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ラウ・ファミリア ~正しさよりも、共にある温もりと優しさを~  作者: 言ノ悠
第二話 パーティの行末、そして日常
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「……奇っ怪な剣だな」

 ミササギが抜いた刀を見て、オルトリアは特異なものを目にしたかのように瞳を細めた。


 庭の中央、陽光を受けた芝の上に、二人は向かい合って立っていた。

 静けさの中で、互いの視線が鋭く交錯する。


「見たことがないのか?」

 ミササギは肩越しに軽く問いかける。

「……まあ、そうだよな」

 この世界の武器ではない、そんなことを口にする必要はなかった。


「その剣も業物だな」

 オルトリアが抜いた剣を一目見て、ミササギはすぐにそう断じた。


「ありがとう。ダンジョンで手に入れたのだ」

 彼女の手にあるのは、漆黒の両刃の長剣。

 迷路のように入り組んだ通路と階層、魔物と罠がひしめく危険地帯――人々がダンジョンと呼ぶ場所で、数多の死地を越えて得た戦利品だった。


「……ダンジョン、か」

 ミササギは小さく呟いた。

 これまで一度も足を踏み入れたことのない領域。

 その名だけは耳にしていたが、自らの戦いの舞台とするには縁遠い場所だった。


「オルファリオン王国にはダンジョンが存在しないからな」

 オルトリアが言葉を継ぐ。表情は落ち着いていたが、その声音には冒険者としての矜持が滲んでいた。

「もし遠出する機会があれば、行ってみても良いかもしれない。それなりに楽しいぞ」


「旅行するなら、ありかもしれないな」

 この先ずっと王国に留まり続けるつもりはない。そんな人生は息苦しく、退屈だ。

 ダンジョンに行ってみるのも悪くない。ミササギは、そう素直に思った。


「旅行……と呼べるほど、安全な旅にはならないと思うが」

 オルトリアがわずかに眉を寄せ、真剣な声音で応じた。


「あー……まあ、そうかもな」

 ミササギは肩をすくめ、どこか聞き流すように言う。


「そろそろ、始めようか」

 握る刀を軽く構え直し、切っ先をまっすぐにオルトリアへと向けた。


「ああ、待ち望んでいた」

 オルトリアも漆黒の剣を正面に掲げ、切っ先を彼に向ける。

 やがて、その視線は審判役を務めるジンガへと移った。


「じゃあ、始めるぞ」

 ジンガはどこからともなく銀貨を取り出した。

「今からこれを空に投げる。地面に落ちたらスタートだ」

 説明は簡潔だった。彼は銀貨を一瞥してから、そのまま空へ放る。


 銀貨が宙を舞った。

 陽光を反射しながら、きらりと光の軌跡を描く。

 視線は誰もがその一点に釘付けになり、刹那、時の流れすら遅くなったかのようだった。


 金属の小さな輪郭が地面に近づいていく。

 土とぶつかる寸前、空気の張り詰めた音が耳を刺した。


 ──カランッ。


 乾いた音が庭に響いた瞬間、緊張の糸が切れたように、二人の剣士が同時に踏み込んだ。


 空気が裂け、芝が抉れ、刃と刃が正面から激突する。

 耳をつんざく金属音が庭に響き渡り、火花が散った。


 刃と刃が噛み合い、二人の顔が至近に迫る。

 オルトリアは唇を噛みしめ、全身を込めて押し込む。

 対するミササギは、ただ静かに息を吐きながら、最小限の力でそれを受け止めていた。


「……っ、重い」

 オルトリアの瞳がわずかに揺れる。

 押しているはずなのに、押し返されている。

 力で負けているのではない。支点も体重移動も、すべてを読まれて封じられている――そんな錯覚が背筋を走った。


 次の瞬間。


 ミササギは押し返すのではなく、ふっと力を抜いた。

 重心を預けていたオルトリアの身体がわずかに前へ流れる。


「……っ!」

 体勢を崩したと悟った時には遅い。

 ミササギの刀がわずかに回転し、オルトリアの剣の軌道を外へ弾き飛ばした。


 ほんの一拍の隙。

 その刹那に、ミササギの刃は迷いなく彼女の喉元に迫っていた。


 オルトリアは崩れた勢いを殺さず、空いていた手を地面についた。

 身体をひねり、宙を回すようにして正面へと向き直る。

 無駄のない見事な動きだった。


 だが、それでも後手に回らざるを得なかった。

 ミササギの刃を辛うじて受け止めたものの、その一撃はあまりに重い。

 足元の土が抉れ、衝撃が全身を突き抜ける。オルトリアの身体は大きく後方へ弾き飛ばされた。


 空中でわずかに身をひねり、地面に叩きつけられる直前で肩を落として転がる。

 芝と土を蹴り散らして勢いを逃し、受け身を取りながら素早く片膝を立てた。

 荒い息を吐きつつも、その眼差しは揺らぐことなく、まっすぐにミササギを射抜いていた。


 その瞬間、庭の端で見守っていた《ラウ・ファミリア》の面々から、大きな拍手が巻き起こった。


(……大袈裟だ。彼はまだ本気ではないのに)


 片膝を立てていたオルトリアに、ミササギは追撃を仕掛けなかった。

 それはつまり、彼が明らかに手を抜いている証だった。

 だが、そのことに腹を立てるほど、彼女は己を見誤ってはいない。


(彼は間違いなく、私より強い)


 その事実を静かに呑み込み、オルトリアは深く息を吐くと再び立ち上がった。

 剣を握る手に力を込め、真っ直ぐにミササギへ駆け出していく。


 空気を裂くような踏み込みとともに、漆黒の剣が閃いた。

 ミササギも一歩も引かず、刀を横薙ぎに払う。


 鋼と鋼がぶつかり合い、甲高い金属音が庭に響き渡った。

 刃と刃が噛み合い、火花が散る。


(いい剣筋だな。……根が真面目なんだろう)

 ひと振りごとに受け止めながら、ミササギは彼女の積み重ねた鍛錬の重みを確かに感じ取っていた。


 刃が弾け、甲高い音が庭にこだまする。

 互いの腕に伝わる衝撃をものともせず、二人はすぐに次の一手へ移っていた。


 ミササギは踏み込みと同時に斬り下ろし、オルトリアはそれを受け流すように剣を滑らせる。

 受け流された勢いを逆に利用し、今度は彼女が鋭い突きを繰り出す。

 だが、ミササギは半歩だけ体をずらし、その突きを紙一重で外すと、返す刀で横薙ぎを放った。


 鋼と鋼が擦れ、火花が散る。

 だが次の瞬間、ミササギの刀がぐっと押し込まれた。

 力任せではない。角度と刃筋を巧みにずらし、ほんの一拍でオルトリアの剣を絡め取ったのだ。


「……っ!」

 抵抗する間もなく、オルトリアの手から長剣がはじき飛ばされる。


「……あっ」

 黒い刃は弧を描き、一直線に仲間たちのもとへ飛んでいった。


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