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ラウ・ファミリア ~正しさよりも、共にある温もりと優しさを~  作者: 言ノ悠
第一話 パーティ結成、そして事件発生
23/41

23-日記

 私――エリシアは、久しぶりに日記に手を伸ばした。

 この日記は、ミレイさんが毎日書いているのを見て、真似して始めたものだ。


 王都から辺境都市までの道のりは、おおよそ七日間。

 そのあいだに盗賊に襲われたり、野獣に出くわしたりして、馬車は何度も止まった。

 けれどジンガ様もミササギ様も、あっという間に敵を叩きのめしてしまう。


 ジンガ様は普段、無闇に命を奪わない。

 でも盗賊は、放っておけば別の人の命を奪う。だからこそ、ミササギ様が切り捨てるのを止めなかったんだと思う。


 ジンガ様の術式は、人のものよりもずっと鮮やかに見える。

 私が知っている魔術師なんて比べものにならないくらい、多彩で、速くて。


 ……すごいなぁ。


 日記なのに、それ以上の言葉が出てこない。

 こうして書いていると、やっぱり私は子供っぽいんだと思う。だから、ジンガ様に好意を受け流されるんだろうな。


 ジンガ様と出会ってから二年。

 背だって少しは伸びたはずなのに、それでも振り向いてはくれない。


 辺境都市に着いたとき、私たちは馬車でお留守番になった。

 本当は一緒に行きたかったのに、「待っていろ」と言われてしまった。


「どうしたの? むすっとして」


 馬車で大人しくしていたら、ミレイさんにそう言われた。怒ってはいないんだけど……落胆はあった。


「……怒ってないです」


 もっと上手い言い方があったはず。


「誰もエリシアが怒ってるなんて言ってないよ? ……さては、怒ってるな?」


 こう言われた時、あ、言い方を間違えたって思った。


「怒ってないです。ごめんなさい。そうじゃないんです」


 これ以上、空気を悪くしたくなかった。


「どうどう、そんなに焦らない」


 でも、ミレイさんは落ち着いたままだった。焦っていたのは私だけ。


「なんか、色々と難しいなって思ったんです」

「へえ?」

「振り向いて貰えないし」

「あーね」


 ミレイさんはそれ以上、何も言わなかった。今思えば、面倒に感じたんだと思う。


「私は、諦めずにアタックし続けることをオススメするけどね」


 ……諦めずに、か。


 それからはクルスやレイラと喋って、気がつけば夕暮れ時になっていた。


「あ、帰ってきたみたい」

 ミレイさんの声に外を見る。


「な、な、なんで……」

 私は愕然とした。ジンガ様が、とても美しい女性を連れていたから。


「これは……ライバル登場?」

 なんでミレイさんは、いつも焦らせることばかり言うんだろう!


 話を聞いてみると、アストレイという女性にその気はないとわかって、安心した。

 でも、二人きりにしてはいけないと思った。


 抱えていたボロボロの幼子のこともあるし、ジンガ様に聞きたいこともたくさんあった。


 詳細は屋敷に帰ってから、と言われた。


 長い旅を終えて王都に戻ると、ミササギ様のいない円卓で、ジンガ様はアストレイの素性や、ツギハギだらけの子供の話をしてくれた。


 アストレイがたくさんの人を殺してきたと知って、私は嫌悪感を覚えた。

 でも同時に、ジンガ様が彼女を処刑しなかった理由も少しはわかった。


 アストレイは優秀な魔術師。だからこそ、ジンガ様は「殺すだけ無駄」と考えているのかもしれない。

 二人で旅をしていた時、ジンガ様は「殺して終わりは優しくない」って言っていたから。


 ジンガ様が書斎──自室に引きこもろうとしているのは、すぐにわかった。

 だから私は、もっと一緒に時間を過ごしたくて、思い切って言った。


「私も、お手伝いしたいです!」


 そんなことを言われるなんて、ジンガ様は思っていなかったんだと思う。

 ちょっと驚いた顔をしていたから。


「わかった。──けど、今のエリシアは俺の力にはなれない」


 そう言われた瞬間、胸がぎゅっと締めつけられるように痛んだ。

 いつものジンガ様なら、厳しいことなんてほとんど言わない。

 促してくれることはあっても、人を傷つけるような正論は口にしない。

 だからこそ、その言葉は強く胸に刺さった。


 ……けれど同時に、私のことをちゃんと見てくれているんだとも思った。


「だから、色々と教えるよ」


 その言葉を聞いたとき、胸の痛みがすっと和らいだ。

 厳しいだけじゃなく、ちゃんと希望をくれる。


「……それでもいいか?」

「はいっ!」

 一瞬の迷いもなく、私は答えていた。


 今日はクルスが抱えていた子供を受け取り、ジンガ様の自室まで運んだ。

 それでおしまい。特にそれ以上することはなかった。


 今は自分の部屋で、こうして日記を書いている。普段は一日に一行くらいしか書かないけど、日記を置いていったから今日はたくさん書けた。


 うん、満足。

 やっぱり私は、ジンガ様のことが好き。


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― 新着の感想 ―
拝読しました。 仲間たちの出会いと掛け合いの温かさ、戦場での緊張感や圧巻の戦闘描写、そして黒結晶を巡る謎やアストレイとの対峙など、壮大な流れの中に人間らしい弱さと優しさが丁寧に描かれていて、夢中で読…
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