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ラウ・ファミリア ~正しさよりも、共にある温もりと優しさを~  作者: 言ノ悠
第一話 パーティ結成、そして事件発生
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 城門は開かれていた。

 そこには見張りの兵士すらいなかった。


 ジンガはちらりとミササギに視線を送る。

 ミササギは無言で頷き返す。


「気を抜くなよ」

 その一言を合図に、二人はオルガウスト辺境都市へ足を踏み入れた。


「大きい都市だな」

 ジンガが低く呟く。


「静か過ぎる」

 ミササギが応じる。


 二人の言葉は似ているようで、まったく違っていた。

 だがどちらも、この都市の異様さを言い当てていた。


 大通りは王都に匹敵するほど広く、石畳も整えられている。

 しかし歩く人影は一つもなく、両脇に並ぶ商店も窓も扉も固く閉ざされていた。


 人気のないはずの街路には、落ち葉も塵もなく、異様なほど清潔さが保たれている。

 それがかえって、ここが「今も人が住んでいる都市」であることを突きつけていた。


「気味が悪い」

 ジンガが息を潜める。


「気色が悪いな」

 ミササギは周囲を見渡しながら、柄に手を添える。


「領主のところに行ってみるか」

 ジンガが提案する。


「会えるかはわからないけどな」

 ミササギは肩をわずかにすくめた。


 二人の視線は、街の中央にそびえる建物へと向かう。

 城のように見えて、城ではない。だが間違いなく、この都市の中心を示すかのように豪奢な造りを誇っていた。


「あれに居ると思っていいのか?」

 ジンガが問いかける。


「俺もこの街は初めてだ。詳しくはわからん」

 ミササギが吐き捨てるように言った。


「とりあえず、行ってみるか」

 ジンガが結論を出し、背筋を伸ばして歩き出す。


 件の豪奢な建物に着くまで、二人が住民の姿を見ることはなかった。


 門柱の間には鉄の柵が伸び、広い敷地を囲っている。

 その向こうに建物が静まり返って佇み、白い壁が夕陽を鈍く反射していた。


「入るぞ」

 ジンガが足を踏み出す。


 だが次の瞬間、透明な壁に叩きつけられたような衝撃が走った。

 空気が弾ける音とともに、二人の身体は敷地の外へ押し返される。


「……結界か」

 ミササギが刀の柄に手を添え、低く呟いた。


 ジンガは眉を寄せ、目の前の空間を指先でなぞる。

 見えない膜が確かにそこにあり、指先を押し返してきた。


 無人の都市、豪奢な建物、そして侵入を拒む結界。

 その不気味さが三重に重なり、場の空気は一層張り詰めていく。


「壊していいよな?」

 ジンガが確認するように言う。


「壊すなら、俺がやる」

 ミササギは即答し、静かに刀を抜いた。


 刃が振り下ろされると同時に、結界は軋むような音を立てて裂け、亀裂が走る。

 次の瞬間、砕け散る硝子のように割れ、そこから吹き出したのは冷たい瘴気だった。


「……なんか、めちゃくちゃ寒気がする」

 ジンガが思わず肩をすくめる。吐く息さえ白くなりそうなほど、ぞわりとした冷気が肌を這い上がってきた。


「不気味だな」

 ミササギも眉をひそめ、嫌悪を隠さなかった。


「不法侵入にはなるけど、このまま帰るわけにはいかない。……門を飛び越えるぞ」

 ジンガの声は硬い。住民の姿が消えた街並みと、この異様な屋敷を前にして、何もせず引き返すという選択肢は彼にはなかった。


「俺もその気だ。行こう」

 ミササギの即答を合図に、二人は高さ三メートルほどもある鉄柵へと取りついた。筋肉の動きだけで難なくよじ登り、そのまま強引に飛び越える。


「よっと」

 ジンガは軽やかに敷地内へと飛び降りた。続いてミササギも、息一つ乱さず隣に着地する。


 その瞬間だった。呻き声にも似た低い音が、敷地全体に響き渡る。


「……これ、罠か?」

 ジンガが声を落とす。


 次の刹那、一気に光が走った。地面に幾重もの紋様が浮かび上がり、無数の魔法陣が照明のように点灯していく。


「押して通る」

 ミササギは抜いた刀をそのままに、腰を沈めて戦闘態勢へと移行した。鋭い視線が周囲を掃き、いつでも斬り払えるよう全身に力が漲っている。


 やがて、無数の魔法陣から影が這い出すように姿を現した。

 ひとつ、またひとつと数を増やし、やがて敷地全体を覆い尽くすほどの数になる。


 現れたのはゴブリン、オーク、そしてゾンビ。

 いずれも人型ばかりで、その歪んだ輪郭が一層の嫌悪感をかき立てた。


 濁った眼、よだれを垂らす口、膨れ上がった四肢――。

 それが数え切れないほど並び立つ光景は、理性を持つ者にとって悪夢そのものだった。


「俺がやる」

 ジンガは一歩前に出た。


「《インフェルノ・サークル》」

 右手を大地に叩きつけるように置いた瞬間、炎を帯びた光の円が周囲へと走り広がる。

 地表に刻まれた円環は灼熱の輪となり、触れた魔物を片端から蒸発させていく。

 線が駆け抜けた跡には、黒く抉られた大地と赤々と燃え盛る火柱が残り、敷地全体を炎の檻のように包み込んだ。


「やっぱり、この手の話で、ジンガ以上に優秀なやつはいないな」

 ミササギは、ジンガの行動がいかに効率的かを改めて実感していた。


 広範囲の魔物を殲滅すると同時に、それらを召喚していた地面の魔法陣ごと、まとめて消し去ったのだから。


「褒めても何も出ないよ」

 ジンガは軽く言い放ち、建物へ向かって足を踏み出した。


「待て!」

 ミササギが鋭く声を上げ、ジンガの首根っこを掴んで一気に後ろへ引き戻す。


 その瞬間、ジンガが立っていた石畳が爆ぜるように砕け散り、巨大な影が地中から飛び出した。

 漆黒の鉤爪が空を裂き、石屑を撒き散らす。


 あと一歩でも遅れていれば、胸を貫かれて即死していたに違いない。


 現れたのは、背丈三メートルを超える異形の魔物だった。

 硬質な鱗に覆われた体躯、血のように赤い双眼、そして両腕に備えた鎌のような爪。

 それはこの敷地を守護する番犬のように、咆哮を上げて二人を睨み据えていた。


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