表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
ラウ・ファミリア ~正しさよりも、共にある温もりと優しさを~  作者: 言ノ悠
第二話 パーティの行末、そして日常
37/41

37

 新たな仲間たちの歓迎会を終えてから、三週間という長いようで短い日々が流れた。


「エリシア、溶媒槽の温度は?」

 研究室の一角に据えられた水槽へ視線を向け、ジンガは確認の声をかけた。その水槽には小さな子供の姿が収められている。


「はい。先日お教えいただいた熱の術式を使って……現在も水温は三十六度を保ってます」

 エリシアはそばに置かれた温度計を水槽へ差し入れ、数値を確かめながら答えた。


「そっか、指示通りにやってくれてるな。完璧だ」

 ジンガは手でグットサインを出すと、次いで、薬品を調合しているアストレイに視線を向ける。


「……どうしたのかしら?」

 その視線に気づいたアストレイが、逆に問いかける。

 普段なら作業に没頭して気づかないはずの彼女が、先んじて応じたのは珍しいことだった。


「いつ頃できそうだ?」

「今日中には仕上がるわ。ただ、今すぐというわけにはいかないけれど」

 ジンガの問いに、アストレイは手を止めることなく答え、わずかに首を振った。


「そう言えば、アストレイ。前に教えた空間魔術について……術式も含めて伝えたけど、使えそうか?」

 ジンガは時折、アストレイにも自分の術式を教えることがある。

 その中でも、彼が特に身につけてほしいと考えているのが、空間に作用する術式だった。


「ほんの少しだけなら、空間は作れるようになったわ。……でも、あなたほど大きなものは無理」

 アストレイは自分の力不足をはっきりと自覚していた。

 できることとできないこと、その境界を見極める姿勢は潔い。


「そうなんだ。やっぱり空間系は難易度が高いんだな」

 ジンガは自分以外の術者の水準を正確には把握していない。

 自分ができることの全てを、他者もできるとは思ってはいない。

 だが、それがどこまでの差なのかまでは掴み切れていないのだ。


「あなたの基準がおかしいのよ。前にも言ったけれど、空間系の魔術は最高難度なんだから……」

 アストレイは小さく肩をすくめ、ため息まじりに言った。

「むしろ、少しでも真似できたことを喜ぶべきなのよ」


「……参考になる。世間知らずだから」

 ジンガは素直にそう口にした。

 この世界の事情に詳しいわけでもなく、この世界の常識を備えているわけでもない。異世界人なのだから。


「貴方が私と話すことで、あそこで嫉妬してるエリシアさんなら……もしかしたらできるかもしれないわね」

 アストレイは視線を横に流し、からかうような声音を混ぜた。


「……っ」

 エリシアはむっと唇を噛み、頬を赤らめて視線を逸らした。

 否定したい気持ちはあっても、言葉がうまく出てこない。


「確かに、色々と覚えてきたエリシアに新たな術式を教えるのはアリだな」

 エリシアには短い期間ながら、すでに基礎的な魔術について多くを説明し終えていた。


 ジンガの言葉を耳にした瞬間、エリシアの瞳がぱっと輝いた。

 胸の奥からあふれる期待を隠しきれず、小さく拳を握りしめる。


「そんなに喜んでくれるなら、教えるかいもあるな」

 ジンガは微笑みながら、エリシアの頭をぽんぽんと撫でた。


「アストレイも来るか?」

「私はいいわ」

 アストレイは視線を薬品に戻し、淡々と答える。


「そっか。じゃあ、任せた」

 ジンガは軽く手を挙げて告げると、エリシアと並んで研究室を後にした。

 残されたアストレイはひとつ息を吐き、再び黙々と作業に戻っていった。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ