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ラウ・ファミリア ~正しさよりも、共にある温もりと優しさを~  作者: 言ノ悠
第一話 パーティ結成、そして事件発生
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「ジンガ、実は生存者がいるんだ」

 ミササギはふと思い出したように言った。


「生存者?」

 ジンガが眉をひそめる。


「実験に使われた人間だ。まだ息がある」

 淡々と告げられた言葉に、アストレイの肩が小さく震えた。


「……っ」

 鎖が鳴り、彼女の瞳に一瞬だけ影が走る。


「案内できるか?」

 ジンガの問いに、ミササギは短く頷いた。

「ここからそう遠くはない。見ておくべきだと思う」


 ジンガは小さく息を吐き、アストレイを見やった。

「……行こう」


「こいつだ」

 積み重なった骸の中から、ミササギはまだ心臓の鼓動が残る者を引きずり出した。


「……惨いな。他の死骸も、人の形を留めていない」

 ジンガはわかりやすく顔を顰めた。


「殺したいと思った?」

 アストレイは鎖に縛られたまま、じっとジンガに視線を向ける。


「そうやって問い掛けてくるのが鬱陶しいな」

 ジンガは肩をすくめ、溜息を吐いた。

「説教の一つでもしてやりたくなる」


「こいつも助けるつもりか?」

 ミササギの瞳にはやめておけという意思があった。

「生きながらえても、この体では人として生きていけない。殺してやるのも優しさだ」


 引きずり出された身体は、骸の山から崩れ落ちるように床へと横たわった。

 皮膚は裂けて黒ずみ、ところどころから結晶の破片のようなものが突き出している。

 関節は不自然にねじれ、腕も脚も本来の形を留めていなかった。

 それでも胸はわずかに上下し、かろうじて心臓の鼓動が命を繋いでいる。


 虚ろな瞳は半ば開かれたまま宙をさまよい、声を発することもできず、唇だけがかすかに震えていた。

 掘り起こされたその姿は、生かされるためではなく弄ばれるために繋ぎ止められた命だった。


「うーん……それはあるよなぁ」

 ジンガは顎に手を当て、ほんの一瞬だけ考える素振りを見せたが、すぐに首を横に振った。


「でも、だからって俺には殺せない。生きている限り、まだ選ぶことはできるだろ」

 そう言い切ると、迷いなくその身体を抱き上げる。

 温もりと重みが、まだ命が繋がっていることをはっきりと伝えていた。


「……アストレイにこれ以上の悪事をさせなければ、依頼は果たしたも同然だな」


 今回の王国騎士団からの依頼は三つあった。

 一つ、黒結晶の正体を突き止めること。

 二つ、魔法陣の出所と術者を割り出すこと。

 三つ、同じ被害が再び出ぬよう、原因を排除すること。


「……まあ、そうだな。殺せとは言われてないし」

 ミササギは短く応じた。


「めちゃくちゃ破格の依頼なのに、楽勝だったな」

 ジンガは肩の力を抜いて言った。


「普通は殺すしかないんだよ。……はあ、さすがだよほんとに」

 ミササギは小さく息を吐き、呆れ半分にジンガを見やった。


「……私が裏切るかもしれない」

 解放された身を抱え込むようにして、アストレイはうつむいたまま呟いた。


「その時は俺が殺す」

 ミササギは迷いなく断言する。


「いや、流石に俺がやるよ」

 ジンガは静かに言った。

 自分の優しさが甘さと紙一重であることを、彼は理解している。

 もしも失敗したら、その代償は自分で払うべきだ。


「……ま、そんなことを今論じても意味はないか」

 ジンガは気持ちを切り替えるように息を吐いた。

「アストレイ。君が使っていた資料がどこにあるのか教えてくれ」


「あ、そう……よね。案内するわ」

 アストレイは小さく頷き、視線を伏せた。


 彼女の案内で、彼らは部屋を後にした。

 ジンガは担いだ生存者の重みを確かめながら、廊下へと出る。


「うっわ、部屋が多いなぁ……」

 外に出たジンガが思わず呟いた。


 廊下には無数の扉が沈黙を保って並び、鉄と薬品の匂いが濃く漂っている。

 アストレイはためらいがちに歩を進め、やがて一枚の扉の前で立ち止まった。


 取っ手に手をかけ、振り返る。

「……ここよ」


 軋む音とともに扉が開かれる。

 中はこれまでの部屋とは違い、血や臓物ではなく、紙と薬品の匂いに満ちていた。


 壁一面の棚には記録簿が詰め込まれ、机の上には図面や計算式の走り書きが散乱している。

 瓶詰めにされた黒い結晶の欠片や、失敗作らしき魔法陣の断片も無造作に置かれていた。

 乱雑でありながら、ここが研究の中心だったことを示していた。


「黒結晶の生成過程や術式の応用……全部ここにある」

 アストレイは言葉少なに告げたが、その声には陰が差していた。


 ジンガは担いだ生存者を壁際にそっと下ろし、棚から一冊を抜き取る。

 ぱらぱらと頁をめくり、目を細めた。

「これだけあれば、依頼の証明には十分だな」


「《メニュー》」

 ジンガの呟きに応じて視界の端に淡い光が走り、半透明のウィンドウが展開される。


 表示された五項目から《所持品》を選び、仕舞うべき対象を指定してひとつずつ収納していく。


「……空間魔術?」

 物が次々と消えていく様を見て、アストレイは唖然とした表情を浮かべた。

 空間魔術の構築や発動は、あらゆる魔術の中でも最高難度に位置するからだ。


「まあ、そんな感じだ」

 ジンガは軽く答えた。

 実際には空間魔術ではないが、説明する気はなかった。


 資料がすべて消えたのを見計らい、ミササギが口を開く。

「この建物、どうする?」


「他に生存者がいないか確認したら……戦闘で倒壊したように見せかけよう」

 ジンガは静かに言葉を継ぐ。

「そして、アストレイは戦闘で死んだことにする。それでいいよな?」


「それが一番楽そうだよな」

 ミササギは肩をすくめ、小さく吐息を漏らした。


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