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「ありがとう。助かった」
ジンガはミレイのそばに歩み寄り、素直に礼を口にした。
「ま、私が居なくても怪我はしなかったでしょ」
ミレイは彼の装備にちらりと視線を向ける。
ジンガが身に付けているのは、かつてVRMMO 《ワールド・クロス・オンライン》でラスボスを倒した時に得たドロップ品だった。
それを知っているからこそ、彼女は軽口を叩いているのだ。
「いや、痛いのは嫌だから……やっぱり助かったよ」
その軽口に、ジンガは眉を顰めながら言い返した。
「そっか。そう言ってくれるなら、来た甲斐があったね」
ミレイは目を細めて、軽く肩を竦めた。
「君の名前、聞いてなかったな」
ジンガの後ろから、騎士団長の声が響く。
「聞かせて、くれないか?」
その声音には畏怖が滲んでいた。先ほどの魔術の特異性を、正しく理解していたからだ。
本来の魔術は長ったらしい詠唱が必要となる。だがしかし、彼の術式は酷く短く速射性が高い。
騎士団長は今までの人生で、たった一言二言の詠唱で、ここまでの規模の魔術を見たことが無かった。
「ジンガです」
ジンガは無警戒にも、あっさりと名を答えた。
「……ねえ、気に入らないんだけど」
ミレイは対戦車ライフルを消し、左腰の拳銃を抜き、騎士団長の額に向けた。
「先の一件について、ミササギとジンガは報酬の話をしなかった。
二人が感謝を欲しくて戦ったわけじゃないのはわかってる。だから言い出すはずもない」
オーク、そしてオークジェネラル討伐の件を引き合いに出しながら、ミレイは目を細める。
「でも、他人の優しさに漬け込んで、それを消費するだけの人間って、私ほんと嫌い。
この国は確かに住み心地はいいし、他の国よりはずっと住みやすい。
……でも、性根は腐ってるよね」
とても気分の悪いものを見るような目で、ミレイはつらつらと言葉を重ねた。
「ジンガ、止めなくていいよ。私はミササギみたいに沸点は低くないから」
(いや、銃を抜いた時点で十分低いだろっ!?)
否定の言葉が喉まで込み上げたが、この場で口にするのは得策ではないと、ジンガは唇を結んだ。
「……好きにするがいい」
銃口を突きつけられた騎士団長は、しかし眉ひとつ動かさない。
「私がこの場で倒れたとしても、残る者が国を守る。それが王国騎士団の在り方だ」
その声音には揺るぎがなく、兵を率いてきた者の矜持がにじんでいた。
「それって結局、使い潰すのが前提ってことでしょ。覚悟って言えば聞こえはいいけど、私からすればただの強がり」
ミレイは銃を下ろした。だが腰へ戻すことはなく、引き金に指をかけたままだった。
「帰るよ」
短い一言を残し、彼女は歩き出す。
その有無を言わさぬ圧に、ジンガは彼女を追い掛けるしかなかった。
屋敷に帰ると、エリシアがジンガの帰りを迎えてくれた。
ミササギには、呆れたような目を向けられたが、彼は何も言わなかった。
そして――七日後。
《ラウ・ファミリア》に対して、正式な指名依頼が届けられるのだった。




