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ラウ・ファミリア ~正しさよりも、共にある温もりと優しさを~  作者: 言ノ悠
第二話 パーティの行末、そして日常
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「《スペース・クリエイト》」

 エリシアは再び、短く詠唱する。

 虚空がふっと揺らぎ、平面のように歪む。だがそれ以上の変化はなく、形を結ぶには至らなかった。


「気合いが足りない……とかではないですもんね?」

 エリシアは揺らいだ虚空から視線を外し、ジンガの顔を覗き込むように問いかける。


 ジンガはその真剣さがおかしくなり、ふっと笑い声をこぼした。

 軽やかな響きが、静かな庭に淡く広がる。


「気合いじゃないよ」

 彼は苦笑まじりに首を横へ振る。


「ではやはり、何かが足りないのですね……」

 エリシアは眉をわずかに寄せ、落ち込んだようにうつむいた。


「足りないっていうか……うーん」

 ジンガは思案顔になり、足元の緑をしばし見つめる。

 やがて視線を戻し、穏やかな声を落とした。


「空間を作るって、実際どうなるか……言葉で説明できる?」


「……えっと」

 エリシアは胸の前で両手を重ね、考え込む。

「空間を作るって……何もないところに器を置くようなこと、でしょうか。

 その器の中には、外とは違う空気や重さがあって……そういう場所を生み出すこと、なのかなって」


 言葉を探しながらも、彼女なりの答えを絞り出す。

 その声音には、確信よりも「考えを形にする勇気」が込められていた。


「そのイメージでいける気がする。……だから、ひとつ技術を教えるよ」

 ジンガは安心させるように微笑む。


「詠唱っていうのはな、実は三つに分かれてるんだ。……知ってる?」

 少し身をかがめ、教師のような調子で問いかける。


 エリシアは目を瞬かせ、手を口元に添えて考える仕草を見せた。

「三つまではわかりませんが……ジンガ様の詠唱と、他の魔術師の詠唱は違いますよね。

 ジンガ様の詠唱は一瞬で終わるのに、私が知っている魔術師たちは、長く唱えている印象があります」


「おお、いいところに気がつくね」

 ジンガは感心したように頷く。

「さっき“三つ”と言ったけど、正確には二つと――その二つを組み合わせたもう一つなんだ。

 俺が使っているのは“本詠唱”と呼ばれるもので、魔術師たちが使っているのは“本詠唱”と“補助詠唱”を混ぜ合わせた“混合詠唱”なんだ」


「たくさん……あるんですね。

 その、補助詠唱ってどんなものなんですか?」

 エリシアは首をかしげながら、興味深そうに見上げる。


 ふわりと涼しい風が、二人の間を通り抜けた。


「補助詠唱っていうのはな、本詠唱だけじゃ発動できない時に――文字通り、補助として付け加えるものなんだ」

 ジンガは指で空中に線を描くようにしながら説明する。


「術者が優秀であればあるほど……そして術式が単純であればあるほど、本詠唱だけで発動できる」

 区切るように言葉を重ねるジンガに、エリシアは自然と耳を傾けた。


「だから、今回の空間系の術式については……エリシアには補助詠唱を使ってもらう」

 柔らかな笑みを浮かべつつも、声音は真剣だった。


「さっき、空間を作るときのイメージを話してくれただろ? あれをそのまま――補助詠唱にしてみよう」

 ジンガは穏やかに微笑み、エリシアの瞳をまっすぐ見つめた。

 理屈を詰め込むより、まずは感覚を形にすること。その意図がこもった言葉だった。


「わかりました。やってみます」

 エリシアは小さく息を吸い、決意を込めるように頷いた。


 エリシアは胸の前で両手を組み、深く息を吸った。

 頭の中で思い描いた「器のイメージ」を、そのまま言葉に乗せて紡いでいく。


「何もない空へ……器を置く。

 その内には外とは異なる重さがあり、異なる空気がある。

 閉ざされし場をここに形づくり……我が手に在らんことを――」


 言葉が重なるたびに、虚空は震え、淡い光がゆっくりと輪郭を描いていく。

 それはまだ不安定で、今にも掻き消えそうだった。だが確かに「空間」は生まれかけていた。


「――ここで本詠唱だ」

 すぐ傍らから、ジンガの声が静かに差し込む。


「《スペース・クリエイト》」

 エリシアの声とともに、虚空が脈打つ。光の膜が広がり、人ひとりが通れるほどの楕円形の“歪み”を形づくった。


「……できた!」

 弾む声に、瞳が驚きと喜びで大きく見開かれる。


「おめでとう。でも気を抜くのは早いぞ」

 ジンガは笑みを浮かべつつも、声を引き締めた。

「このままでは放置されるだけだ。自分と空間を紐付ける必要がある。身体とも精神とも繋げられるが……どっちがいい?」


「ジンガ様は……どちらを?」

「状況による。どっちが正しいってわけじゃない」

「では、簡単なのは?」

「それも人による」


 エリシアは小さく頷き、指先を差し込む。

「《フィンガー・コネクト》」

 膜が揺れ、淡い波紋が広がった。


「繋がった感じはします。……でも、この後は?」

「空間を動かしてみろ。まずは指を動かすんだ」


 エリシアがゆっくりと指を滑らせると、境界は水面のように波紋を広げながら位置をずらした。

「……動いた!」


「いいぞ。――あとは閉じられるかだ」

「えいっ!」

 可愛らしい掛け声とともに、歪みはすっと閉じた。


「おお〜! さすがエリシア、センスあるなあ」

「やった……!」

 エリシアは小さく拳を握り、笑顔を見せた。


「あとは自由に開け閉めできれば、カバン代わりにも使える」

 ジンガは楽しげに言葉を添えると、手を叩いた。

「今日の話はここまでだ。俺はこれから冒険者ギルドに行って、依頼を見てくるから」


「はいっ! ありがとうございました!」

 弾む声とともに、エリシアは深々と頭を下げた。

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