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ラウ・ファミリア  作者: 言ノ悠
第一話 パーティー結成、そして事件発生
4/9

04

 ジンガは両手をわずかに広げ、静かに応じた。

「誤解だ。俺は、この痕跡を確かめていただけだ」


「痕跡だと? 怪しい言い訳を!」

「ならば、お前がその“何者か”でないと、どう証明する!」


 騎士たちの声は剣呑さを増していく。

 ジンガはしばし黙し、視線を煙の向こうへと向けた。

「……証明はできない。ただ一つ言えるのは――俺は人を救うためにここへ来ただけだ」


 その冷静な声色に、一瞬だけ空気が揺らいだ。

 しかし次の瞬間には、さらに剣が迫る。


「退け!」

「捕らえる!」


 緊張が弾けようとした、その時――


「――たかが騎士風情が、調子に乗るな」


 低く、凄烈な声音が割って入った。

 煙を裂いて現れたのはミササギだった。

 すでに血を払って刀を鞘に納めており、その歩みは静かだ。


「俺の名はミササギ。ブラックランク冒険者だ」

 彼は冷ややかな眼差しで騎士たちを射抜く。

「この国にも時折、指南役として手を貸してきた。

 ……お前ら、俺の仲間に刃を向けるってことが、どういう意味か本当に理解しているのか?」


 その言葉に、騎士たちは息を呑んだ。

 互いに顔を見合わせ、剣を握る手が震える。

「……ブラック、ランク……?」

「まさか、本当に……」


 ミササギの名は既に彼らの間でも噂となっていた。

 神をも斬るとまで囁かれる剣客――その本人が目の前にいる。


 騎士たちはやがて剣を引き、膝を折る者まで現れた。

「……失礼をいたしました」

「我らの早計でした。どうか、お許しを」


 だが、ミササギの瞳は氷のように冷えたままだった。

「許す?」

 低く落ちる声が、むしろ背筋を凍らせる。

「次に刃を向けたら――一族共々、皆殺しだ。覚えておけ」


 騎士たちの顔から血の気が引き、誰もが息を呑んだ。


「ミササギ、待った」

 その横からジンガが声をかける。

「彼らは仕事をしただけだ。そんなに怒ってやるなよ。……俺は大丈夫だからさ」


 ミササギはわずかに目を細め、口をつぐんだ。

 納得してはいない。だがジンガの言葉を前に、それ以上は追及しなかった。


「ほら、今のうちの逃げな」

 それからジンガは、騎士たちに向けて手をひらひらさせる。


「ひっ……!」

「し、失礼を……!」


 恐怖と安堵の入り混じった顔で、騎士たちは散り去っていった。


「……はあ」

 ミササギは大きくため息を吐いた。


「ああいうヤツらは、自分が力を振るうことの危険性を理解してない。なんなら、この場で斬ってもよかったくらいだ」

 視線をジンガに向け、淡々と告げる。


「その気持ちも、言いたいこともわかるよ。わかってるけど──」

 ジンガは一拍置き、真正面からその言葉を受け止めたうえで続けた。


「──俺は、優しくなりたいから」


「……はあ」

 ミササギは短く息を吐き、刀の柄に指をかけたまま、わずかに肩を落とした。

「わかってるよ。わかってる……。

 俺たちは、そんなお前に助けられたんだからな」


「ミササギも優しいと思うけどな」

 ジンガは肩を竦めた。


「うっせえ。……俺のは優しさじゃなくて、ただの甘さだ」

 ミササギは吐き捨てるように言ったが、その声音にはわずかな和らぎが混じっていた。


 ジンガは小さく笑い、肩をすくめる。

「家に帰ろう」


 その一言に、ミササギは黙って頷いた。

 二人は炎と血の匂いが残る街を背に、屋敷へ向かって歩き出す。


「……っと、待って。証拠品だけは持ち帰らないと」

 ジンガが足を止め、散乱する瓦礫の中へ視線を向けた。


「はあ……最後までしまらねえな」

 ミササギは頭を押さえ、深いため息をついた。

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