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ラウ・ファミリア ~正しさよりも、共にある温もりと優しさを~  作者: 言ノ悠
第一話 パーティ結成、そして事件発生
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 幾度もの夜と朝を越え、ようやく馬車は王都の城門へとたどり着いた。

 高くそびえる石壁の影の下では、人の往来と商人の声が絶え間なく響いている。静まり返った辺境の道とは対照的に、そこには活気が満ちていた。

 門番が手短に合図を送り、馬車はゆっくりと城門をくぐる。街並みが視界に広がり、石畳を行き交う人々のざわめきが車内に流れ込んできた。


 御者が手綱を操り、馬車は人波を抜けて大通りを進む。

 目指すのは、彼らが暮らす屋敷――数日前に旅立ったその場所へ、再び戻っていく。


 やがて、馬車は屋敷の前で止まった。

 全員が降りたのを確認してから、ジンガは御者を務めた若い男に成功報酬を手渡す。


 金貨二十枚。

 普通の生活ならば、一枚で三ヶ月は暮らせるだけの価値がある。むしろお釣りが出るくらいだ。


「今回も助かったよ。ありがとう」

「毎度ありっ! 次回もご贔屓にっ!」


 この若い御者は冒険者ギルドを通じて雇っただけの人物で、ジンガは名すら知らない。

 関係は依頼人と請負人。それ以上でも、それ以下でもなかった。


 御者の男が馬車を操り、屋敷の前から去っていくのを見届けると、ジンガは先に屋敷へ戻った仲間たちに視線を向けた。


 今の彼が考えるべきはただひとつ――アストレイという犯罪者を、どうやって屋敷に匿うことを皆に認めさせるか。


 彼女が殺してきた数、贄にしてきた数。

 ジンガも実際に目にしたわけではない。

 だが、一つの街がまるごと空になるほどの所業を繰り返してきたのだ。想像を絶するほどに多いことは疑いようがなかった。


 ミササギは「好きにすればいい」とだけ言い残し、依頼達成の報告のため冒険者ギルドへ向かった。


 残されたのは他の仲間たち――。


「ジンガが良いと思ったんなら、それでいいんじゃない?」

 アストレイを匿う理由を長々と説明した直後、真っ先に返ってきたのはミレイの飄々とした声だった。


 屋敷の広間、円卓を囲んで全員が顔を揃えている。まだ年端もいかないクルスやレイラも同席する中で、ミレイは本当に何も気にしていないような表情を浮かべていた。


「えっと……」

 逆に戸惑ったのはジンガの方だった。


「ジンガ様が突飛なことを言うのはいつものことですし、それで良い方向に回ることが多いので、私は尊重します」

 エリシアがそう言って、ジンガの背を押すように微笑んだ。


「それよりさ、そのボロボロな子を治すには何をすればいいのか、そっちを考えた方がいいと思うけど」

 ミレイは変わらない声色で言いながら、今はクルスの腕に抱かれている子供へと視線を向けた。痩せ細った体はボロ雑巾のように頼りなく、息があるのが不思議なくらいだった。


「正直、帰りの途中で死んじゃうと思ってたんだけど……。まだ生きてるのって、どういう仕組みなの?」

 ミレイからすれば、その子供が生きている事実の方が、道理から外れているように思えた。


「それは俺も詳しくは知らないんだけど……キメラ、なんだろ?」

 ジンガはそう答えながら、円卓の隅に立たされていたアストレイへ視線を向けた。


 突然話を振られ、アストレイは肩をわずかに震わせた。

 しばし視線を泳がせてから、絞り出すように口を開く。


「……あれは、生命力を無理やり繋ぎ止めているだけです。

 本来なら、とっくに死んでいるはずで……それを無理に延命させている」


 言葉を紡ぐ声はか細く、どこか罪悪感を含んでいた。

 彼女自身、その仕組みを語ることに気まずさを隠しきれないようだった。


「日本……地球じゃ、考えられない技術だよね」

 ミレイは理解できないという表情を浮かべ、隠そうともしなかった。


 その感覚は、ジンガも同じだった。

 ゲームの世界から迷い込み、かつてアバターが振るっていた力を今は自分の身で自在に扱える――その現実の異様さに、未だ完全には慣れきれていなかった。


「でも、その子を何とかできると思ってる?」

「……まあ、できるところまでやってみようかなって。さすがに見捨てるわけにもいかなくて」


 ジンガの言葉は軽く聞こえたが、その声音に迷いはなかった。

 明日からは王都の図書館や、自分のために用意された書斎――研究室に籠りきりになるだろう。


「アストレイにも色々教わりながら、今の俺にできることを全部やってみて……まあ、上手くいけば助けてやれる」

「相変わらず、確実性がないことを地でいこうとするよね」

「それがなりたい自分だからさ。……まあ、諦めてくれ」

「いいんじゃない、別に。私は嫌いじゃないよ」


 その口ぶりは軽いが、裏を返せば“好きでもない”ということだ。


「あ、あのっ!」

 エリシアが勢いよく声を上げ、ぴんと手を伸ばした。ふたりの会話に割って入るためだ。


「どうした?」

 ジンガが視線を向けると、そこに立つ少女はほんのわずかに躊躇いを見せていた。


 けれども、口にした言葉は力強かった。

「私も、お手伝いしたいです!」


 その様子を見て、ミレイは面白そうなものを見つけたとでも言うように目を細め、その視線をそのままジンガへと滑らせた。

 暗に「どうするの?」と問いかけている。


「わかった。──けど、今のエリシアは俺の力にはなれない」

 少女の純粋な申し出を、ジンガは冷徹に否定した。


 エリシアには、魔術を人並み以上に扱える技量もなければ、術式への深い理解も知識もないからだ。


 エリシアは肩を落とし、わかりやすく沈んでいた。


「だから、色々と教えるよ」


 その言葉に、はっとして顔を上げる。


「……それでもいいか?」


「はいっ!」

 一瞬の迷いもなく、エリシアは力強く答えた。


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