摯な声音で言い、背筋を伸ばした。


「使われていたのは、異世界召喚に用いられる術式と酷似していました」

 ジンガの声は落ち着いていたが、その内容は場を凍らせるに十分だった。

「もちろん、実際の異世界召喚には神の力が関わります。今回のものは、それを模した、人の手で扱える規模に過ぎませんが」


「私が調べた限りでは、そうみたいですね」

 ジンガの静かな言葉が落ちると、応接室に再び沈黙が広がった。


 騎士団長は深く息を吐き、しばし考え込むように目を伏せる。

「……理解した。君の見立てが正しければ、これは単なる騒乱では済まされん」


 やがて顔を上げ、真っ直ぐにジンガを見据えた。

「話してくれて感謝する。この情報を参考に、我々で調査を進めよう」



 ――ドンッ!


 厚い扉の向こうから、重い衝撃音が響き渡る。

 床がかすかに揺れ、壁の燭台がカタリと震えた。


「何だ……?」

 騎士団長が眉をひそめる。

 静謐な応接室の緊張が、再び鋭く張り詰めていった。

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