41-日記
私――エリシアは、今日も日記を書く。
昨日は歓迎会があって書けなかったから、今日は二日分をまとめて。
胸の中に書きたいことがたくさんあって……どう綴ればいいのか迷ってしまうくらい。
まずはアストレイさんのこと。
本名はアストレイ・ムールバウム。
オルファリオン王国の地に、かつて栄えていたムールバウム王国の王女様だって言っていた。
見た目はとても若くて、美しくて。
最初に会ったときは――ジンガ様を取られてしまうんじゃないかって、思わず焦ってしまった。
でも、ムールバウム王国が栄えていたのは何百年も前のこと。
つまり、アストレイさんは外見どおりの年齢じゃないんだって、すぐに気づいた。
それから……アストレイさんの魔術師としての腕前は、私が故郷で見てきた魔術師たちとはまるで違っていて、すごいと感じた。
詠唱の速さも、術の扱い方も、私の知っている常識の外側にあって。
ただ見ているだけで、胸がどきどきしてしまう。
きっと、ジンガ様から色んな術式を教わってきたから、そういうことに気づけるようになったんだと思う。
――そう思える自分が、ちょっと嬉しい。
今日は空間術式をジンガ様から教わった。
アストレイさんも、きっと使えるんだろうな……。
召喚術式も扱えるらしいから、術式の構築に関しては私なんかよりずっと深い造詣があるはず。
実際、実験体の研究を手伝っているときの動作は、一つ一つがとても淀みなくて、見ていると安心するくらい。
それに比べて、私は何をするにしても、まだちょっとおっかなびっくりだ。
だから……私も頑張らないと。
これが、今日どうしても書き残したかったことのひとつ。
それから、もうひとり――オルトリアさんのこと。
彼女は《ミスリル》ランクの冒険者で、剣が好きらしい。
《ミスリル》ランクは、冒険者ギルドの中でも上位の階級で……たしか全体の五パーセントくらいしかいないと聞いたことがある。
私がまだ貴族だったころ、ジンガ様に出会う前に耳にした話だから、どこまで正しいのかはわからないけれど。
でも、それくらいの階級の人と一緒に過ごしているんだと思うと、ちょっと不思議で、ちょっと誇らしい気持ちになる。
オルトリアさんの剣筋は鋭くて、見ていると「本当に戦いが好きなんだな」って伝わってくる。
冒険者ギルドの階級の話をしていると、いつも決まって頭に浮かぶのは、ミササギ様のこと。
彼のランクは《ブラック》。通常の階級とは違い、完全に人外として扱われる存在だ。
たしか……ミササギ様は神殺しを行ったことがあって、それが理由で《ブラック》ランクに分類されている。
オルトリアさんとの戦いを見て、改めて実感した。やっぱりミササギ様は一線を画している。
《ミスリル》ランクの剣士を、片手間のようにあしらうなんて――
……うん、ジンガ様と気が合うわけだ。
私に過去が無かったら、貴族として教わった教養が無かったら、オルトリアさんが弱いんだって、物事を正しく見られなかったと思う。
ミササギ様とオルトリアさんの鍛錬が終わったあと、私は思い切ってオルトリアさんに声をかけてみた。
だって、これまで知っていたのは、ジンガ様から「こんな人だよ」と聞かされたことだけだったから。
でも実際に話してみると、思っていたよりずっと穏やかで、真面目で……少し距離が近づいた気がして、うれしかった。
冒険者になった理由を聞いたとき、はっきりした目的があるわけじゃないことが、少しだけ面白かった。
"やりたいこと"や"やらなければならないこと"ではなくて、自分の取れる選択肢の中で最善を選ぶ――そういう将来の決め方もあるんだと、初めて知った。
私にはなかった考え方で、とても参考になった。
──あ、ジンガ様とミササギ様が帰ってきた。
窓の外に見えた瞬間、胸がふわっと温かくなる。
私は「おかえりなさい」を伝えたくて、自分の部屋を後にした。
現在、この物語の前日譚を描いています。
全てが再接続された後に、こちらで全部投稿いたします。
2ヶ月ほどお待ちください。




