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ラウ・ファミリア ~正しさよりも、共にある温もりと優しさを~  作者: 言ノ悠
第二話 パーティの行末、そして日常
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 翌朝のことだった。

 朝の鍛錬に励んでいたミササギは、研ぎ澄まされた五感によって、屋敷の外から近づいてくる気配をいち早く察知していた。


 だが自ら出迎えるつもりはない。

 強引に迫るなら叩き伏せて帰らせるし、そうでないなら無視を決め込むつもりだった。


 まだ日課の鍛錬は半分も終わっていない。

 理由をつけてサボれば、たちまち自分は衰える――そんな感覚が常に胸の奥にあった。

 ミササギにとって衰えることは、大切な者を守る力を失うことと同義。

 その恐怖こそが、彼を今日も突き動かしていた。


 手にしているのは、ジンガお手製の素振り用の木刀だ。

 重心が先端に寄っており、体重移動を誤れば身体ごと持っていかれるほどの代物である。


 そんな枷を背負いながら、ミササギは最強の自分を思い描く。

 目の前にいると信じ込む――俗世で言えばシャドーボクシングに近いものだろう。


 幻の「影のミササギ」が、全力で一刀を振り抜く。

 実際のミササギは最小限の動きでそれをかわし、振り切った刃の隙に反撃を叩き込むイメージを重ねていく。


 だが「影のミササギ」は最強の自分だ。

 重心の偏った木刀では、一刀を受け流すことすら難しい。

 安易に振れば、その刃は実のミササギを十度は斬り伏せるだろう。


 この鍛錬こそが、ミササギが最強たる所以である。

 彼自身が描く最強の自分――それを超える敵に、ミササギは生涯出会ったことがない。


(相変わらず……厄介だな)


 実のミササギが「影のミササギ」を斬り伏せるには、最強の自分を超えるしかない。

 そして毎日の鍛錬で、必ず一度はその最強を塗り替える。

 それが彼の日課だった。


「……よし」

 やがて彼は小さく息を吐いた。

 今日も「影の自分」を斬り伏せることができたからだ。


(まだいるのか……)

 それなりに長い時間をかけて鍛錬をしたつもりだった。

 気配のする方角へと視線を向ける。鍛錬に没頭していた自覚があるからこそ、まだ気配が残っていることに驚きを覚えた。


(しかも、数がふたつ。……何の用だ?)


 木刀を腰に下げ直すと、ミササギは足を門へと向けた。

 屋敷の敷地を囲む石壁の影を抜け、外へと繋がる門が視界に入る。

 鍛錬の余韻を引きずったまま歩むその足取りは重くはないが、気配の正体を測ろうとする分だけ慎重だった。


「何の用だ?」

 門の外に立つ気配の影を捉え、ミササギは距離を取ったまま低く声を掛けた。


 やがて石畳の先から、一人の男が姿を現す。

 その身に纏うのは王国騎士団長の外套。威厳を帯びた風貌は、彼がただの来訪者ではないことを物語っていた。


「騎士団長サマじゃないか。早朝からどうしたんだ?」

 ミササギはその姿を視界に収めるなり、肩を竦めて飄々とした口調で問いかけた。


「どうもこうもないだろう。依頼達成の報酬を渡しに来たのだ」

 騎士団長はそう言いながら、訝しげな視線をミササギに向けてきた。


「……達成報告をしたのは昨日だろ?

 現場――オルガウスト辺境都市の状況は確認したのか?」


 今度はミササギが訝しげな視線を返す番だった。

 なぜなら、この王都からわずか一日で辺境都市に往復できるような手段は、このオルファリオン王国には存在しないはずだからだ。


「それは貴殿らへの信頼と信用の証だ。……それに、もし敵対すれば国が滅ぶ」


「俺がいるから?」


「それはそうだが……いや、これ以上は言うまい」


 騎士団長の胸中には、《ブラック》ランクであるミササギだけでなく、ジンガやミレイに対する懸念もあった。

 だが、あえて口にする必要はないと判断し、言葉を呑み込んだ。


「──その、良いだろうか?」


 騎士団長の後ろから、ひとりの女が姿を現した。

 ミササギよりも背が高く、腰には長剣を携えている。


 突然の登場ではあったが、その存在にはすでに気づいていた。

 ゆえにミササギは驚きもせず、ただ静かに視線を向けるだけだった。


「彼女は騎士団長サマの連れか?」

 女の言葉を無視し、騎士団長へと視線を戻す。


「残念ながら、我らには関係ない。有名人だから知ってはいるがな」


「ほん、有名人……ね」


 会話が途切れたのを見計らい、騎士団長は腰の革袋に手を伸ばした。

 じゃらり、と小さな金属音が響く。


「報酬を渡せば、私の役目は終わりだ」


 距離を詰めることなく袋を地面に置き、視線だけで合図を送る。

 受け取るかどうかはお前次第――そう告げるように。


 ミササギはわずかに頷き、袋を拾い上げた。

 その仕草を確認すると、騎士団長は背を向け、無言のまま歩き去っていく。


 石畳を叩く靴音が次第に遠のき、やがて門前には、ミササギと女だけが残された。


「……んで、お前は誰?」

 この距離で黙っているわけにもいかず、ミササギは不躾な問いを投げた。


「私はオルトリア。最近は『剣聖』の二つ名で呼ばれている者だ」

 女は微動だにせず、静かに名乗りを上げる。


「ミササギ殿の腕が素晴らしいと巷で聞き及んでいる。

 ぜひ一度、手合わせ願えないだろうか?」


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