表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
ラウ・ファミリア ~正しさよりも、共にある温もりと優しさを~  作者: 言ノ悠
第二話 パーティの行末、そして日常
27/41

27

 石畳の庭を横切り、静かな玄関を抜ける。

 廊下は朝の光を取り込み、窓から差し込む陽が床板に帯を描いていた。

 足音を忍ばせて階段を上がり、扉を押し開ける。


「良かったの?」

 寝室に戻ってきたミササギに、ベッドの上で腰を下ろしたミレイが、下から覗き込むように問いかけた。


「いいんだよ。一緒に過ごせる時間も、そう多くはないんだから」

 ミササギはそう答え、彼女の隣に腰を下ろした。


「……ふたりきりって、あんまり無いよね」

 ミレイはそっとミササギの肩に頭を預ける。


 完全にふたりきりになれるのは、共に眠るときくらいだった。


「まあ、そうかもな」

 ミササギは彼女の肩にそっと腕を回した。


 互いの体温が伝わり合い、この時間が少しでも長く続くことを、心の底から願った。


「いつも、ありがとう」

 ミレイは彼に体を預けながら、はっきりと、けれどゆっくりと、噛みしめるように言葉を重ねた。


「俺も、いつも助かってる。ありがとう」

 その気持ちに差はなく、ミササギもまた彼女に体を預ける。


「ミササギ――陵がいるから、私はやっていける」


 それは能力の話ではない。

 この世を生きていく価値があるのかどうか――そういう話だった。


「ミレイ――美玲は、俺がいなくてもやっていけるだろ」


 ミレイの真意に気づきながらも、ミササギはそう口にした。

 自分が愛する相手が、自分ありきの存在でないことを、彼自身が誰よりも理解していたからだ。


「そういうこと、言わないでよ」

 ミレイは、気がついたときには泣きそうになっていた。


「良くない冗談だったな。悪い」

 ミササギは、真面目にもぶっきらぼうにも聞こえる声で、そう言った。


「居なくならないでよ」

「居なくならないよ」

 何があったとしても、ミレイと一緒にいる。共に在りたいと思う。その心だけは本物で、それ以外はむしろ偽物にすら置き換わってしまう。そんな熱がここにはあった。


「ねえ、陵?」


「んー?」


「私のこと、抱いてよ」


「もちろん、いいよ」


 ミササギは静かに身体を寄せ、ミレイを強く抱きしめた。ふたりは寝具に身体を沈め、互いの温もりを確かめ合う。

 寝具の中に広がる温もりは、言葉よりも雄弁に二人の距離を埋めていった。

 窓の外で朝の光がゆっくりと差し込み、室内は柔らかな静寂に包まれていった。




「──ガ様っ! ジンガ様っ!」

 遠くから響く声が、ジンガの意識を強制的に引き戻した。


「……んっ?」

 寝ぼけ眼のまま、声の主へと視線を向ける。


「ジンガ様っ! 眠るなら、ちゃんと寝室で休んでください!

 こんなところで横になっていたら、お身体に悪いですよ!」


 声の主はエリシアだった。

 彼女はとても心配そうに、真っ直ぐこちらを見つめながら言った。


「……あぁ、ごめん」

 ジンガは周囲を見回し、自分が研究室で眠り込んでいたことを悟った。


 壁際には大きな槽が据えられている。

 透明な溶媒液に浸された子供の姿がそこにあり、かろうじて小さな胸が上下しているのが見て取れた。


「私やアストレイさんには『ちゃんと寝ろ』って言ったのに……自分はこんな雑なところで寝るんですか?」

 エリシアは眉をひそめ、責めるというより呆れたような声を投げた。


「ほんと……ごめんて。俺だって寝室で、ゆっくり寝たかったんだけどな」

 ジンガは苦笑して頭をかきながら答えた。


「……寝直しますか?」

 エリシアは不安げに問いかけながら、ちらりと部屋の外へ視線を向けた。


「いや、もう朝だし、起きるよ」

ジンガは軽く頭を掻き、苦笑まじりにそう答える。そのまま腰を上げて立ち上がった。


「他の方もまだ起きていないので……おそらく、問題はないかと」

 遠慮がちに続けたエリシアの声音には、心配が隠しきれなかった。


「ミササギは起きてるだろ?」

 ジンガは肩を竦める。

 彼が毎日かかさずに鍛錬を続けていることは、誰もが知っている事実だった。


「そういえば……ミササギ様、見てないですね」

 エリシアは小首を傾げ、少し意外そうに呟いた。


「まあ、どうせ庭で木刀でも振ってるんだろ」

 ジンガは気にも留めず、軽く肩をすくめる。


「それより、教えた術式はもう使えるようになったか?」

 続けて、話題を切り替えるように問いかけた。


「はい。特に問題はないと思います」

 エリシアは小さく頷き、どこか誇らしげな笑みを浮かべた。


「お、いいじゃん。頑張ってるな」

 ジンガが軽く笑うと、エリシアの頬がほんのり赤く染まった。


「今日一日は、教えた術式を色々と組み合わせてみな」

 ジンガは軽い口調で言いながらも、その眼差しは真剣だった。


「はい、やってみます!」

 エリシアは力強く頷き、ぱっと顔を明るくした。


「俺はちょっと庭に出てくる。眠気覚ましに」

 ジンガは肩を回し、軽く伸びをする。外に向かって足を向けた。


「私も行きますっ」

 エリシアは勢いよく立ち上がり、ジンガの後を追った。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ