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ラウ・ファミリア ~正しさよりも、共にある温もりと優しさを~  作者: 言ノ悠
第一話 パーティ結成、そして事件発生
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「結局、この子だけだったな」

 建物を後にしたミササギが、短くそう告げた。


「そうらしいな。……アストレイが本当に危険な人間だって、今さら実感してきたよ」

 ジンガの腕に抱かれているのは、かろうじて息を繋ぐ幼い体。

 その他に、生命の気配は感じられなかった。


「……」

 冷たい風に頬をなぶられながら、アストレイはその光景に視線を落とす。

 小さく震える肩は、外気のせいか、それとも別の理由か。


「……じゃあ、証拠隠滅する」

 ジンガは念のためにミササギへ視線を送った。実戦経験では、彼の方がはるかに上だ。


「構わんさ。国からすればたまったものじゃないだろうがな」

 腕を組んだまま、ミササギが小さく頷いた。


「――《ロックオン・エリア・エクスプロージョン・エクステンシブ》」

 低く、普段より長い詠唱とともに空気が張り詰める。


 次の瞬間、眩い閃光が敷地全体を覆い尽くした。

 轟音が大地を揺さぶり、衝撃波が砂塵と熱風を巻き上げる。

 稲妻のような光条が地面を奔り、赤熱が一瞬で広がった。


「――っ!」

 アストレイは思わず目を覆い、喉の奥からかすかな悲鳴が漏れた。

 閃光と轟音の余韻が耳を打ち続け、全身が強張ったまま呼吸が浅くなる。

 次の瞬間、膝から力が抜け、その場に尻もちをついた。


 震える視線の先で、建物は影も形もなく消え失せていた。

 黒煙を噴き上げる巨大なクレーターだけが残り、その異様な光景に彼女の肩は止めどなく震え続けた。


 自然とジンガに視線が向いたとき、胸の奥を冷たいものが締め付けた。

 ――こんな力を持つ人間が隣にいる。

 恐怖は、廃墟ではなく彼自身へと向かいつつあった。


「じゃあ、付いてこい。逃げるなよ?」

 ジンガがそう言って歩き出す。ミササギも後に続き、街の外で待つ仲間のもとへ帰ろうとする。


 だがアストレイはその場から動けなかった。

 恐怖で足に力が入らず、膝が地面に崩れ落ちる。震える手で地面を押さえ、体を支えるのがやっとで、とても立ち上がれる状態ではない。


「ま……待ってっ!」

 縋るような声が、砂塵に揺れて消えた。


 ジンガが足を止めて振り返ると、アストレイの表情が目に入った。

 恐怖に押し潰され、今にも泣き出しそうな顔をしている。


「……どうしたんだ?」

 ジンガには、その表情の意味がまるで理解できなかった。なぜそんな顔をするのか、本気で分からなかった。


「あー……お前さ、怖がられてんだよ」

 ミササギは片手で眉間を押さえ、深くため息をつく。

「普通の人間はな、大都市で一番大きな建物を、しかも一撃で吹き飛ばす奴を……恐ろしく思うもんなんだよ」


「……エリシアは怖がらないけどな」

 ジンガの素直すぎる一言に、ミササギはさらに頭を抱え込むしかなかった。


「急に惚気るな」

 呆れを隠さず吐き捨てると、ジンガは思わず声を荒げる。


「普段からイチャついてるお前らに言われたくねえ!」

 向きになった調子に、ミササギは片眉をひそめ、アストレイは目を瞬かせて二人を見比べていた。


「そんなに彼女欲しいなら、気持ちに応えてやれよ」

「んぐっ……」

 図星を突かれたジンガは言葉に詰まり、顔を背けるしかなかった。


 横でそのやり取りを見ていたアストレイは、恐怖も忘れたように口を半開きにしていた。

「……なにを、してるの?」

 ぽかんとした声が、砂塵の中に響いた。


「もう立てるだろ。行くぞ、お前もだ」

 ミササギが短く言い放ち、アストレイに視線を向ける。

 声音は淡々としていたが、待つ気はないと告げていた。


 アストレイは唇を噛み、震える手を地面についてどうにか身を起こす。足はまだ力が入らず、よろめきながらも二人の後を追うしかなかった。


 日の光は既に傾いていた。

 この街に着いたときはまだ高かったなと、ジンガは思う。


 彼とミササギの──その後ろに、アストレイの足音が鳴っていることを意識しながら、静まり返った街を進んだ。

 綺麗に整えられている石畳を歩く。

 人の気配はないが、落ち葉も塵もなく、異様なほど清潔さが保たれている。それらはやはり、二度目である光景でも、とても異常な空間に感じられた。


「アストレイ、この街の住民はまだ生きているのか?」

 ふと気になって、ジンガは背後の危険人物に問いかける。


「知らない」

 返ってきた声は硬質だった。


「この街がこんなに静まり返ってるのは、直接的にも間接的にも、君の実験は全く関係ないのか?」

 その言葉は、声色は柔らかいが、彼女の首元に刃を突きつけているようだった。


「……知らないわ」

 生唾をのみ、首を横に振る。


「知らないでは済まないだろ」

「私の知ったことではないわ」

 アストレイは敗北し、従わされている身である。

 最初から最後まで、街の行く末に興味はない。持てるはずがない。ただの大きな実験場だとしか思っていなかったのだから。


「……何人攫った?」

「数え切れないほど」

「……そうか」


「私を連れて帰るのは、やっぱりおすすめしないわ」

「知ってるよ」


 何を今さら――ジンガはそう思った。


「この街の復興は国の仕事だ。……俺の知ったことじゃない」

 見て見ぬふりが優しさではない。だが、無理に介入することもまた優しさではない。

 それでも行く末を気にかけてしまうのは、きっと自分の性分なのだろう。


 その性分を押し殺してでも、ジンガはこの件に手を出すつもりはなかった。


 やがて一行は街を抜け、城門を出る。

 そこには、王都から連れてきた従者と馬車が待っていた。


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