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ラウ・ファミリア ~正しさよりも、共にある温もりと優しさを~  作者: 言ノ悠
第二話 パーティの行末、そして日常
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 迫り来る刃に、エリシアの瞳が大きく見開かれる。

 体が強張り、咄嗟に避けることもできない。

 息を呑んだ仲間たちの声なきざわめきが、庭の空気を凍りつかせた。


 次の瞬間――


 乾いた銃声が庭に轟いた。

 火花を散らした衝撃で黒い刃は軌道を逸れ、エリシアの目前をかすめて芝へと突き刺さる。


 誰もが一瞬、耳鳴りの残響に呑まれたまま動けなかった。


「ひゃ、ひゃあっ!?」

 最初に声を上げたのはエリシアだった。

 その突き刺さった刃を凝視し、膝が勝手に震える。慌てて後ずさった拍子に、椅子の背に手をかけて支える。

 その動きに釣られるように、クルスとレイラも同時に立ち上がり、思わず声を上げた。

 庭の空気が一気にざわめきに包まれる。


「ミササギっ! 飛ばす方向くらい変えられたでしょっ!!」

 真っ先に声を上げたのはミレイだった。

 椅子をがたんと鳴らして立ち上がり、眉を吊り上げながら鋭く叱責する。


「……悪かった」

 ミササギは短く息を吐き、素直に謝罪の言葉を口にした。

 軽い調子ではなく、本気で反省していることが声色に滲んでいた。


「み、ミレイさん……ありがとうございます……」

 さっきの銃声が誰のものかは、言われずとも分かっていた。

 だからこそ、エリシアは涙目になりながらも、必死に礼を口にした。


「良かった……怪我がなくて」

 ミレイは小さく息を吐きながら、ようやく緊張を解いた声をかけた。

 その声音には叱責の鋭さはもうなく、ただ心底ほっとした色だけが残っていた。


「……もう終わりでいいよね?」

 ミレイは鋭い眼差しを向けた。

 ミササギへ、ジンガへ、そしてオルトリアへ。

 三人まとめて釘を刺すように、その声音は一切の甘さを許さなかった。


「そうだな。もう勝負は付いたし……オルトリアさんは異論ある?」

 ジンガが肩を竦め、柔らかく問いかける。


「悔しいが……認めざるを得ない」

 オルトリアは深く息を吐き、静かに答えた。


「じゃあ、ミササギの感想を聞かせてくれ」

 ジンガは今度はミササギに視線を向けた。


「んー……まあ、雑魚ではないよな」

 ミササギは素直に感想を口にした。

「でも頼りにはならない。この程度なら、俺はジンガに頼ると思う」


 淡々と告げられたその言葉は、避けようのない現実だった。


「い、一応これでも、《オリハルコン》ランクと勝ったり負けたりしているのだが……」

 オルトリアの声には愕然とした色が混じる。


「戦いだけだろ、それ」

 ミササギは容赦なく切り捨てる。

「戦って勝つだけじゃ、頼りにできるとは言えない。……俺に負けてるくらいだしな」


 その言葉は暗に、「戦いしか能がないのなら、俺に勝てなくては困る」という意思を突きつけていた。


「手厳しいな」

 ジンガは思わず苦笑した。


「俺はそれだけジンガを評価してるんだよ。じゃなきゃ、パーティなんか結成してない」

 ミササギは小さく息を吐き、淡々と告げる。


「……それは嬉しいけど、今はあんまり嬉しくないかもなぁ」

 ジンガは肩を竦め、苦笑を深めた。


 オルトリアには、そのやり取りが眩しく映った。

 友とはこういうものを言うのかもしれない、と胸の奥で呟く。


「……でも、伸び代はたくさんあるな」

 ミササギは視線を戻し、真剣な声音で続けた。

「俺の朝の鍛錬に同伴するなら、パーティメンバーとして欲しい。けど、それは勝利報酬に含まれてないんだろ?」


「……まあ、そうだな」

 ジンガは深く頷いた。


 《ミスリル》ランク以上の冒険者は、全体のわずか五パーセント。

 それでもミササギが「頼れない」と判断する可能性を、ジンガは全く考慮していなかった。


「私は、それでもいいぞ」

 オルトリアは静かに口を開いた。

 迷いを振り払うように真っすぐ前を見据える瞳には、むしろ期待と決意が宿っていた。


「ああ、でも……生活があるからな。

 さすがに貯金が底をつきそうになったら、その時は休ませてほしいのだが……」

 言葉の最後で、オルトリアはわずかに眉尻を下げた。

 強気に振る舞いながらも、現実的な不安を隠しきれないその表情は、真剣さとどこか不器用な人間らしさをにじませていた。


「いや、さすがにパーティメンバーだし、生活回りはこっちで持つよ。

 この屋敷にも、まだ空き部屋あるし」

 ジンガは肩の力を抜き、あっけらかんとした口調で言った。

 当然のように告げるその声音には、仲間として受け入れる意思が滲んでいた。


「……な、何だと?」

 オルトリアは思わず目を瞬かせ、姿勢を正したまま固まった。

 強者としての誇りを持つ彼女にとって、生活を支えられることを当然とされるのは予想外だった。


「ミレイはどう思う?」

 ジンガは、最後の同意を得るために視線を向けた。


「私はどっちでもいいかな〜」

 ミレイは両腕を軽く伸ばし、気楽な声音で言った。

 その調子は、オルトリアには関心が薄いように聞こえ、ミササギとジンガには仲間を受け入れる意思表示のように感じられた。


「それより、おチビちゃんたちはどうなの?」

 ミレイはレイラとクルス、そしてエリシアへと視線を巡らせる。


「わ、私もおチビ扱いですかっ!?」

 エリシアは思わず自分を指さして声を上げる。

 一方でレイラとクルスは、そもそもオルトリアを仲間に迎えることに特別な関心を示さなかった。


「えっと……私は、良いと思います」

 小さく息を整えてから、エリシアはしっかりと意思を示した。

 胸の奥で、そろそろ子ども扱いではなく大人として見てほしいと思いながら。


「じゃあ、決まりだねっ!」

 ミレイはぱんと手を叩き、弾む声で笑った。

「今日の夜は歓迎会にしよっか!」

 その言葉は、新たな仲間を心の底から祝福する響きを帯びていた。


 こうして、《ラウ・ファミリア》に新たなメンバーが加わった。

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