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ラウ・ファミリア ~正しさよりも、共にある温もりと優しさを~  作者: 言ノ悠
第一話 パーティ結成、そして事件発生
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「ま、マジで助かった……」

 ジンガは尻もちをついたまま、荒い息を吐きながら呟いた。


「油断しすぎだ。ここは敵陣の真っ只中だぞ」

 ミササギは振り返らず、前方の魔物から視線を逸らさない。声には呆れと警告が混じっていた。


 その眼差しは冷ややかに敵の全身を測っていた。

 鱗に覆われた外皮は石のように硬質で、筋肉は不自然なほど膨れ上がっている。

 両腕には鎌のような爪が備わり、血走った双眸は獲物を射抜くように輝いていた。


 人の形をかろうじて留めながらも、そこに理性は微塵もない。

 ただ不気味で、禍々しい存在。まさしく魔人と呼ぶほかない異形だった。


 一瞬、その双眸に敵意が閃く。

 反射のようにミササギの刃が走り、首筋を斬り裂いた。


 だが、異形は止まらなかった。

 裂け目から血ではなく黒い瘴気を噴き上げ、強靭な脚でミササギの腹を蹴り飛ばす。


「ミササギっ!」

 ジンガが叫んだ。


 轟音とともに、ミササギの身体は豪奢な建物の壁に叩きつけられ、石壁に大きなひびが走る。


「……おいおい、どういうカラクリだ?」

 それでもミササギに目立った傷はなかった。蹴りを受ける直前に後方へ飛び、衝撃を逃がしていたのだ。

 壁に叩きつけられた痛みは確かに残っていたが、大したことではない。


(首を斬られたなら、視覚は奪われているはずだ)

 想定外ではあった。だが、今ある情報だけでは答えに辿り着けないことも明白だった。


 だからこそ、再び視線を魔物へと向ける。


「《ストーン・プリズン》!」

 ジンガが魔術を放つ。魔物の足元から細い石柱が次々と生え出し、檻のように囲い込んでいく。


「《アイアン・チェーン》!」

 さらに続けざま、四方から鎖が伸び、腕と脚を絡め取った。


 魔物は呻き声を上げ、鎖を軋ませながら暴れる。

 頭部を斬り落とされているはずなのに、動きはジンガを目掛けているように見えた。


(……どこかに、この化物を操っている術者がいるのか?)

 ミササギは冷静に可能性を探ったが、確かな手掛かりは得られなかった。


(いるとすれば、この建物の中か……)

 彼は豪奢な造りを見上げる。


(あの窓だけ、開いている。二階……いや、三階か)

 他の窓はすべて厚いカーテンで閉ざされているのに、その一角だけが不自然に丸見えになっていた。


「ジンガ! そいつは任せた!」

 ミササギはそう叫ぶと、戦闘に戻らず、閉ざされていない窓の死角を探るように歩を進めた。


 ミササギは豪奢な建物の正面に立った。

 黒鉄に金の装飾を施した二枚扉は威圧感に満ち、外からの侵入者を拒むかのように沈黙している。


 取っ手を握って押し開けようとしたが、びくりとも動かない。

(……やはり鍵が掛かっているか)


 背後では魔人の咆哮とともに地を揺らす衝撃が響いていた。

 ジンガが応戦しているのは間違いない。長く迷っている余裕はなかった。


 ミササギは刀を構え直し、一気に斬りつける。


 重厚な扉は金属音を響かせて裂け、亀裂が走る。

 さらに力任せに押し込むと、扉は軋みながら内側へ倒れ、暗い口を開いた。


 刀を構えたまま隙間をくぐると、鼻腔を刺す鉄の匂いが一気に濃くなる。

 靴底に張りつく感触――血だ。


 赤黒い痕が廊下いっぱいに広がり、掌の跡や扇形の飛沫が壁に点々と残っている。

 手すりには指の跡が連なり、階段へと続いていた。


 家具は倒れていない。食器も落ちていない。整然とした秩序だけが残り、その上に血だけが重ねられている。

 死体はなく、足跡と引きずられた痕跡が奥へと伸びていた。


 ミササギは刃先をわずかに下げ、廊下の中央を避けて壁沿いを進む。

 血の筋は階段へ集中している。上階へ逃げたか、運ばれたか。


 乾いた血が靴裏で割れ、細かな音を立てた。

 息を整え、一段、また一段と踏み出す。


 そのとき――耳を裂くような音とともに光が奔った。


「……っ!」

 咄嗟に身を捻り、床を蹴って飛び退く。

 直前まで立っていた場所を炎の槍が突き抜け、赤黒い床をさらに焼き焦がした。


(魔術……! やはり、この建物の中に……)


 顔を上げた先、二階の廊下。

 厚いカーテンが揺れ、その隙間から黒い外套の影がこちらを見下ろしていた。

 光の残滓に浮かび上がったその姿は、一瞬で消え去る。


「逃がすか」

 低く呟いた声は、刃鳴りとともに鋭さを帯びた。


 影は踵を返し、二階の奥へと走り去る。

 ミササギはすぐさま駆け出した。血塗れの床を踏みしめ、赤黒い雫が飛び散る中で階段を一気に駆け上がる。


 廊下に飛び出した瞬間――そこにはもう誰もいなかった。


 左右に伸びる廊下、扉はすべて閉ざされ、カーテンも静止している。

 魔力の気配は残っているのに、姿だけが煙のように掻き消えていた。

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