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厚い扉を震わせた衝撃音は一度きりでは終わらなかった。
続けざまに怒号が響き、甲冑の擦れる音が廊下に満ちていく。
「騎士団長様! 失礼いたします!」
扉の外から衛兵の切羽詰まった声が飛んだ。
騎士団長はすぐに立ち上がり、低く命じる。
「入れ」
扉が荒々しく開かれると、血相を変えた衛兵が駆け込んできた。
「城下で魔物が発生しました! 数も規模も不明ですが、被害が拡大しつつあります!」
応接室にいた全員の表情が引き締まる。
静謐な空気は一瞬で消え去り、代わりに戦場の気配が流れ込んでくる。
「突然現れる……状況が前と同じだな」
ミササギはそれだけを呟いた。
「悪いが、本日はここまでだ。私は現場に向かう」
騎士団長は勢いよく立ち上がり、報告に来た衛兵と共に応接室を後にした。
「……勝手に帰っていい、ってことだよな?」
ジンガがぽつりと口にする。
「じゃない? ミササギもジンガも、見には行かないんでしょ?」
ミレイが肩をすくめて答えた。
その直後、再び床がわずかに揺れた。
カタリ、と燭台が鳴る。
間を置かず、もう一度小さな震動が走り、炎が細く震え続ける。
「う〜ん……」
その性格ゆえか、ジンガはとても迷ったような表情をしていた。
その時、外から再び甲高い怒号が響いた。
今度は複数の声が重なり、甲冑のぶつかり合う金属音が廊下を揺らす。
床下を伝う震動が続き、まるで戦いがすぐそこまで迫っているかのようだった。
「……先に帰っててくれ」
ジンガは短くそう告げ、椅子から立ち上がった。
ためらいを押し隠すように、静かに扉へと歩を進める。
「ジンガ様、お気をつけて」
エリシアは迷いのない声で告げた。
「……わかってるよ」
ジンガはその声に応えるように、ほんの一瞬だけ振り返り、そのまま外へと出ていった。
「良かったの?」
ミレイは隣に座っているミササギに視線を向けた。
「さすがにこの大所帯を置いてはいけないだろ」
子供三人に、大人三人。一人減って大人二人。
何かあったときに大人の数が減れば、当然ながら子供たちを守ることはできない。
「私たちなら大丈夫ですよ?」
レイラは照明に当たって透ける銀髪を揺らしながら、ミササギの顔を下から覗き込んだ。
ミササギは一瞬だけ視線を外し、わずかに息を吐く。
「……戦い慣れてない子供が言うことじゃない」
それでも声はどこか柔らかく、彼女を突き放すものではなかった。
「ミササギ、お守り任せてもいい?」
ミレイが椅子を引き、立ち上がった。
「……まあいいけど」
ミササギは肩を竦めて受け入れる。
「じゃあ、私はジンガのサポートに回るから」
ミレイはそう言い残し、開け放たれた扉の向こうへと足を踏み出した。




