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ラウ・ファミリア  作者: 言ノ悠
第一話 パーティー結成、そして事件発生
5/9

05

 街の騒乱を背に、ジンガとミササギは屋敷へと戻ってきた。

 高い石塀に囲まれた中庭はひっそりと静まり返り、つい先ほどまで耳を満たしていた怒号や悲鳴が嘘のように遠い。

 玄関扉に手をかけると、古びた蝶番がかすかに鳴り、重い木の板が軋んで開いていく。


 漂ってきたのは乾いた木材と、古い調度に染み込んだ香り。

 外に充満していた煙と血の匂いとは対照的に、ここには自分たちの「居場所」の匂いがあった。


「おかえりなさい!」

 レイラが銀髪を揺らしながら駆け寄ってくる。眉根を寄せた顔には、出迎えられた安堵と、まだ拭えない不安が同居していた。


「おー! ちゃんと帰ってきた!」

 クルスは大げさに胸を張り、にかっと笑ってみせる。陽に焼けたアーキ色の短髪が、彼の腕白さを際立たせていた。


「ただいま」

 ジンガは短くそう告げ、靴底を鳴らして玄関を踏み越えた。張り詰めていた肩が、わずかに緩む。


「騒ぐな。帰ってきて当然だ」

 ミササギは面倒そうに吐き捨てながらも、目元にはほんのわずかな柔らかさが宿っていた。


「ミレイとエリシアは?」

 迎えに来たのは二人だけ。パーティは六人――ジンガとミササギを除けば、四人いるはずだ。玄関に顔を出さないのは珍しくないが、つい気になってしまった。


「ご夕食をつくってます」

 レイラは控えめに答える。


「エリシアが新しい料理にチャレンジしてる」

 クルスは楽しげに続けた。


「あー、なるほど」

 ミササギはすぐに合点がいった様子で声を上げた。ミレイがエリシアに料理を教えている光景が、自然に頭に浮かんだからだ。


「そっか。じゃあ、楽しみだな」

 ジンガの口元に、心の底から待ち遠しいという色がにじむ。戦場の緊張をひととき忘れるように。


 四人で廊下を進むと、香ばしい匂いが鼻をくすぐった。

 厨房からは鉄鍋の音と、湯気に混じった香草の香りが漂ってくる。

 弾むエリシアの声と、それに応じる落ち着いたミレイの声が重なり合い、まるで姉と妹のようなやり取りを思わせた。


「ほら、やっぱり新しい料理だろ」

 クルスが鼻をひくつかせ、にやりと笑う。


「匂いでわかるの、すごいです」

 レイラは呆れ半分、感心半分の眼差しを向けた。


 ジンガは小さく笑みを浮かべ、その光景を眺めながら足を止める。

 外で嗅いだ血と煙の匂いが、胸の奥からようやく洗い流されていく気がした。


「……行くぞ」

 ミササギが短く促し、厨房の扉を押し開ける。


 中では、エリシアが大きな鍋と格闘していた。

 両手に木べらを握り、必死にかき混ぜる額には汗がにじんでいる。

 隣のミレイは穏やかな笑みを浮かべ、手際よく皿を並べていた。


「あっ、おかえりなさい!」

 エリシアがぱっと顔を輝かせる。

「もうすぐできますから、座って待っていてください!」


「おかえり。今日の進捗は後で聞かせてね」

 ミレイは普段通りの口調で応じ、変わらぬ調子でミササギを抱きしめた。


「ん……」

 ミササギも無造作に彼女を抱き返す。


「「「……」」」

 ミササギが帰ると、ミレイは当たり前のように彼にハグをする。

 だが結成したばかりの仲間にとっては、その距離の近さはまだ目新しく、どうしても気まずい空気を生んでしまう。


「いつものことですよ」

 レイラは元より二人と行動を共にしていた。だから、真新しさは感じなかった。


「じゃあ、食堂で待ってて」

 ミレイはさらりと言い、再び手を動かし始める。


 ほどなくして、食堂の長い卓に料理が並んだ。

 焼き立てのパン、香草を散らした煮込み、野菜をふんだんに使った彩り豊かなサラダ。

 揺れるランプの灯りに照らされ、古い屋敷はひととき宴の場へと変わった。


「おおーっ、すげぇ!」

 クルスが椅子に飛びつき、思わず手を伸ばしかける。

 その瞬間、ミレイの視線が鋭く突き刺さった。


「手を出すのは、皆が揃ってから」

「……はーい」

 渋々肩をすくめて手を引っ込める。


 やがて、エリシアが仕上げの皿を抱えて小走りに現れた。

 熱気に頬を赤く染め、髪の先には湯気がまとわりついている。


「お待たせしました!」

 ぱっと大皿を置くと、卓は一気に華やかさを増した。


「おおっ、最後の一品!」

 クルスが目を輝かせる。


 香草の香りが立ち上り、色鮮やかな料理が並んだ光景に、自然と全員の視線が集まる。


「それじゃ、いただきますしようか」

 ミレイが静かに声をかける。


「いただきます!」

 六人の声が重なり、温かな食卓の時間が始まった。

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