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茜に染まる空は、すでに夜の気配を含み始めている。
街門を抜けると、斜陽を遮り影を落とす馬車の姿が目に入った。ジンガは迷いなく足を進め、ミササギとアストレイもその後に続く。
「おかえりぃ。また黒い服の人が増えるんだね」
馬車の中から顔を出したミレイが、おどけたように声をかける。ジンガもミササギも漆黒の装備に身を包んでおり、そこへアストレイの黒いローブが加われば、そう言いたくなるのも無理はなかった。
その後すぐに、ミレイの視線はジンガの腕に抱かれた子供へと移った。
「その子は……連れ帰ってきたってことは、生きてるんだよね?」
問いかけと同時に、馬車で大人しく待っていたレイラとエリシア、クルスの視線が一斉にジンガへ注がれる。御者の男までもが、その小さな体に釘付けになっていた。
「一応な。生きているようには見えないだろうけど」
ジンガは肩を竦めて答えた。抱きかかえた子供の顔は青白く、縫合痕の残る頬は痩せ細っている。胸のわずかな上下だけが、生をつなぐ証だった。
「……あの、その……受け取りますか?」
馬車の前に立つジンガに、手が塞がったままでは乗り込みにくいだろうと察したエリシアが、両手を差し出した。
「お願いしてもいいか?」
「はい、もちろんです」
エリシアは子供を受け取り、その軽さに思わず目を見張る。小枝のように細い体に驚きが滲んだが、すぐに表情を引き締めた。
「……で、こっちがアストレイ。詳細は帰ってから話す」
ジンガは簡潔に新顔を紹介し、そのまま馬車に乗り込む。
「乗ってくれ」
ミササギが短く促すと、アストレイは戸惑いながらも恐る恐る馬車へ足を踏み入れた。
全員が揃ったのを確かめ、ミササギも静かに後へ続いた。
「御者さんっ! 帰りもお願いしますっ!」
クルスが元気よく声を張り上げる。
「あいよっ!」
御者が軽く手綱を鳴らすと、馬がいななき、馬車はきしむ音を立ててゆっくりと動き出した。
揺れる車体が石畳から土の馬車道へと乗り移り、足もとに広がる振動が一段と荒くなる。夕闇が迫る道に、車輪の音と馬の蹄の響きだけが重なっていった。
王都からオルガウスト辺境都市までは、馬車で走り続けても一週間はかかる。その長さは行きの道のりで嫌というほど思い知っていた。だから帰りもまた、それなりの時間を要することはわかっていた。
だが、道のりは行きよりも静かだった。野獣に襲われることもなく、盗賊に絡まれることもない。馬車は最小限の停車だけを挟み、夜を抜け、朝を越え、再び夕暮れを迎えながら、ひたすら王都を目指した。
空の色が何度も変わり、陽が昇っては沈むたびに、彼らの帰路は確実に縮まっていった。




