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ラウ・ファミリア ~正しさよりも、共にある温もりと優しさを~  作者: 言ノ悠
第一話 パーティ結成、そして事件発生
8/41

08

 夕暮れの傾いた陽光が、屋敷の広間に差し込んでいた。

 赤みを帯びた光が石造りの床や壁を染め、昼の喧騒と夜の静寂の狭間にある一瞬の色彩を形づくっている。

 その中に、ジンガだけが立っていた。


 深い色合いのローブに兜巾、篭手とブーツ。耳に揺れる非対称のイヤリングが、淡い光を反射して煌めく。

 日常の装いでありながら、どこか現実離れした気配を漂わせていた。


「ジンガの能力……こういう時、本当に羨ましいよ」

 次に現れたのはミササギだった。漆黒のコートに腕を通しながら、二階から階段を降りてくる。腰には愛刀が下がっている。


「いや、大したことじゃないだろ。ミササギだって上から羽織るだけだし」

「それはそうだ。……でも、戦闘中に瞬時に装備を切り替えられるのは強みだ。戦略の幅がまるで違う」


 ジンガは肩をすくめた。

 かつてプレイしていたVRMMO 《ワールド・クロス・オンライン》。そこで使っていたシステムの大半は、この世界でも生きていた。着替えすら《装備》の切り替えひとつで済んでしまうのだ。


「それ、私のセリフじゃない?」

 軽やかな足音とともにミレイが入ってきた。


 後ろに束ねた栗色の髪。純白のブラウスに漆黒のスラックス。腰には二丁の拳銃。

 その姿は軽やかでありながらも鋭さを漂わせ、まるで仕事人のような空気を纏っていた。


 そこへ続いて、黄色のドレスを身にまとったエリシアが姿を現す。

 端正に着こなしたその佇まいはいかにも貴族らしく、広間の空気に華やぎを添えていた。


「おお、綺麗だな」

 ジンガの視線は真っすぐにエリシアへ向けられていた。


「そうですか?

 ……それならいいのですが」

 エリシアは小さくうつむき、頬を赤らめながら答えた。

 普段は商人の娘のような格好をしているが、実際には名のある家柄の出。こうした装いが似合うのは必然ともいえた。


「おーっ、揃ってる!」

 アーキ色の短髪を揺らしながら、クルスが飛び込んでくる。ラフなシャツに半ズボン姿、その動きは年相応に元気いっぱいだ。


「皆さま、お待たせしました」

 少し遅れて姿を見せたのはレイラだった。銀髪をきちんと整え、落ち着いた色合いのワンピースに身を包んでいる。背筋をすっと伸ばしたその佇まいには、年相応には思えないほどの落ち着きが漂っていた。


「……よし、全員揃ったな」

 ジンガは窓から差し込む夕陽に視線を向ける。

「そろそろ夜になる。行こう」


「はあ、かったるいな」

 ミササギはつまらなそうに息を吐いた。


「そう言うなよ」

 ジンガは肩を竦め、屋敷の表扉に手を掛けた。



 ――街は、すでに夜支度を始めていた。


 石畳の両脇では露店が軒並み店仕舞いに追われている。木箱を重ねる音、布を畳む気配が重なり、夕餉の匂いがそこかしこから漂っていた。代わって街路のランプに次々と火が灯され、橙の光が一つ、また一つと連なっていく。


 人々の足取りは昼よりも速く、家路を急ぐ者と夜の市へ繰り出す者とが入り混じる。喧噪は薄れながらも、どこか期待を含んだざわめきが街に残っていた。


 《ラウ・ファミリア》の面々は、その流れを縫うように石畳を進んでいく。


 屋敷を出たとき、空にはまだ淡い赤みが滲んでいた。

 それもすぐに夜の群青に飲み込まれ、頭上には早くも星の光が顔を覗かせていた。


 正面にそびえる王城の輪郭は夜空を背にいっそう濃く浮かび上がり、窓に次々と明かりが灯る。街灯の列とは異なる、荘厳な輝きが城下を照らし返していた。



 ――やがて、一行は王城の正門へとたどり着いた。


 石畳はそこで途切れ、巨大な城壁が闇の中にそびえ立つ。等間隔に掲げられた松明が石を照らし、揺れる炎が門の影を深く伸ばしていた。街のざわめきは遠ざかり、ここには厳粛な空気だけが漂っている。


 門前には数名の衛兵が槍を手に立ち並び、通行人を鋭く監視していた。その一人が一行を認めるや、姿勢を正し、槍の切っ先を向けて声を張る。


「止まれ! ここは王城。用件を申せ」

 その声に続いて、周囲の衛兵たちも槍の切っ先を向けた。


 ジンガが一歩前へ出る。

「昨夜の騒乱の件で呼ばれた。《ラウ・ファミリア》だ」


 名を告げた途端、衛兵たちの表情がわずかに揺れる。だがすぐに引き締め直し、槍を握る手に力がこもった。


「……しばしお待ちください」

 そう告げると、衛兵の一人が駆け足で城内へ消えていった。


 残された彼らは沈黙を守り、槍を構えたまま動かない。橙の炎だけが揺れ、場の緊張を際立たせていた。


 ジンガは紺青に沈む空を仰ぐ。窓に明かりが次々と灯る王城は、まるで夜を背負った巨人のように聳えていた。


 やがて足音が近づく。戻ってきた衛兵と共に現れたのは、銀の装飾を施した胸甲をまとった騎士だった。


「団長の命により、皆さまを城内へご案内せよとのことです」

 騎士は真っ直ぐにそう告げ、兵たちは槍を下げる。門が開かれると、奥から冷たい夜気と石の匂いが流れ込んできた。


「……ふん」

 鼻を鳴らしたのはミササギだが、その足取りは止まらない。

 ジンガは肩をすくめ、一歩踏み出して仲間たちへ目配せした。


 こうして《ラウ・ファミリア》は、王城の内部へと歩を進めていった。


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