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「え、嫌だ。興味ない」
即答だった。
ミササギにとっては、わざわざ考えるまでもない問いだったのだ。
「……断るのか?」
オルトリアの瞳がわずかに揺れる。
まさか拒絶されるとは思わなかったのだろう。
意外そうに目を瞬かせる。
「暇じゃないんでな。勝手にやってろ」
ミササギは視線を逸らし、まるで興味を持つ価値すらないとばかりに言い捨てた。
「そう言わずに応じてほしい」
オルトリアは一歩前に出る。
その声音には苛立ちではなく、真剣な願いが宿っていた。
「私は剣を極めたい。そのためには、強き者との交わりが不可欠なのだ」
「悪いな。それでもやる気はない」
ミササギにとって、相手にならぬ相手と剣を交えることに意味はなかった。
必要性を感じなかったのだ。
「……それほど自信があるのか?」
オルトリアの口元に、わずかな笑みが浮かんだ。
「自分の方が格上だから、私と刃を交えるまでもない――そう言いたいのだろう?」
挑発めいた言葉。だがその眼差しは冗談ではなく、本気の色を帯びていた。
「んー……まあ、無いとは言わないが」
ミササギは肩を竦め、気のない調子で答えた。
「この後は大切な人と、大切な時間を過ごす予定なんだ。
だからやる気はないし、そんなことに暇を割くくらいなら、その時間を少しでも増やしたいんだ」
そう言って、ミササギはふと自嘲した。
昔の自分なら、脅して圧倒して叩き潰して、相手を傷つけることに躊躇しなかっただろう。
その断言に、オルトリアはしばし言葉を失う。
やがて肩を落とし、深いため息をついた。
「……まったく、剣聖として名を得てから初めてだな。そんな理由で断られるとは」
呆れ半分、諦め半分の声音だった。
だがその瞳の奥には、なお消えぬ興味の色が残っている。
「お前も人を愛したらわかるよ」
一日二十四時間。
八時間は眠り、八時間は仕事に費やす。
どれだけ頑張っても、大切な人と一緒にいられるのは残りの八時間だけだ。
つまり、どれだけ努力しても人生の三分の一も時間を割いてやれやしない──それを知っているからこそ、ミササギは無駄にそれを減らすようなことはしたくない。できることなら、もっと大切な人と一緒に居る時間を増やしたいのだ。
「私にとって、それは剣だからな」
オルトリアの声音には、一片の迷いもなかった。
彼女にとって剣を握る時間こそが、生きる意味であり愛するものだった。
「そっか。ならそれは勝手にやれ。俺を巻き込むな」
もう話す時間すら惜しいとばかりに、ミササギはオルトリアに背を向けた。
オルトリアは言葉を返せなかった。
唇がわずかに動いたが、声にはならず、その背中をただ黙って見送るしかなかった。




