ハンターズギルド
プリモの町は高い石壁に囲まれていて、唯一通れるのはこの西門と北門だけだ。いや、
空を飛べる俺は、塀の上から入れるが。
門自体は鉄で造られていて、相当頑丈そうだ。
門周辺には兵士っぽい恰好の、鎧を着た人たちが十人ほど立っている。
ただの警備にしては、やけに人数が多いと思った。普通(一般日本人の二次創作から
得たイメージ)だと、門の左右にひとりずつだと思うが……。それとも、この人数普通
なのだろうか。もしくは、この町では兵士希望者が多く、仕事を持て余しているのか。
俺はヒランヤに、
「警備の数は、これが普通なのか」と訊いてみる。すると、ヒランヤは答えた。
「それは昨日襲撃があったからでしょう」
なるほど。厳戒態勢というわけか。確かに昨日今日なら、まだ警戒しているだろうな。
すっかり失念していた。
辺りを観察している俺にヒランヤは言った。
「中に入りましょう。基本的に人間は素通りできます」
俺が執拗に観察していたから、緊張しているとでも思われたのかもしれない。この世界
ではまだ田舎者なので仕方がない。
俺は頭をかいた。
俺とヒランヤと門へ進む。ヒランヤの言った通り、西門は素通りで入れた。
兵士の何人かが会釈したように見えたが気のせいだろうか。
町の中に入るのは初めてだ。取り敢えず俺は辺りを見渡した。
プリモの町は人通りが中々多く、活気のある町なのが窺える。が、ヒランヤは言った。
「やはり人通りがいつもよりも少ないですね」
それだけ昨日の出来事は、町の人たちに恐怖を与えたのかもしれない。
家は木造の建物から、柱や梁に漆喰やレンガを詰める、ハーフティンバー様式が主流
の建物が多い。この世界の文化レベルなら、妥当だろう。
ヒランヤが、
「行きましょうか」と俺を何処かへ促す。俺はヒランヤにどこに向かっているのか訊い
た。
「取り敢えず、靴ですね」
そういえば、俺は裸足だった。
靴屋に到着し、物色する。
この世界人達は、主にモカシンという革靴を履いている人が多いらしい。ブーツやパ
ンプスもあるが、値段が高く、主に貴族や富裕層の人が履いていることが多いようだ。
ヒランヤは俺様に靴二足と、靴下を見繕ってくれた。そしてそのまま靴下と靴を履い
た。
靴屋を出ると、近くにある服屋に入る。そこで今度は服を選んだ。
パンツにシャツ、そしてズボン。なんかフリフリの付いた服を俺に買い与えようとヒ
ランヤがしたが、丁重にお断りした。そもそもそういうのは貴族とかが着る服で、高い
んじゃないのだろうか? もしかしたらヒランヤって……金持ち?
服を買ったついでに試着室で着替えた。
残りの買った靴や靴下、シャツにパンツにズボンは、ヒランヤの小さなバッグに入っ
た。明らかに収まらない量がバッグに入ったことを訊くと、ヒランヤのバッグは魔法の
バッグで、家一戸くらいの量なら、バッグの中に納まるらしい。なんて便利なんだ。し
かし、そのバッグの値段を訊いてみると、豪邸が建つくらいの値段らしいので、俺は諦
めることにしたと同時に、やはりヒランヤはお金持ちということがわかった。
服屋を出た後は、レストランへ向かった。時間も昼食時なので、丁度いいだろう。
レンガ造りの大きな建物の外に、テーブルと椅子が並んでいる。俺とヒランヤはその
中の椅子に座る。そしてスーツを着た店員さんを呼んだ。
あれ、ここって結構いいレストランなのではと思いつつ、メニュー表を見たら、思っ
たほどよりはリーズナブルな値段のようだ。いや、しかし高い物もある。
ヒランヤに訊いてみると、このレストランはこの町一番の売り上げを誇るレストラン
で、庶民から貴族まで、ターゲット層が広いレストランとなっているそうだ。それと、
この場所は町の中心にあるという立地の良さも、このレストランの魅力となっている。
それと、このプリモの町の領主は庶民と貴族の格差をできるだけなくそうとする政策
をしているらしく、それもこのレストランの人気に拍車をかけているそうだ。
つまりこのレストランは、庶民から貴族まで様々なお客のニーズに答えられる、間口
の広いレストラン、ということなのだろう。
そんな間口の広いレストランなのにも関わらず、ヒランヤはいつもの笑顔で言った。
「お好きな物をどうぞ」
……俺は試されているのだろうか。
好きな物とヒランヤに言われたが、やはり高い物は気が引ける。そうだな……サンド
イッチならそんなに高くないだろう。それとコーヒーをいただこう。
店員さんにコーヒーとサンドイッチを頼むと、ヒランヤは言った。
「遠慮しなくてもいいんですよ」
「そーゆーわけにはいかん。そのうち返す」
「気にしなくていいのに」
そう言いながら、ヒランヤはサンドイッチと紅茶を頼んでいた。お金持ちだが、庶民派
らしい。
昼食を食べた後、俺とヒランヤは当初の予定通り、ハンターズギルドへ向かった。
ハンターズギルドは北門側の間近にあった。
木造の大きな建物の出入口周辺には、冒険者風の人たち居て、何やら真剣な面持ちで
何やら話をしている。ヒランヤとギルド内に入るついでに、何を話しているか聞き耳を
立ててみると、昨日の魔物の襲撃について話しているようだった。ここでも昨日の影響
が出ているようだ。
ギルド内に入り、周辺を見渡す。
ギルド内には四人掛けのテーブルと椅子があり、やはりそこにも多くの冒険者たちが
椅子に座って、何やら話をしているようだ。
受付は奥に四か所。それとボードがあり、そのボードに紙が貼ってある。おそらく依
頼書が貼りだされているのだろう。
ヒランヤは受付を指さした。
「取り敢えず、あなたのハンターライセンスを発行してもらいましょう」
俺は首を縦に振り、受付に向かった。