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ラウ・ファミリア ~正しさよりも、共にある温もりと優しさを~  作者: 言ノ悠
第二話 パーティの行末、そして日常
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「……あれ? ミササギ、いないな」

 ジンガが庭を見渡してぽつりと漏らした。


 ミササギは毎朝欠かさずに鍛錬を続けている。それは彼らにとって周知の事実だった。


「もう、朝早くないですからね」

 エリシアは空を見上げて言った。


「あー……寝過ごしたのか」

「そういうことですね。ちゃんと寝ないからですよ」

「うっ、根に持つなよ……」


「根に持ってなんかいません。ただ事実を言ってるだけです」

 エリシアはぷいと顔をそむけ、わざとらしく澄ました声を出した。


「……そ、そうだな」

 ジンガは言葉に詰まり、頭をかきながら苦笑するしかなかった。


「ふふっ」

 エリシアはその様子に小さく笑みをこぼし、隣に並んで歩を進める。


 石畳の小道を抜けると、足もとはやがて土に変わり、朝露を含んだ芝が靴を濡らした。

 庭の奥には花壇や木々が並び、鳥の声がひときわ鮮やかに響いている。


「……ん?」

 彼らが正門を横切ろうとしたときだった。


 門柱の影に、一人の女性が立っていた。

 金色に近い茶色の髪が朝の光を受けて揺れ、その存在感を際立たせている。

 腰には細身の長剣を帯び、柄に添えた手が、その技量の確かさを物語っていた。


「……話しかけてみますか?」

 エリシアが小声で切り出す。


「いや、何そのNPCイベントみたいなやつ……」

 ジンガが顔をしかめ、ぼそりと返した。


「え、えぬぴーしー……?」

 エリシアは首を傾げ、不思議そうに繰り返す。


「ああ、いや。こっちの話だ」

 ジンガは軽く手を振り、取り繕うように言った。

 ゲームの世界から迷い込んだと言えど、ここはゲームの世界ではないのだから。


「おい、そこの人っ! 俺たちに何の用だ?」

 そのまま距離を保ちながら、その女性に話しかけた。


 女性はゆっくりと顔を上げる。

 腰の剣に添えられていた手を下ろし、まっすぐに二人へ視線を向けた。


「私はオルトリア。剣聖の二つ名を持つ者だ」

 静かな声色で名乗りを上げる。


「……誰?」

 ジンガは片眉を上げて素っ気なく返した。


「えっと……すみません。わたしも、聞いたことがなくて……」

 エリシアも小さく頭を下げ、申し訳なさそうに付け加える。


「……し、知らないのか?」

 オルトリアの瞳が揺れた。

 世間では急速に名が広まっているはずの自分の二つ名が、目の前の二人には全く届いていない。その事実に、思わず声が裏返る。


「な、なんかごめん。……で、何の用?」

 ジンガは悪びれた様子もなく、首をかしげながら問い返した。


「ミササギ殿と剣を競いたいのだが、断られてしまってな……」

 オルトリアはわずかに肩を落としながらも、真剣な眼差しを崩さずに答えた。


「あー……ミササギは受けないだろうな」

 ジンガはあっさりと断じた。


「そうですね。私も、無意味に剣を振るイメージはないです」

 エリシアも同意し、小さく首を振った。


「剣に優れている者は皆、剣を愛しているものだと思っていた。だからこそ、私には分からない価値観だ」

 オルトリアは真剣な眼差しを向けながら言葉を続ける。

「……どうすれば、ミササギ殿は私と戦ってくれるだろうか」


「さあな。俺に聞かれても困る」

 ジンガは肩をすくめ、興味なさげに答えた。


「無理に望んでも、ミササギ様は応じないと思います」

 エリシアは少し困ったように微笑みながら首を振る。

「剣を交えるよりも、大事なものを優先する人ですから」


「……あ、いや」

 ジンガはふと顎に手を当て、考えるように視線を宙に泳がせる。

「もしかしたら、やってくれるかもしれないぞ」


「……どういうことだ?」

 オルトリアが身を乗り出し、真剣な瞳でジンガを見据える。


「冒険者のランクは?」

 ジンガは逆に問い返すように口を開いた。


「私は《ミスリル》だ」

 オルトリアはためらいなく答えた。

「剣を極めるために、ここまで辿り着いた」


 その言葉を頭の中で転がして、ジンガは自分たちに利を作ることができるか考える。


「俺の要望を飲めるなら、ミササギに取り次いでやってもいい」

 ジンガはわざと間を置き、探るような視線を投げかけた。

「……どうする?」


「……聞かせてくれ」

 オルトリアは息を詰め、短く答えた。


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